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チェックメイト

敵に背中を向けてはならない。その一瞬の気の緩みが、永遠の眠りに変わるだろう。




 50人を相手に、ナイフで充分だと言い切ったグレイ。ただでさえ危険な状況にも関わらず、なおも自分を死に追い詰めるのか。


「お前、そのナイフ1本でどうやって大勢を相手にするんだよ!?」


命が懸かっているのだ。ふざけた真似などできるはずがない。


二人を円状に囲み、今にも攻撃を仕掛けてきそうな警備員たち。それに向かって、冷や汗をかきながら日本刀を構えているルイスと対象に、グレイは余裕たっぷりの表情を浮かべている。


「さすがに1本とまでは言っていませんよ。銃の乱射は流石に惨過ぎますからね、殺さない程度に」


 グレイはなるべく死体を出したくはなかった。組織に忠誠を誓う前に刻まれた醜い記憶を呼び覚ますことを、何よりも恐れていた。


懐から銀色を二つ取り出すと、それぞれを両手でしっかりと握り、敵の司令官らしき人物に睨みをきかせる。


「我々に抵抗する気か?少しは素直になったらどうだ、糞餓鬼共め」


司令官は鼻で笑い、筋肉質な身体の腰から下げている鞘からサーベルを引き抜くと、それを自らの顔の前へ持っていった。


「全てを捧げてでも、主をお守りするのが我らの務め。……例え、まだ有望な未来がある若者でも、主の安全を脅かすようでは例外は認められない。容赦はせん、お前らは後に泣いて詫びるのだ!」


この階全体に響き渡るような大声と誓い。


そして、それを跳ね返すような勢いでルイスが自ら戦いの火蓋を切った。


「誰が詫びるかよ、このクソジジイ!!」


一人の黒が、飛躍する。シャンデリアの人工的な光を浴びて輝く、研ぎ澄まされた銀の刀を振りかざして。


真紅が辺りに飛び散るのを見ると、グレイは自分に襲い掛かってくる警備員に目掛けて、わざと急所を外しながらの攻撃をし、再び溜息をつくのだった。


「言葉遣い悪過ぎですよ……」


グレイの微かな呟きはルイスに聞こえていたらしく、敵の腹部を切り裂きながら、ルイスは口を尖らせる。


 警備員の数も徐々に減り、二人に希望が見え始めたその刹那、戦場に一発の銃声が走る。


「クソ……俺の刀じゃ、数発くらったら使い物にならなくなる。もうどうせ手遅れだ。お前もそろそろ銃を出した方が良い!」


「まだ、100%失敗したとは決まっていないじゃないですか。

それに僕、最初に言いましたよね?……ナイフで充分だ、って。

僕は銃を持っている方々を相手にするので、先輩は筋肉サーベルでも先に倒しておいて下さい」


「りょ、了解」


完全に先輩と後輩の立場が逆転しているのは気のせいだろう。


次々に鳴り響く銃声に、金属を弾き飛ばす音が重なる。それは激しさと、グレイのナイフの数を増していく。


 無数の銀色が、華麗に宙を舞う。その姿は、まるでジャグリングを行う大道芸師のよう。


「お前すげぇな!!」


グレイに言われるがまま、未だに床に伏せない司令官に向かって行ったルイスが、グレイの超人的な身のこなしに目を輝かせた。


「さて、いつまで余裕を保っていられるかな?」


筋肉サーベルこと司令官がルイスに気味の悪い笑みを浮かべると、刃に付着した赤黒い血液を振り払いながら、ルイスは切っ先を司令官の喉元へと向かわせる。


「生憎、俺は余裕なんてものを始めっから持ち合わせてはいないんでね。ただ……」


「ただ?」


「すげぇ弱そうだと思ってた後輩があんなに凄いことしてるんだからさ。その先輩である俺は、もっと格好良いとこ見せなきゃならねぇ。だろ?」


ルイスの攻撃を紙一重で避けながら、その言葉に、司令官は益々ルイスを嘲笑う。


「どうやらその心配はいらないぞ。お前らが御丁寧にも止めて下さったセキュリティシステムは、既に完全に再起動しているからな!!」


何たる失態。失敗に重なる、更なる失敗。50人もの敵は、ただの足止めでしかなったのだ。


「しまっ……」

「待ってください」


ルイスとグレイの声が重なる。気が付けばそこは、2人と司令官の3人だけの空間になっていた。


「先輩、逆転勝ちは、まだまだ望めますよ。……さあ、チェックメイトと参りましょう」




王手を急げ。

狗が近付いてくるぞ

足音も立てずに……



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