下っ端の憂鬱
一瞬の気の緩みが、命取りとなるこの仕事。しかし、その分報酬が高いのは、この仕事の良いところ。
まだまだ組織の下っ端である僕には、軍の最高機密に関わる依頼などさせてもらえる訳がなく……それはもう、先輩と二人で泣く泣く雑用をする毎日。
他の組織との抗争で出た死体の処理や、深夜の領域の警備、そして広過ぎるアジト内の掃除……。
こんなことばかりをして、いつになったら軍に近付けるのだろうかと愚痴を漏らしたくなるが、先輩いわく、現在の組織のトップも、最初は僕らと同じような雑用しかさせて貰えなかったらしい。
ミッションは訓練にしか過ぎない、と格好の良いことを言ったが、実際に身についているかと問われれば、それは非常に怪しいところである。
今は先輩の言葉を信じるしかないだろう。
今回のミッションは、珍しく僕ら下っ端の中では最も難易度の高い暗殺。
先輩と僕に回ってきたのはこれが始めてで、これが上手くいけば、更に高額の報酬のミッションを引き受けることができる。
今回の暗殺の依頼主は、個人的にネーミングセンスに欠けていると思う建設会社、メランコリックカンパニーの社長。
自分の会社が業界で二番目だということが気に入らないらしく、今一番儲けていて、メラカン(と先輩が略していた)と対立しているラック社の社長を始末して欲しいのだという。
依頼を受けてから詳しく内容を聞いた僕は、正直このミッションを遂行したくないと思った。
自分たちの都合だけで相手を殺す、軍の奴らと姿が重なったからだ。
しかし、一度引き受けてしまった依頼を断ることは組織の名を傷付ける行為に当たり、
先輩も新たなミッションに目を輝かせていたので、僕はただ依頼主の言葉にひたすら頷いていた。
考えてみれば人殺しも始めてのことではあるが、もちろん失敗は許されない。それが組織のポリシーなのだから。