12・さようなら、かつて家族だった人達
きっと私が望めば、ジークハルトは本当になんでもしてくれる。どんな残酷な手段でも用いて、私を苦しめたこの人達を消してくれる。
(でも……)
迷い、考えた結果、私はジークハルトより一歩前に出てマリーユ達を見た。
「今まで、お世話になりました。私はこれから幸せになります。もう二度と、あなた達とお会いすることはありません」
私がそう告げると、母も父も口々に私を責めた。
「な……っフィオナ、私達を見捨てるっていうの!? あなたはどうしてそう、人を慮ることができないの!」
「その通りだ。家族は助け合うものだろう!」
信じられない、という顔をしている両親に、私は冷静に告げる。
「8年前、お前などもう私の娘ではない、勘当する、と言ったのはそちらでしょう」
「そんな……8年前のことだろう? いまだに根に持っているなんて、心が狭いじゃないか……」
父の言葉に、私より先にジークハルトが反応した。
「貴様らはあれほど酷い仕打ちをした挙句、一言も詫びることなく、更にフィオナを責めるというのか。屑の極みだな」
「そ、そんな。魔王陛下……」
「大体、家族は助け合うものだ、と言うが。貴様らがこの先、フィオナを一体どう助けるというんだ? 罪人の分際で」
「ま、待ってください、陛下! 私達がフィオナを勘当したのは、そもそもフィオナがマリーユを傷つけたからなのです! 悪いのはフィオナです!」
どうしても私に悪役を押し付けたい元家族に向け、毅然と言う。
「あれは、マリーユが自分でやりました。マリーユの自作自演による冤罪です」
「な……今更何を言っているんだ、お前!」
「今更じゃありません。8年前、ちゃんと伝えました」
「ほ、本当なのか、マリーユ?」
「……………………はい」
この状況でこれ以上言い逃れはできないと思ったようで、マリーユは自分の罪を認める。
それでもまだ母は、自分は悪くないと主張していた。
「待って! 自作自演だなんて、普通思わないじゃない! 私達は、そんなこと知らなかったのよ!」
「――知らなかったんじゃなくて、知ろうともしなかったんでしょう」
この人達が、私について知ろうとしてくれたことなどない。自分達の思いや事情を理解しろと押し付け、自分達を慮ってくれない私は酷い娘だと被害者のような素振りをして、一方的に自分達の言い分だけ主張し私のことには目もくれない。――まともに相手をするだけ無駄。どんなに言葉を交わしても話が通じない人間というのは、悲しいことに確かに存在する。
「とにかく、これ以上、お話することは何もありません。もう1秒でもあなた達と一緒にいたくありませんので、さようなら」
「行きましょう、ジークハルト」
「ああ、フィオナ」
皆に背を背ける瞬間、重力魔法によって這いつくばったままのヴォレンスが、縋るように私に手を伸ばしているのが目に入った。
「フィ、フィオナ。頼む。助けてくれ……」
(……この期に及んでも、あの時はすまなかったとか、僕が悪かったとかじゃなくて。自分が許されることしか考えられないのね)
かつて愛していた人がここまで落ちぶれてしまったことに苦い気持ちを感じながらも、率直な言葉を告げた。
「私が追放された時に助けてくれなかった人を、なぜ私が助けなければならないのですか?」
そうして私はヴォレンスから顔を背け、決して振り返ることなく出口へと進んだ。
廃塔の扉が閉ざされる音が重く響き、私の家族の明るい未来もまた、閉ざされた。
◇ ◇ ◇
来た時のように、ジークハルトにお姫様抱っこしてもらって魔王城に戻る途中。
ジークハルトが「寄り道をしないか」と言って、私達はとある場所へ降り立った。
「わあ、すごい! なんですか、これ……」
ジークハルトが連れて来てくれたのは森の中だけど、大きな六角水晶のように淡い輝きを放つ鉱物が、あちこちに、まるで花が咲くように地面から生えている。その鉱物の光が夜闇を柔らかく染め上げて、とても幻想的な光景が生まれていた。
「魔力を帯びた鉱石の一種だ。この光景を、お前に見せたいと思ってな」
「ありがとうございます。すごく、綺麗……」
思わずほうっと息を吐き、周囲の景色に見惚れる。
幾百もの鉱物が夜に光を灯すこの光景は、まるで天然のイルミネーションだ。この世のものとは思えないほど美しい。
しばらく見惚れていると、ジークハルトはふと真剣な面持ちで口を開いた。
「殺さなくて、よかったのか」
ジークハルトが、そう尋ねてきた。
短い言葉だったけれど、私の家族への憎悪が冷たく滲み出ている。
「はい。殺さないでください」
「お前は……本当に、それでいいのか」
「はい。正直、囚人として幽閉されている彼らを見ただけでも、胸がすっとしました。それに、こんなふうに綺麗なドレスを着たところも見せてやることができましたし。復讐としては充分です」
「では、今後の奴らに対し、どういう処分を望む?」
「そうですねえ……。私のことはともかく、毒草栽培の罪はちゃんと償ってほしいですね。懲役……特に、労役ですね。幽閉されていても、労働によって、少しでも世界の役に立ってほしいです」
「……フィオナ。お前は、少し優しすぎると思うが」
「ありがとうございます。ジークハルトにそう言ってもらえるだけで、私は幸せですよ」
こんなふうに、私のことを気遣ってくれる人がいる。8年前の私には、味方なんていなかったのに。
「私は、本当に大丈夫です。それに……ジークハルトの手を、あんな人達のせいで汚してほしくないですから
「フィオナ……」
ジークハルトは一歩、私との距離を縮める。
紅玉の瞳は、周囲の美しい景色ではなく、私だけを映していた。
「これだけは言わせてくれ。あの者達は、お前に対し、まるで呪いのような酷い言葉ばかりを浴びせていたが……。お前は何も悪くない。お前が、自分にも悪いところがあったのではと自分を責めたり、奴らのために心を痛めたりする必要はどこにもないんだ」
「はい……ありがとうございます」
ゆっくりと頷くと、ジークハルトは優しく髪を撫でてくれる。彼の長い指が、櫛のように髪を通っていくのが、とても心地いい。
「と、ところで、ジークハルト。その……」
「どうした?」
「……マリーユ達の前で、あなたがおっしゃっていたことなのですが……」
「ああ」
ジークハルトは真剣な面持ちで、私の前に跪く。
「フィオナ。俺は、お前を愛している。俺の妃になってほしい」
真剣な熱を湛えた瞳で見つめられ、胸が早鐘を打つ。
「お、お気持ちは、とても嬉しいですが。私は8年間の眠りから覚めたばかりですし……。陛下には、もっと相応しいお相手がいるのでは……?」
「お前以外に、俺の妃に相応しい相手などいない」
即答され、かあああああっと頬が熱を帯びる。
あ、熱い。すごく熱い。そして心臓がものすごくドキドキしていて落ち着かない。一体どうすればいいんだろう!?
「で、でもあの、その、えっと、なななななんと言いますか」
「焦った顔も可愛いな、フィオナ」
「ふ、ふぅえぁ……」
顔も頭も熱くなりすぎて、変な声が出た。もはや頭のてっぺんから湯気が出そうだ。本当にどうしよう。
「まあ、お前を急かすつもりはない。この先じっくり、口説き落としてみせよう」
(じ、じっくり口説き落とすんですか!?)
あわあわして、口をぱくぱくさせたまま動けずにいる私を見つめ、ジークハルトはにこにこと楽しそうに笑っている。
婚約破棄されたうえ追放されて、ジークフリートを助けて刺されて。8年後に目を覚ましたら彼に愛されて――私の人生は、かなり波乱万丈だ。一体この先、どうなってしまうのだろう――?
フィオナはこのくらいの断罪ですませましたが、ジークハルトはこの程度では許せなかったようです。というわけで、次回更なるざまぁがあります。
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