荒波の如く
弘治三年(1557年)美濃国。朝倉義景率いる5000の軍は本巣の地に布陣。
朝倉軍の先鋒、河合吉統と斎藤軍の日根野弘就が激突し、戦の火蓋が切って落とされた。
「うおおおおおお!!!我こそは河合安芸守吉統なり!この首を獲れるものなら獲ってみよ!!」
吉統の挑発に斎藤軍はいきり立ち猪の如く突進してくる。
「油断しおって!今じゃ!横槍を入れよ!」
そこに義景の叔父、朝倉景紀の部隊が横槍を入れる。
兵数差に対する油断、武功に対する焦燥感が斎藤軍の乱れを生んだ。
「しまった!ぬかったわ!」
日根野弘就は動揺し叫んだ。
兵たちの士気が徐々に上がっていく。この戦、勝てる、と。
朝倉勢の攻撃は一段と激しくなる。日根野隊も徐々に前線を押し上げられ、初めは数千騎であった数も500騎程度まで減らされていた。挟撃が効果的であったことは事実であるが、それにしても朝倉軍が以外にもまともに戦えたことが証明されたのだ。
「引けいっ、引けいっ!」
弘就は残った兵たちに撤退の命を下した。乱戦の最中に密書が届けられたのだろうか。ほどなくして敵の新手が現れる。開戦から三刻(六時間)が経過していた。
それから幾ばくか経った頃。朝倉本陣の義景の元に弥次郎が駆け込んだ。相変わらず全く音を出さぬ。
「殿、河合殿と景紀殿の奮戦により敵の日根野隊は撤退した模様」
「ようやった!」
「されどどうやらすでに新手が出てきたようにございまする。」
「義龍めの本陣はどうじゃ?」
(本陣を気にするとは、、何か考えておるな、、?)
義景の言葉に光秀はそう思った。
「どうやら手薄のようにて」
にやりと口元を緩め弥次郎が言った。
ふと光秀が横を見ると満面の笑みを浮かべる吉家がいた。こいつ、、分かっていたのか、、
(これには魚住殿も驚くだろうな、、)
「うぅむ!よかろう!景鏡に伝えよ!夜になったならば義龍本陣を急襲し、首を獲って参れ、とな!!」
(や、夜襲とは!考えたなこいつ、、いやいやいけるとは限らないし、、)
「光秀殿、、夜襲の力は坂東にて北条が示しておりまするぞ。」
急に耳元で囁かれたので光秀はぎょっとした。こいつ、、心を読めるのか!?
そんなことはどうでもよい。だが吉家の度重なるフォローに光秀は義景の采配が戦を導くのでは、、と考えるようになっていた。
「皆、動くぞ。吉家はここに居れ。本陣を任せるぞよ」
「ファッ!?」
急な行軍命令に光秀は思わず声を出してしまった。
「何を驚いておるのじゃ、十兵衛。儂自らが敵の首を狙わずして如何とす?」
(こ、、こいつやってしまう気だなッ!?)
にしても何故伝えなかったのか、、義景自らが奇襲をするというのは当初の計画にはなかったこと。だが、義景はそれが今でいうサプライズ登場みたいな感じで盛り上がると考えたらしい。たまげたなぁ。
朝倉勢は本陣にわずかな兵を残し、1000の兵で山を遠回りし景鏡と合流することに。
夜襲というのはもちろん危険を伴う。敵勢に悟られれば自らの首と胴が却って泣き別れになるのだ。それでも義景はやるというのだ。天下を目指す初戦にしては大きな博打に出やがったのだ。
この義景の心意気はどう出るのか。常識的に考えたら裏目に出て噛ませ犬になるような気がしてしまうが、、、
その夜。
「景鏡、かたじけない。そなたのおかげで奇襲ができるぞよ」
「もったいなきお言葉でござる。義龍めの首、必ずや持って帰ってきましょうぞ!」
突然の義景ご登場に兵たちは高揚していた。それもそのはず。よくわからないまま伏兵として連れ出されたのだから見捨てられたような気がしてたまらなかった。そんなところに総大将が参上したならば、「俺たちは見捨てられていない!勝ちに行くぞ!」そう思って心躍る。
森の中から光秀は斎藤軍の本陣を見つめる。中央に居座る巨漢。あれこそ長良川で己の旧主を亡き者にした斎藤義龍であろう。国を追われ、よくわからぬ公家擬きの元に仕え、出奔しようとしていたあの頃には考えられなかった光景。光秀の目には燃える魂が宿る。
己の非力さに向けられた槍に心を刺される中で、天下を目指すと心から決心し、朝倉の主としてあるべき姿を示す義景の目にも紅の炎が宿っている。
戦に燃える義景の姿は、兵たちにはまるで祖父、宗滴のようであった。
「臆せず突き進め。目指す先はただ一つ。分かるな。」
静かながらも凛とした声で言う。
光秀と共に従軍していた秀満はもうすっかり義景に魅了されたらしい。武者震いで五月蠅いくらいだ。
義景はすくっと立ち上がり、馬の手綱を持つ。一気呵成に斎藤本陣へ先陣を切った。
「な、なんだ!?敵襲かっ!」
幸い雨が降っており夜襲は見事に成功。斎藤軍の本陣には三盛木瓜の旗が続々と掲げられた。
「義龍!覚悟――――ッッッ!!!」
義景の刀が義龍の首めがけて目一杯振りかぶられる。義龍はこれに応戦。刀で打ち返す。
「おのれ、、ッ!!」
刀で撃ち合う音が響く。だが、
急に義龍が崩れ落ちた。その後ろには光秀の姿があった。
「ぐ、、、卑怯なり、、明智、、」
「ふう、、光秀!ようやったぞ!一騎打ちなんぞくだらなかったな!」
「喜んでる場合ではござらぬ!ここは敵の本陣!残党を片付けなされ!」
なんと敵の総大将を討ち取る大戦果、、というところだが本陣という敵の奥地なので何とか脱しなければならない。大丈夫かっ!?
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