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アクションスター

 普段、自分の何倍も落ち着いて行動するグレイの突然の変わりように、ルイスは慌てふためくことしかできない。


その全ての原因は、亡き骸の周りに散らかった数枚の写真。


全て血痕が付着しており、そこにはターゲットを含めた家族の笑顔が写っている。


恐らく、命を絶つ直前にこれらを目にし、最期の別れを告げたのだろう。


血液、家族、銃、死体。グレイにとって、一つ一つのモノに関しては何の特別な意味を持っているわけではない。


しかし、その複数のモノが、鎖のように一つに繋がってはどうだろうか。


それは、たちまちグレイにとって、記憶という名の凶器に変貌するのである。


 思い出したくもない過去が、頭の中で渦巻く。裏切りへの恐怖、憎しみ、悲しみ……。その全てが今、グレイを押し潰そうとしていた。


「ああ゛っ……い、怖い、近付く、な……!」


グレイは一体、何に対して怯えているのだろう。ルイスには理解することが出来なかった。しかし今は、自分が後輩を、仲間を守らなくては。このままグレイを放っておくことなどできやしない。


ルイスは唾を飲み込み、未だに感情の波に溺れているグレイを救出しようという決意を心に刻む。そして、ルイスはついに行動に出た。


申し訳ないと思いながらも、うずくまる隙だらけのグレイの頭部を刀の柄の部分で殴り、気絶させると、

疲れ切った身体に鞭を打ち、グレイを自らの背に負ぶった。


「コイツ……ちゃんと毎日飯食ってるのか?長身の割には体重がやけに軽いな……なんかムカつく」


意識を失ったグレイは額に汗をかき、ぐったりと地面に向けて手足を垂らしている。その顔には、何かから解放されたような、安堵の表情が浮かんでいた。


それを見て、ルイスが自分の口の両端が緩むのを感じた そのとき、外からのサイレンの音と、大勢の人間たちの騒ぎ声が同時に耳へと流れ込む。


雑音は段々と大きくなっていき、2人の脱出を、さらに困難なものへと変えていく。


そして2階まで降りたルイスに、更なる不幸が襲った。


「これより、ハウンド中佐率いる第3班の突入を開始する!!」


完全なセキュリティシステムが一度破られ、おまけに警備員が1人も応答しない。


屋敷内からの激しい銃声、物の破壊音。時刻は深夜をまわっている。此処は建物が密集している地域なので、すぐ側にいる住民たちにとってみれば いい迷惑だ。


睡魔の妨害をされた、その住民の誰かが、まず警察に通報したのだろう。


警察は何回もの銃声と聞き、中で大量の死人が出ていると推測をして軍の支部へ報告をした……というところだろう。


「クソ……!何処から逃げりゃいいんだよ!!」


 軍に捕まってはひとたまりもない。組織は2人を見捨て、拷問を受ける前に同僚に銃口を向けられ、惨めに死を迎えるのだ。


それはルイスのプライドに反する。父への誓いを、自ら裏切ってしまうことになる。


何処だ。

内部の構造はグレイしか知らない。


脱出方法は何だ?

非常口は見つかる可能性が高い。


此処から飛び出せる場所は……飛び出す?


飛ぶ……そうだ、何故今まで気が付かなかったのだろう。


ルイスは閃く。

窓から飛び降りるという、たった一つの脱出法を。


「こうなったら、アクションスター並のスタントをかましてやる」


 ちょうど建物の真後ろにある巨大な窓の前で、軽い助走をつけて跳ぶ。


硝子が外で四方八方に飛び散る派手な音を立てて、ルイスとグレイは空中へと放り出された。


「げっ、あとのことを考えていなかったぁああ!!」


重力には逆らえず、真っ暗闇に吸い込まれるように落ちてゆく。


2階だが、地上からはかなりの高さがある。2人分の体重と衝撃を、ルイスの両足が堪えることができるだろうか。


この建物のすぐ裏で骨折し、動けない状態の青年と気絶している少年の2人を、軍が見過ごすわけがない。


地面はもうすぐ。


諦めたくはないが、もう終わりだ、と思い、ルイスがついに目を閉じた瞬間、まるでカーチェイスでもやっているのかと疑うほどのタイヤのスリップ音が、自分たちに近付いてくるのを感じた。


このまま、交通事故で死ぬのだろうか。いや、そのほうが有り難いのかもしれない。


ああ……もっと、格好の良い死に方をしたかった。


涙を堪え、死を待つ。しかし、どこかに倒れ込んだのか、多少の痛み以外は一向に襲ってこない。


ルイスが不思議に思い、うっすらと目を明けると、そこは走行中のトラクターの上だった。


「まだ、生きてる……」


生きている心地、そして喜びをかみ締めながら呟き、グレイをその場に横たわせると、


ルイスはトラクターを運転している人物に声をかけた。


「誰だか知りませんが……助けて下さって、本当にありがとうございます!!」


すると、ルイスの言葉に運転手は不気味な笑い声を上げる。


「ルーのそんな言葉遣い、初めて聞いたよ!」


片手でハンドルを握り、荒っぽい運転をしながらもう片方の手で腹を抱え、大笑いする運転手。


その反応に、ルイスは目を見開く。


「俺をそう呼ぶ奴は一人しかいないのだが。もしかしてお前……フォルツか!?」


「御名答」


運転手の正体は、ルイスの幼なじみであり、グレイに屋敷内の構造を教えた、情報屋のフォルツであった。


フォルツは、手を腹から宙に持っていき、からかっているかのようにヒラヒラと振る。


「アンタらの行動は全てお見通しなんだよ。中間点にいないといけないオレが、わざわざ助けに来てやったんだからさ、ルーも少しは感謝してよね」


フォルツの短い金髪が、車と共に揺れる。髪型や服装が少し乱れているのを見るに、相当急いで来たのだろう。


「……ああ」


自分たちの命を繋いでくれた恩人である幼なじみに、ルイスは心の中で再び「ありがとう」と呟いた。




サイレンが鳴る。

深夜の街が騒ぎ出す。

一台のトラクターは、ただひたすらに走る。罪人たちを乗せて、夜の闇を駆け抜ける……。



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