任務開始
「小僧、今社長が何処にいるか分かるか?」
夜の闇に紛れ、二人の黒が身を潜める。
辺りにターゲットを守るための侵入防止システムセンサーが張り巡らされていることから、どうやら一筋縄ではいかないらしい。
どうするべきだろうか、この状況は。
「情報屋のフォルツの分析データによると、この時間帯、社長はいつも自室でクラシック音楽を聴いているそうです」
小型のノートパソコンを無心で操作しながら、この物語の主人公であるグレイは小さく呟く。
「そりゃあ良い。思い切りリラックスしてるとこで、直ぐに脳天撃ち抜いて楽にしてやれるからな」
口許に手をやり、嫌な笑いを見せるルイスにグレイは溜息をついた。
「先輩、目が笑っていませんよ。それに脳天を撃ち抜くって言ったって……先輩が持ってるの、それ日本刀じゃないですか」
一瞬、ルイスの目が見開かれる。
そして自らの腰に手をやり、銃ではなく刀があることを確認すると、もう一方の手で頭をかきながら、困ったように口を緩ませた。
「今日だけな。俺、実は日本の武士に憧れててさ。今回のミッションは初めて人を……」
そこで一旦、言葉が途切れ、ルイスは己の手を見つめる。
「なあ小僧。俺たち……今日、人を殺すんだぜ?」
「ええ、そうですね。この手を血染めにするんです。もう、後戻りはできません」
「それが組織のポリシー、ってか」
それから長い沈黙が続く中、二人は警備が手薄になる瞬間を、今か今かと待ち構えていた。
「先輩!この建物のセキュリティシステムに侵入することに成功しました。5分間だけ、全てのセンサーを停止させるが出来ます」
「よし、あとどれくらいで始められる?」
「警備員の動きを考えると……今、この瞬間から30秒後です」
黒が動く。
獲物を狙って。
夜の闇は、深くなるばかり……。