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6・三年後・マリーユ視点

●オディアム歴990年(フィオナが追放されてから3年後)・マリーユ視点


 姉が姿を消してから、3年の月日が流れた。

 最初は、どうせお姉ちゃんが一人で生きていくなんて無理だろうし、すぐボロボロになって帰ってくるだろうと思っていた。その姿を笑いものにしてやろうと思っていた。


 だけどいつまで経っても、お姉ちゃんは戻ってこなかった。森で魔物にでも食われたのかなと思い少し探してみたけれど、死体も身に着けていたものも、一切見つからなかった。


(どうせなら、無様な死骸を拝んでやろうと思ったのに。ざーんねん)


 あんな姉なんて、いなくなったってどうでもいいのに。都合よく虐げられる存在を失って、正直あれから毎日がつまらない。


(虐げても何も言わない土嚢袋(サンドバッグ)がいなくなってしまったのだものね。……ああ、面白くない)


 あれから、お姉ちゃんから奪い取ったヴォレンスと結婚したものの、結婚生活ははっきり言って最悪の一言だ。


 ヴォレンスが爵位を継いで正式に当主となったものの、彼はもともとあまり頭がよくないので、領主としてははっきり言って下の下だった。


 私が、もっと贅沢な生活がしたいから商売を始めたらいいと進言した結果、ヴォレンスは貿易会社を設立しようとしたものの。彼が「これは貴族の間で大流行する!」と仕入れた食材は、確かに美味でこそあったけれど調理に気を付けないと人体に毒となるものだった。国外では調理資格のある専門の料理人によって調理されているが、我が国ではまだその食材を正しく扱える料理人がいない。結果、大量の在庫を抱えた末腐らせてしまうことになり、大損害。


 他にもいろんなものを流行させて金儲けしようと試行錯誤していたが、結局どれもうまくいかず資産は減っていく一方だった。


 慌てたヴォレンスは、その損害を埋め合わせるべく領民への税を重くしたのだ。そのせいで、日々の生活に困窮する人々が激増。暮らしに困って強盗やスリなどの犯罪も増え、領地の治安は大幅に悪化。領民や他の貴族達から、「ヴォレンス様が領主になってからこの地は落ちぶれた」と陰口を叩かれ後ろ指を指される日々。


(まったく。今の時代、下級貴族だって商売の成功で成り上がる者も多いっていうのに、ヴォレンスってば本当に駄目なんだから)


 おまけに、結婚当初は私のことを美しいと愛の言葉を並べ立てていたヴォレンスは、今では浮気ばかりしまくっている。まだ結婚してから3年しか経っていないのに、だ。ヴォレンスは家で私と目が合うと、鬱陶しそうな、まるで邪魔な置き物でも見るかのような目で私を見ては、居心地悪そうに視線を逸らす。


(お姉ちゃんとの婚約を破棄してまで私を選んだのに、結局こうなるんじゃない。やっぱり、この世に愛なんてないのね)


 ああ、イライラする。誰かに思い切り当たり散らしたい。誰かを傷つけることで、自分の価値を確認したい。私はあなたよりマシなんだって。もし今でもお姉ちゃんがいたら、またドレスでも宝石でも恋人でも、大事なものを奪ってその泣き顔を拝んでやるのに。


(まったく。お姉ちゃんがいないなら、このストレスを一体どこにぶつければいいっていうの)


 はあ、とため息を吐く。ただでさえ気分が晴れないのに、最近は貴族達での夜会でも暗い話題で持ちきりだ。我が国の王が、汚らわしい魔族を滅ぼすために仕掛けた戦だが、うちの国の軍が圧倒的に劣勢だとか。このままでは、この国は魔族に支配されてしまうかもしれない。


(そうなったら、今の生活は一体どうなるの? ヴォレンスの妻としての生活があまりにもつまらないからといって、侯爵夫人として、生活だけは保障されてきたのに)


 私の人生は、このまま幕を引くのだろうか。ああ、つまらない。退屈だ。腹立たしい。こんなことなら、もっとお姉ちゃんに暴虐の限りを尽くして、愉悦だけでも味わい倒しておけばよかった。どうせ私の人生、先なんて見えているようなものなのだから――

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