13・制裁は終わらない(ジークハルト視点)
フィオナを連れて廃塔を訪れた、翌日の夜。フィオナが魔王城の一室で眠っている間に、俺は再び廃塔を訪れていた。
「魔王陛下! また来てくださったのですか。ああ、今夜はお一人なのですね」
見張りの兵士に、フィオナの家族……いや「元」家族達を呼んでこさせると、マリーユは希望に縋るように俺を見つめた。まだ俺を色香で籠絡できると思っていることがありありと伝わってくる態度に、鳥肌が立つ。
(反吐が出そうだ。フィオナはよく、こんな人間どもを許そうと思えたな)
「耳障りだから余計な言葉は喋るな。俺がここへ来たのは、貴様らを断罪するためだ」
「だ、断罪……? それは、昨日ので終わったのではありませんか!?」
「そうだな。フィオナは心優しいから、貴様らの殺害を望まなかった。だがな……フィオナが許しても、俺が許せんのだ」
自分の命を救ってくれたフィオナを――8年間目覚めることのなかった彼女を、俺はずっと想い続けてきた。彼女の記憶を読んだことで、俺と出会うまで、どれだけ酷い仕打ちを受けてきたか知った。特に、婚約破棄されてから追放された箇所の記憶は、あまりにも痛ましく、可能ならその時その瞬間の彼女のもとへ行って抱きしめたいと願うほどだった。
愛する者があれほどの暴虐を受け、笑って許せる者などいるだろうか。これが自分のエゴだということはわかっている。だけどどうしても、この身に燃え盛る復讐の火を、消すことができない。
『魔の生物へと姿を変えよ』
変化の呪文を、フィオナの「元」家族達に向けて放つ。
「ぎゃああああああ! な、何!?」
マリーユ達の姿は、ゆっくりと、ひどく醜い魔物へと変化してゆく。
自分の身体が次第に人間としての形を失ってゆく様子に、マリーユ達は最後まで断末魔のような叫びを上げていた。
「安心しろ、殺しはしないさ。殺さないで、というのが、あいつの願いだからな」
人間ではなくなったマリーユ達にそう言葉をかけると、部屋の外に向けて呼びかけた。
「入れ」
俺の言葉で、部屋の外に待機させていた者達が入室してくる。今夜は一人で来たわけではなかった。部屋に入ってきた、黒衣を纏った魔族達の正体は、魔法研究所の研究員達だ。皆、注射器や解剖用の刃物、実験用の魔法器具などを持っている。
「我が国では魔物の生態について、もっと研究を進めたいと思っていてな。貴様らには、その実験材料になってもらう」
魔族も魔物も、同じ「魔」を冠する種族ではあるが、まったく異なるものである。魔力を持っているという以外に共通点などない。魔族も魔物による被害は受ける。
俺のように魔力の高い者にとって魔物は脅威ではないが、魔族であっても魔力の低い者には危険な存在だ。だから、少ない魔力でも効率的に倒せる方法を調べたい。それから、道具の原料として役立つ魔物は、もっと解析して養殖し、素材を採取したい。
「魔物や魔法についてもっと研究を進められれば、多くの魔族や人間が救われる。よかったな、貴様らのような屑でも、人々の役に立つことができるのだ。今までさんざん悪事を働いてきた罪、その身で贖ってもらおう」
魔物へと姿を変えたマリーユ達は、もはや人語を発することもできず、ガアだのギャアだの、化け物としての呻き声を上げる。
「何を怯えている? 安心しろ。殺しはしない、と言っただろう?」
――死んだ方がマシだ、とは思うかもしれないがな。
「魔王陛下。殺さなければ、どんな実験を行ってもいいのですか?」
魔法器具を持った研究員の一人が尋ねてきた。俺は頷く。
「ああ。もしも死にかけたら、回復魔法を使えばいいしな。何度だって使える、優秀な実験体だ」
魔物となり人語を発せないマリーユ達だが、身体を震わせ、怯えているように見えた。
(脅かしすぎか? だがこのくらい言わないと、こいつらにはわからないだろう)
本当に――もしも、本当にこいつらが改心し、心の底からフィオナへの謝罪を述べ、もう二度とあのような惨い仕打ちをしない人間になったのなら。情状酌量を考えてやらなくもないが――
(まあ、無理だろうな)
もともと、奴らは罪人なのだ。自分の犯した罪を償ってもらうだけ。
(……ここは、俺のいる場所ではない。さあ、城に戻ろう――)
廃塔を出る瞬間、醜い魔物の断末魔のような声が聞こえてきた。
まあ、問題ない。殺すなとは命じてあるし、そもそも塔の中に、酷いことをされている「人間」はいない。
罪のない人間をあれほど虐げて追放したような者は――最初から人間ではなく、化け物なのだから。




