神の咎が目覚める時——妖精がみた真実
"神の手"が放った怪物との戦い。
封じられた魔女の解放。
俺たちは今、"禁忌"の存在を解き放とうとしている。
囚われていた女——その名はノクシア。
彼女は"破滅の魔女"と呼ばれ、かつて神々に封じられた存在だった。
しかし、この世界で"神の意志"が絶対とは限らない。
彼女の封印を解くことで、俺たちは何を手に入れ、何を失うのか。
——300年の時を経て、語られるべき真実がある。
これは、俺たちが"神に抗う"物語。
そして、"禁忌の力"が再び目覚める瞬間——。
さあ、戦いの幕が上がる。
——"人の住むはずのない場所に、"教会"があった。"
妖精の森を目指し、俺たちは旅を続けていた。
シュエルは相変わらず上機嫌で、羽を揺らしながら飛び回っている。
「ヴァルちゃん、妖精の森ってどんな感じなのかな?」
「お前の故郷みたいなものだろ?」
「う〜ん、それはそうなんだけどさ! でも、ここから見える景色、なんか変じゃない?」
シュエルが指をさした先——。
そこには、あり得ないものがあった。
「……教会?」
目を疑った。
この場所に、人の営みがあるはずがない。
俺たちが進む道の先、静寂に包まれた森の中に、ぽつんと建つ"巨大な教会"。
それは年月を重ねたように見えるが、不思議と風化した様子がない。
まるで昨日まで人が住んでいたかのように、整然としていた。
「おかしい……こんな場所に、教会なんてあるはずがない」
ルシェイドの声が、妙に低く響く。
「確かに……」ダークエルフも険しい表情でうなずいた。
そして、彼女は静かに耳を澄ませる。
「……これは……?」
ダークエルフの表情がわずかにゆがんだ。
「何か聞こえるのか?」
俺が聞くと、彼女は慎重に周囲を見回しながら答える。
「異様な音がする……この教会の中から……いや、地下かもしれない……」
「異様な音?」
ルシェイドが歩みを止め、目を細める。
「何か気づいたか?」
「……この気配……まるで"生者"ではないような……」
「えぇ〜? でも、普通に人がいるように見えるけど?」
シュエルが空を飛びながら、教会のステンドグラス越しに内部をのぞき込んだ。
その瞬間——彼女の翡翠色の瞳が、大きく見開かれる。
「……これ……人……?」
俺たちは身構えながら、ゆっくりと教会へ近づいた。
近づくにつれ、その違和感は確信へと変わっていく。
——あまりにも静かすぎる。
木々のざわめきすら、この場では異様に感じられた。
「ヴァルちゃん……なんか、すっごく嫌な予感がする……」
シュエルの声が小さく震える。
俺も同じだった。
目の前にある教会——"それ"は、ただの建物ではない。
ルシェイドが、ゆっくりと言った。
「この場所……"神の手"の者が関わっている可能性がある」
その言葉に、俺の体が無意識に戦闘態勢に入る。
「……"神の手"か」
あの神々に創られし怪物。
俺の覚醒を阻止し、世界の均衡を"神の望む形"で保つために放たれた存在。
その気配が、ここにある。
「どうする?」
ダークエルフが小声で問う。
俺は、無言で教会の扉へと視線を向けた。
——何が待ち受けている?
人間なのか、それとも……"神の手"の者なのか。
静寂が、不気味に張り詰める。
俺たちは、未知なる"神の教会"の扉へと手をかけた——。
ギィィ……
扉がきしむ音とともに、冷たい空気が流れ込む。
そこは薄暗く、埃っぽい空間だった。
壁の至るところに神聖な紋章が刻まれ、まるでこの場所自体が"結界"であるかのような錯覚を覚える。
「……何かの儀式場か?」
ルシェイドが静かにつぶやく。
その時——
「っ……!」
ダークエルフが耳を澄ませ、目を鋭くした。
「誰かいる」
その言葉に、俺たちの視線が一斉に奥へと向く。
そこにいたのは——
囚われた一人の女。
祭壇の奥、古びた扉の向こう。
薄暗い部屋の中で、彼女は静かに鎖に繋がれていた。
「……!」
壁に拘束されたその姿は、衰弱しきっている。
首には魔法を封印する拘束具がつけられ、手足には"魔封じ"の術式が刻まれた枷。
「……これは……」
俺は近づき、彼女の顔を見た。
淡い銀色の髪。閉じられた瞳。
薄汚れた衣服はボロボロで、長い間ここに囚われていたことを物語っていた。
「……この女、ただの人間じゃないな」
ルシェイドが低い声でつぶやく。
「というか、人間……なの?」
シュエルも目を丸くする。
俺は慎重に手を伸ばした。
——バチィッ!!
突如として魔法陣が発動し、俺の指先が弾かれる。
「……封印魔法か」
俺は手を引き、彼女の拘束を改めて観察する。
(封印魔法を使ってまで、この女を閉じ込める理由は?)
「おい……まさか、この女……」
ルシェイドが低く呟く。
「……この女、ただの人間じゃないな」
「というか、人間……なの?」
シュエルも目を丸くする。
俺は慎重に手を伸ばした。
——バチィッ!!
突如として魔法陣が発動し、俺の指先が弾かれる。
「……封印魔法か」
俺は手を引き、彼女の拘束を改めて観察する。
(封印魔法を使ってまで、この女を閉じ込める理由は?)
ルシェイドがじっと彼女を見つめた。
「……神はなぜ、この女を封じた?」
その言葉に、場が静まり返る。
神が封印するほどの存在。
それは、神にとって"都合が悪い者"ということだ。
「ねえぇ、ヴァルちゃん」
シュエルが翡翠色の瞳を輝かせ、俺の袖を引く。
「この人……本当に助けていいのかな?」
「それを決めるのは俺たちじゃない」
俺は目の前の女性をじっと見つめた。
「——お前は、何者だ?」
俺の問いに、彼女の瞼が、わずかに震えた。
長く閉ざされていたその瞼が、ゆっくりと開かれる。
(この女は……?)
一瞬、教会の奥にこもる"何か"が揺らいだ気がした。
「——そういうことかぁ」
突然、シュエルがにやりと笑う。
「ねえヴァルちゃん、助けちゃう?」
「待て、シュエル」
俺はすぐに決断しなかった。
この女は一体何者なのか? なぜ"神の手"は彼女を封じた?
助けるべきか——それとも……
「……お前は、本当にただの人間なのか?」
俺の問いに、彼女は静かに息を吐く。
その瞬間——
シュエルの翡翠色の瞳が、ふっと光を帯びた。
「ヴァルちゃん、ちょっと待って!」
彼女は妖精の眼を開き、女性の魔力を測定し始める。
「……んん? えーとね、これは……」
シュエルの顔が、じわじわと強張る。
「やばいよ、これ。魔封じ状態でこれって、めちゃくちゃ強い。いや、めちゃくちゃ"濃い"って感じ?」
「……どういうことだ?」
ルシェイドが、興味深そうにシュエルを見る。
「属性は氷と……えっ、雷?」
シュエルが驚きの声を漏らす。
「ヴァルちゃん、これって変じゃない? 氷と雷を両方持ってるなんて……」
「そうだな….」
氷と雷——
凍てつく冷気と、天を裂く閃光。
まるで、相反する破壊と静寂が同居しているような、強烈な魔力の組み合わせ。
「お前……本当に何者なんだ?」
俺の言葉に、女性は口を開くことなく、ただ静かに微笑んだ。
その時——
——ズルリ。
暗闇の中、何かが蠢いた。
それは、闇よりもなお黒く、泥のようにゆがんだ影。 教会の壁や天井を這い、まるで"生きている"ように動く。
「……あー、これ絶対ヤバいやつ」
シュエルが顔を引きつらせる。
「ヴァルちゃん、これ、間違いなく"神の手"の気配だよ」
「……だろうな」
俺は剣を握りしめた。
「準備しろ。こいつを倒さないと、魔女を解放するどころじゃない」
「了解! っと、その前に……」
シュエルが口を尖らせながら、俺の腕を引いた。
「ヴァルちゃん、何か変なの出てきたよ?」
俺は視線を巡らせ、祭壇の奥に目を向ける。
そこには、まるで粘液のように**不定形の"何か"**がうごめいていた。
闇よりも深い黒。
ドロドロとした影が、壁や天井を這い回りながら形を変え、まるで生き物のように脈動している。
「……これが"神の手"か」
ルシェイドが剣を構える。
「"神の造りし怪物"——"アポストル"の本性だ」
その瞬間、"影"が牙を剥いた。
——ズアアアッ!!!
壁から天井へ、そして床へと這い回る闇の波。
その中から、複数の黒い腕のようなものが伸び、一気にこちらへ襲いかかる!
だが——
次の瞬間、それは"人の形"を取った。
「……その女に触れるな……」
低く、異様な響きを持った声。
男の姿をした"何か"が、俺たちの前に立ちふさがった。
「!?」
シュエルが瞬時に妖精の目を開き、警戒の色を見せる。
「……人間の匂いじゃない」
彼女はピクリと鼻をひくつかせた。
次いで、顔をしかめる。
「……吐瀉物の匂いがする」
その言葉を聞いた瞬間——
——ズルリ。
男の皮膚が"剥がれ"た。
人間の姿を模していたそれは、たった一瞬で"粘液の塊"へと変わり、再び這い回る影となる。
「やはり、お前も"神のゆがみ"か」
俺は低くつぶやき、剣を構えた。
ルシェイドも冷たく目を細める。
「……"神の造りし怪物"。生きていた人間の脳を奪い、記憶ごとコピーする能力を持つ……神が生み出した最高の傀儡だ」
「最悪の間違い、って言ったほうがいいんじゃない?」
シュエルが嫌悪感を露わにする。
怪物は、次の標的を定めたように、粘液の体を揺らしながら"魔女"へと視線を向けた。
「……その女に、触れるな……」
再び、同じ言葉を繰り返す。
だが、その瞬間——
——ザンッ!
ルシェイドが、断魔剣で魔女の首元を縛る拘束具を断ち切った。
「チッ……」
ルシェイドが剣を払う。
「これでひとつ、解除だ」
残る拘束は、両手と両足。
魔法を封じる術式は、施した者にしか解除できない仕組みになっている。
「いや。私ならできる。術式を施した者が誰なのかが分かればだが……」
その言葉を聞いたシュエルが、目を輝かせながら微笑む。
「だったら簡単だよ。記憶を見れば分かるよね?」
「ねえ、ヴァルちゃん?」
シュエルがふわりと俺の前へ飛び出した。
「私、あんたの記憶の中に入るから……魔封じ解除ぐらい自分でしてね?」
「……記憶に入る?」
俺が問うより早く、シュエルは魔女に向き直る。
「ねえ、あなた。ちょっとだけ、私に"許可"してくれない?」
魔女は沈黙する。
だが、その瞳には、わずかに"驚き"が浮かんでいた。
「……妖精が、人の記憶を視ると言うの?」
「うん! できるよ。というか、それしないと、このままじゃあなた……この怪物に喰われるよ?」
シュエルはにっこりと微笑む。
魔女は、一瞬だけ迷い——そして、小さくうなずいた。
——次の瞬間、シュエルの身体が淡い光に包まれる。
翡翠色の魔力が舞い、シュエルの目が妖しく光を放った。
「さぁ……見せてもらおっか」
彼女の手が、魔女の額に触れる。
——そして。
俺は、シュエルの表情が変わるのを、見逃さなかった。
彼女は何かを"視た"。
そして——
その翡翠の瞳が、驚愕に染まった。
「……これって……」
シュエルの声が、わずかに震える。
彼女は、一歩後ずさった。
「あなた……"破滅の魔女"……?」
その名が、空間に響く。
ルシェイドの表情が、微かに動く。
そして——
魔女は、淡く微笑んだ。
まるで、それを"認める"ように。
「——ええ、そうよ」
冷たく、けれどどこか慈しむような声が、静寂を切り裂いた。
俺たちは、今まさに"禁忌"を解き放った。
ノクシア——破滅の魔女。
かつて"神々の理"に背き、世界を滅ぼしかけた魔女。
その存在を、神は恐れ、封印していた。
「……ふぅ」
封印が解けた瞬間、ノクシアはゆっくりと瞳を開いた。
蒼く深い光が、その奥底に宿っている。
——ズルリ。
"神の手の使徒"がうごめく。
無数の黒い影が、俺たちを飲み込まんと牙を剥いた。
「邪魔ね」
ノクシアは、静かに指を掲げる。
「——絶対零度。」
その声と同時に、空気が一瞬で凍りついた。
「……!!」
"神の手"の怪物たちが、まるで時間が止まったかのように動きを止める。
全身が氷結し、黒い闇が凍てつく光の中で弾けた。
「おいおい……やりすぎだろ」
ルシェイドが剣を肩に担ぎながら、不満そうに言った。
「壊せるのは今のうちだ」
俺は剣を構え、一気に跳躍する。
——斬撃が閃く。
ルシェイドと俺の刃が氷の中の怪物を断ち切るたびに、砕けた影はゴミとなり、消えていった。
凍った怪物が一体、また一体と崩れ落ちる。
「フン、やはり"神の手"といえど、所詮は造られた存在か」
ルシェイドが皮肉気に笑う。
ノクシアは静かにその光景を眺めながら、ふとつぶやいた。
「——久しいな」
その声に、俺とルシェイドは同時に振り向く。
ノクシアは虚空を見つめ、わずかに微笑んだ。
「……300年ぶりか?」
——彼女が話しかけた相手とは、一体……?
神々に封じられた"破滅の魔女"が覚醒した今、
この戦いは、新たな局面へと突入する。
次なる試練が待ち受けることを予感しながら——俺たちは、妖精の森へと歩みを進めた。
[シュエルのつぶやき]
「……ねえ、ヴァルちゃん」
「ん?」
「300年ぶりって、誰のこと?」
ほら、あのノクシアって魔女が、すごく意味深に言ったじゃん。
まさかヴァルちゃんのこと? それともルシェイド?
……いやいや、どっちにしても300年って長すぎない!?
それにさ、ノクシアってただの魔女じゃなかったよね?
なんか、あの目……ヴァルちゃんのこと、前から知ってるみたいな感じだったし。
封印されてたくせに、全然動揺してないし、むしろ楽しんでるっぽかったし。
「久しいな」なんて……余裕ありすぎじゃない?
しかも、ヴァルちゃんもルシェイドも普通に怪物倒しちゃってさ、
いや、すごいんだけどね!? もっとこう、やばい展開になるかと思ったら、
まさかの瞬殺だったよね!? あの"神の手"って、そんなに弱いの?
……いやいや、たぶん違うよね。強かったはずなのに、ヴァルちゃんたちが強すぎるんだよね。
となると、次はもっとヤバいのが来るってことじゃん……!!
はぁ……こうなったら、私も鍛えとこっかな?
妖精って戦うイメージないけど、ヴァルちゃんのそばにいたら、絶対狙われるし。
あ、そうそう! ここまで読んでくれたみんな、ありがとう!!
ブクマとか、してくれるとすっごく嬉しいなぁ♪
次回、ますますヤバい展開になりそうな予感……神の罪って、一体何なの!?
……ヴァルちゃん、また記憶戻っちゃうのかな?
うーん、気になることが多すぎる!!
次回もお楽しみに!!