You kill me.
若干グロ注意です。
ただ呆然と立ち尽くす僕の視界は、赤だけで彩られていた。
静かな木立の中、彼女の呼吸音だけが生々しく響いてくる。
何故彼女が血に濡れて倒れているのかさっぱり分からない。
そうしている間にも彼女の息はどんどん荒く、細くなっていく。
ふと、自分の手が何かを握っていることに気づいた。
そして僕は、彼女を凝視していた目をそちらへ向けた。
「…え…?」
僕が握っていたのは、赤黒いものがこびりついた刃物だった。
「うっ…ぐ…」
それを見た途端に酸味のある液体がせり上がってきた。
僕は、しばらく膝をついた体勢から動けなかった。
その時、微かに背中から濡れた笑い声が聴こえた。
首だけで振り返ってみると、彼女の唇は歪んだ弧を描いていた。
「は…な、に…笑って…」
「ははっ…やっと、もとの貴方に、戻ったんだ…?」
戻った…?
彼女は何を言ってるのだろうか…。
僕が考えていると、
「…まだ気づかないフリをするの?私は、貴方が知らない間に、こんな風に、なったわけじゃない…。私を、傷つけたのは…」
彼女はそこで言葉を切った。
虚ろなのにどこかぎらついた瞳が、僕に事実を突きつける。
あるはずのない答えが、映像が、頭の中に流れ込む。
…そうだ…僕だ。
彼女をこの森に連れてきたのも、彼女を刺したのも、全て僕だ。
そう思い出した瞬間、僕は笑っていた。
僕は、気づいてしまったのだ。
僕の中に、確かな狂気があることに。
ふと彼女を見やると、瞳に涙が浮かんでいた。
僕を憐れむような目に、再び僕の狂った炎が燃え始めた。
近くに転がしていた血塗れの刃物を手に取り、立ち上がった。
少しふらつく足で彼女に近づく。
「君が悪いんだ。そんな目をするから…。」
そして彼女の首筋に刃先を当てた。
彼女の白い肌の弾力が生々しく伝わってくる。
腕を振り下ろす瞬間、彼女の唇が動いた。
「愛してる」
僕もだよ、と口の中で呟いて、僕は完全に消えた。
君が、マトモな僕を殺したんだ。