足止め
死を恐れてはいけない。
誰にでも、いつかは訪れるものなのだから……。
「あと、25秒」
動くべき時を待ち、黒の二人は息を潜める。
「なあ、小僧。思ったんだけどよ。暗殺って、どうやるんだ?」
「あと20秒……って、先輩、今更何言ってるんですか!?」
ルイスのあまりに突然過ぎる問いに、グレイはつい声を荒げてしまう。
それもそのはず。この程度のミッションを失敗しては、この先自分たちに依頼がくることはないのだから。
「昨日説明したじゃないですか!」
「本当にすまない……寝ていて聞いてなかった」
ルイスはグレイに向かって頭を下げ、沈んだ声を出す。頼りない先輩に苛々しながらも、グレイは早口でまくし立てた。
「あと15秒しかないので、簡潔に説明しますね。今、僕らは裏口近くの茂みにいます。時間になったら、僕は裏口の警備員を倒しに行きますので先輩はその隙に刀で監視カメラを壊して下さい」
「わかった」
ルイスの目付きが変わる。情報を頭に叩き込むために、集中している証拠だ。
「裏口から侵入したら北の非常階段を使って3階に上がり、管理指令室へ行って完全にセキュリティシステムを止めます。
そこにいる警備員は僕が倒しますので、
先輩はそこの監視カメラを壊して下さい」
「……ああ」
「それから4階へ上がり、
一番右端の部屋に、社員を装って入って社長を殺害します。
僕が社長を撃ち抜くので、先輩は再起動しても大丈夫なよう監視カメラを壊して下さい。僕の説明は以上です」
「なあ、俺カメラ破壊しかしてなくないか?」
「気のせいですよ」
それは事実なのだが、グレイはルイスの発言を適当に受け流す。
「3秒前……2、1、突入開始!」
その言葉と共に、グレイは小型ノートパソコンのエンターキーを押して懐にしまうと、次の瞬間、空中で静止する。
草木を飛び越し、身を屈めて素早く見張りの警備員に近付いて銃身で後頭部を殴ると、
鈍い音を立てて警備員は意図も簡単にその場に倒れ込んだ。
それと同時に、遅れて出て来たルイスが渋々監視カメラを真っ二つに割り、二人は裏口から侵入することに成功する。
幸いにも近くにあった非常階段を音を立てずに上り、扉を開けると、そこに広がるは一面赤い絨毯を敷き詰めた長い長い廊下。
「……小僧、その管理指令室とやらは、一体何処にあるんだ?」
「えーっと、確か突き当たりの部屋だったような気がするのですが」
囁くような声で、辺りに気を配りながらも足は止めない。
「時間がない、さっさと行くぞ」
「わかってますって」
「……お前ら、そこで何してる?」
聞いたことのない声。
その場で聞いてはならぬはずの言葉。
廊下のど真ん中で、二人は身体を石のように固まらせ、首だけで後ろを振り返る。
そこにいたのは警備員。
数は……約50人ほど。
「ダークスーツに刀と銃?いかにも怪しい奴らだな。此処にいる理由は後で問う。……この二人組を拘束せよ!!」
侵入早々、哀れにも見つかってしまったグレイとルイス。既に暗殺どころではなくなっている。
しかし、こんな無惨な状態で依頼に失敗すれば組織からは抹消され、グレイは復讐は疎か、軍に近付くことさえできないままこの世を去ることになる。
それは何としてでも防がねば。
「先輩どうします?」
「決まってんだろ、相手を動けなくするんだよ」
「言うと思いましたよ。尻尾を巻いて逃げるのは組織のポリシーに反しますものね。……コイツらなんて、ナイフで充分です。さっさと片付けてしまいましょう」
「血を見てビビるんじゃねえぞ?」
「馬鹿にしないで下さい」
2対50という、圧倒的不利な状況を逃れられるか。
戦いの旋律が今、奏で始められる。