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養父に叱られた彼は、反省した。

考えた末、案を思いついた。


という話をドルノに説明するディアンは付け加えた。

「本当に行方を知らないらしいんだ、その、彼の彼女たちについて」

「人間としてくずだと思う」

ドルノが据わった目で感想を告げると、ディアンも困り顔で頷いた。


「勇者の能力は素晴らしいし、人間性もとても良い人なんだ。他のところは」

「女性に関して、最悪だわ」

ドルノの指摘を、ディアンは真顔で受け止めている。ディアンも友人のその部分は非常に問題だと思っている様子。


「うん、ただ、反省して、それで、彼もドルノちゃんの本が流行っているのを知って、それが僕の奥さんだって知ったから、頼んできたんだ。彼の話を本にすれば、彼の彼女たちは、彼の事だって分かるだろう。その本で、彼は彼女と、生まれているかもしれない子どもに詫びたいって」

「本当に最低」

勇者だなんて信じられない。


「『代わりに良い案があったら教えて欲しい』って真剣に悩んでいて頼まれたんだけど、代わりの案と言うのが思いつくことができなくて、とりあえずドルノちゃんに本について相談してみようって思ったんだ」

「ディアンくんがお人好しで断れないのは分かるけど。嫌だわ。少なくとも私は書く気になれない」

そもそもドルノは書く人間ではないが。


「代わりの案、ある?」

「ぅうーん」


「ドルノちゃんの話を書いたドルノちゃんの友人、この話を書いてくれるかな?」

ディアンはやはり困った顔のままだ。

女性に酷い人間だが、ディアンには友人なのだろう、とは感じられてドルノも困る。


「その人、本当に反省しているの? 本で、女の人たちと子どもたちに謝るって無責任よ。探して直接会うのが正解だと思うわ」

「血筋について気にしていて、会うのもそのあたりで複雑みたいで、僕もどういえば良いのか本当に分からなくて」

「困ったわ。・・・すぐでなくて良いのよね?」

「うん」


ドルノがため息をついて見せると、ディアンも肩を落とした。


「その話は少し、ゆっくりどうするか考えさせて」

「うん。無理なら無理で断って。ドルノちゃんの負担になりたくないし、僕もどうすれば良いのか本当に分からない。本で謝るという手段も、僕には良し悪しが判断できない」

「普通は駄目よ」

「うん。普通は駄目だよね」


世の中には普通じゃない事情もたくさんあるのだろうが。


「王様たちって、ドロドロしているのね、本当のところって」

「そうかもしれない」

「勇者をしていてそんな風に思ったことがある?」

「うん。色んな人に会うから」


ドルノは真面目に頷くディアンを見てから、自分について思いを巡らせた。


ドルノも、王家の人たちに会ったことがある。

ドルノはむしろ、良くしてもらった。


留学先の国イツィエンカ。ドルノの家はそこの国では身分が高い。

その国の王妃様は、ドルノの両親ととても仲が良かった。

だから、ドルノも王妃様に仲良くしてもらったのだ。王子様と交流も持ったぐらいに。


ドルノが実際に知る王妃様と王子様は、とても健やかに暖かく過ごしておられたけれど。

世の中には色んな国がある。色んな事情が絡まり合っているのだろう。


***


ディアンの友人は、ハッキリとした自分の子どもを持ちたくないらしい。子どもまで血筋の問題に巻き込まれるから。

と、ディアンとドルノで話して察したが。


ドルノはふと思った。

ディアンの友人の、親たちの関係だが。物語ではあり得るかもしれないが、現実はかなり珍しい状態なのでは? 気のせい?


王家の血筋。と言うことは、詳しい人にはすぐどの国の誰の事か分かるような、有名な秘密の話だったりしないのだろうか。


ドルノは確かめようと考えて、自分と親しくしてくれている、留学先の王妃マーガレット様に手紙を送ってみた。

ディアンの友人についてではなく、その親たちの関係を書いて尋ねた。

ひょっとして、王妃様なら、思い当たる国がありますでしょうか、というような。


手紙は魔法で一方に着くのに8日かかる。送って17日目に返事が手元に現れたので、すぐに返事を書いてくれたようだ。


ドルノはすぐに開封して手紙を読んだ。


『かの国に。噂話とは怖いものですね。私が気軽にお答えできるのはできるのはここまでですよ』


補足のように、『この先を聞きたいなら、私はあなたに、懇意にしている年長者として、長く平穏に生きていくために色々教えなくてはなりません。』と文章が続いていて、ドルノは固い顔でゴクリと唾を飲み込んだ。


すぐにお返事を。

「早々にお返事を誠に有難うございます。十分な内容でした」

という内容をドルノの本心から丁寧に。


そして。これで判明したと思う。

ディアンの友人の話を本にした場合、『あの国のあの王子のところの話だな』と分かる人にはすぐ分かる、と。


ドルノは、王妃様とのやりとりの結果を、仲の良いぬいぐるみたちに話しながら、ため息をついた。

ぬいぐるみたちも困ったようにため息をつくような仕草をする。


本にするのは悪手なのでは?

庶民のドルノの話が本になったのとは違うレベルで大きな騒動にならないのだろうか。

本人以外が色々と巻き込まれてしまったら本当に酷すぎる。


別の案なんて思いつかない。

もう。例の彼は、自ら反省して探しにいけば良いのよ。勇者のくせに情け無い。


***


家に戻ってきたディアンに、王妃とのやり取りを伝えたところ、ディアンはやはり困った顔になった。

「どうする?」

「ドルノちゃんが王妃様とやり取りしてすぐにどの国か分かったみたいだ、という事実を伝えてみるよ。彼の問題だから、僕たちもどうしていいのか」

「えぇ」


難しい話だ。

ドルノの話が本になって広まったことで、ディアンにこんな頼みまで来てしまった。

ドルノは改めて詫びたい気分になった。非常に面倒な依頼が来たのは元をたどればドルノのせいだ。


「ごめんなさい」

と告げると、ディアンは不思議そうになった。


「僕は読めて嬉しかった。それにあの本で、ドルノちゃんが僕の妻だと知った人たちは、皆、僕に暖かい声をかけてくれるんだ」

「冷やかしとかは無いの?」

「それだって僕は嬉しいんだ。僕が嬉しくなるから、皆も楽しそうに祝ってくれる」


ディアンは本当にドルノの事が好きなんだな、と未だに不思議になりつつ、しみじみとドルノは理解する。

ディアンがこういう人だったことも、ドルノにとっては奇跡だ。


「あの、思いがけずも、詳しく本に書かれてしまったけれど」

ドルノは、真剣な心持ちで、告げる事にした。

謝罪を本で済まそうとした、ディアンの友人を非難する気持ちが残っているせいだ。

自分から伝えるべきでは?

「その、とても好きだったの。今も。ディアンくんを愛してる」


ディアンの顔がほころんでいくのを目の当たりにする。つぼみがほころぶようにこの人は笑顔になる。


真っ赤になるドルノに対し、ディアンも照れながらまっすぐドルノを見つめてくる。

「僕も、ドルノちゃんを愛している」

ディアンは言葉を選ぼうとして少し躊躇ってから、苦笑した。

「言葉でうまく言えないけど」


ドルノは頷いた。

ドルノだって言葉では上手く言いきれない。どれほど小さな頃から憧れていたか、なんて。


そう思うと、物語にされてしまったのは、痛手であると同時に奇跡だったのかもしれない。

説明しづらい事を、伝えてくれた。


許してあげる、とドルノは物語を書いた友人に心の中で呟いた。


元より友人には悪気の一欠けらも無かったし、そもそもドルノが、書いて良いと答えてしまったせい。だけど、こんな状況に、ドルノは友人に文句を言いたくて仕方なかったのだ。


少し、感謝してみても良いかも。とドルノは心の中で友人に付け足した。


「私が、とても上手く言えないことが、書いてあるの。あの本。だから、その、一人で寂しい時、読んでね」

私のことを想って。


言ってから、恥ずかしさによる自己嫌悪にドルノはしばらく言葉を失った。


ディアンが、

「うん」

と、嬉しそうに答えてくれた。



end

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