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7・三年後・ヴォレンス視点

●オディアム歴990年(フィオナが追放されてから3年後)ヴォレンス視点


 3年前にフィオナとの婚約を解消し、愛しいマリーユと結ばれ、僕には輝かしい人生が待っているのだと思っていた。


 だが、結婚してすぐに思い知ることになった。マリーユは僕を愛していない。夫婦のスキンシップとしてハグやキスをしてもちっとも嬉しそうじゃないし、夜の営みだって全然積極的になってくれない。それどころか、「他の殿方としたことなんてないとはいえ、あなたって『下手』なんじゃないの?」と文句を言ってくる始末。結婚前は僕のことを好きだと言ってくれたのに、なんて態度の変わりようだ!


 夫婦として傍で見ていて、なんとなく気付いたのだけど――マリーユは僕を愛していたのではなく、ただフィオナの婚約者だった僕を略奪することを面白がっていたんじゃないだろうか? 


 貴族の夜会で、聞いたことがある。世の中には、他人の恋人を奪うことに愉悦を感じる人間が存在するのだ、と。手に入らない、他人のものだからこそ、奪ってやりたくなる。他人のものだから良く見えただけで、自分で手に入れてみたら飽きてしまう……ただのゴミと化すのだと。


(フィオナは……マリーユよりずっと地味だったけど、いつも嬉しそうに僕の話を聞いてくれたな)


 それに、彼女は勤勉だった。幼い頃から語学や算術を学び、伯爵家の令嬢でありながら、家に訪れる貿易商の話も興味を持って聞いていた。


 マリーユは、もっといい生活のために商売を始めるべきだと言うだけ言って、僕を手伝いもしない。おかげで僕は商売に失敗し、今ではあいつはダメ領主だと後ろ指を指されている。


 妻になってくれたのがフィオナだったら。彼女はきっと僕が商売を始めても、一緒に頑張ってくれた。フィオナは頭がいいから、いろいろ僕にアドバイスをくれて、僕を成功に導いてくれたはずだ。マリーユに誘惑されず、フィオナと結婚していたら。僕はフィオナに支えられ、いい領主になれたかもしれない。


 領主としての仕事はうまくいかず、家ではマリーユに役立たずのように扱われ、居場所がなかった。だから、領地内の若く美しい娘に手をつけるようになった。けれどどんな女性も、僕を満たしてはくれない。結局は僕の侯爵という地位だけを見ている女ばかりで、誰も「ヴォレンス」としての僕を見てくれないのだから。


(フィオナは、違った。幼い頃から、身分なんて関係なく僕と向き合ってくれた。僕が婚約破棄を突きつけるまでは、僕を愛してくれていた……)


 失って、初めて気付いた。彼女がどれだけ、かけがえのない存在だったか。

 彼女がレングランツ家から追放されてから3年間、一度も会っていない。彼女は今、どうしているのだろう。生きているのだろうか? 


 生きていたとしても、伯爵家から勘当された彼女が幸せになれるとは思えない。僕以外の男から見初められるなんてことも、フィオナではあり得ないだろう。ああ、僕のもとに戻ってきたら、今度こそ僕はマリーユとは別れて君を幸せにしてあげるのに。君を幸せにしてあげられるのは、僕しかいないのに。フィオナ、どうして戻ってきてくれないんだ。戻ってきてくれ……。


 願いは虚しく、それからもフィオナが僕のもとに戻ってきてくれることはなかった。


 そうこうしている間に、我が国の王が魔族に戦を仕掛け、魔族との争いが始まることになり……。

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