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家族はドルノたちの様子を見ながらも、状況を確認していった。


結果として、もう大勢が読んでいるのだし、自分も読んでみたい、という家族もいた。

対して、ドルノは嫌だと訴えた。


小さい頃からディアンが好きで諦められなくて、というドルノの心境が、勝手に推察もされて結構正確に書きだしてあるのだ。これが家族に読まれるなど冗談ではない。


「ディアンは知ってるの?」

と、ディアンの弟のイーシスが聞いてきた。


「いいえ。誰にも言わないで、隠し通すつもりだったの。恥ずかしいの。分かる?」

「そっか」

と、イーシスは納得したようだが、他の家族はそれぞれだ。


とりあえず、ドルノの気持ちは尊重してもらえるようだ。


ドルノは迷った末、ここにはいないディアンには内緒にするように皆には頼み込んだ上、読みたい、と強い希望を出してきた妹と、ディアンの母には、ドルノがいないところで読むように、と言い渡し、ドルノが筆者からもらった豪華な装飾の本を貸す事にした。


父たちと兄、母には読ませないと宣言した。母は寂しそうな顔をしたが、まぁ良いわ、と苦笑してくれた。

ドルノには耐えられないと伝わったのは、少しだけ良かったと思った。


***


最も知られたくない相手、夫ディアンにはバレていないはず。隠し通すのだ。


ある日。夫のディアンが、勇者の仕事から無事帰還した。


いつも通りに、空飛ぶ船置き場までディアンを迎えに行ったドルノに、ディアンは嬉しそうに、

「ただいま、ドルノちゃん」

と応えた。


そして、照れたようになって、隠していたらしい本を取り出した。

「あの。これ、見つけたんだ。ドルノちゃんの名前が書いてあるから・・・」


ドルノは無言で本を凝視した。文字が読めない。知らない国の本だ。


「・・・私には、その国の言葉が読めないのだけど」

ドルノはぎこちなくならないように、微笑んでみせた。

「何が書いてあるのかしら」


外れていますように、違う話でありますように!


願いは虚しく散った。


ディアンは照れた笑みで答えた。

「ドルノちゃんの名前が書いてあって、小さい頃からの話で、ディアンっていう名前の人と、両想いになって幸せに暮らす話。『恋が成就したものがたり』だって」


あ゛ー!!!!


ドルノは頭を掻きむしって叫んでしゃがみ込んでそのまま地中に深く潜ってもう出てきたくない気分になった。

現実には不可能でもある。

笑顔で耐えた。


「・・・読んだの、かしら?」

とドルノは聞いた。


「え。うん」


「感想は?」

とドルノは笑顔を保ったままで確認した。


「・・・これ、ドルノちゃんと僕のことだよね。どうして、こんな本になっているのかはドルノちゃんに聞かないと分からないと思ったんだ。でも、こんな小さな時から、僕の事好きでいてくれたんだって思ったら、物語だけど、すごく、嬉しいなと、思った」

ディアンは本を幸せそうに眺めてから、ドルノを見た。照れているので顔が赤い。

そして聞いてきた。

「創作の、お話なのかな」


ドルノは無言で、笑顔でディアンを見つめていた。


ディアンはじっと答えを待った。

こういう人である。真摯で真剣、まっすぐで素直。


ドルノは真顔になって、じっと見た。

ディアンが真顔になって、じっと待った。


ドルノは少し眉をしかめるようにして目を閉じた。

そして目を開けたら、眉を少ししかめて、じっとドルノを見つめて待つディアンがいた。


話すしかない。ドルノは腹をくくった。


「・・・お友達に話したの。本にして良いかって、尋ねられて、まさかこんな人気になるなんて、思ってなくて」

「うん」


「・・・小さい頃から、ずっと好きだったの」


ドルノの告白に、ディアンの顔がパァッと輝いた。

喜びのままに抱き付かれて、持ち上げられてくるくると回されて、降ろされてから両頬にキスをされた。

「ドルノちゃん、愛してる! 大好きだ! ごめんずっと、こんなに想ってくれてたって知らなくて、僕と結婚してくれてありがとう!」


こういう人である。

あぁ、でも、知られたくなかったのは本当だ。恥ずかしい。


ドルノは、限られた、心を許せる人だけに打ち明けたい性格なのだ。恋心とか。

好きな人には全てを知られてしまいたくない性格なのだ。恥ずかしすぎるのだ。


「ドルノちゃん?」

「いえ、いいえ。あの、ごめんなさい、こんなに人気になるとは、思ってもみなくて、それで、名前も、全部、ごめんなさい、ディアンくんは気にしない?」

ドルノは気づいて心配になってきた。


ドルノは自分の不注意が原因で実名と共に幼少時からの気持ちが大勢に伝わることになってしまったが、ディアンは完全に巻き込まれた被害者だ。


「僕は嬉しかった。あ、ただ、気になると言えば、気になる事が、ある」

「何かしら?」


見上げるディアンの表情は真剣だ。少し怖い。


「ドルノちゃん、この話が全て本当なら、イツィエンカの国で、大勢にアプローチされてるんだけど、本当に? この話、全て本当に、あったことなのか」


夫の真剣な顔にドルノは少し恐れたが、思い返しても、本の内容に多少の誇張はあっても嘘はない。

留学先イツィエンカの部分はむしろ、筆者となった友人自身が目撃した内容も加わり、ドルノが分かっていなかったことまで記載されているぐらいだ。


「留学先の部分は、私の友人が見たところの、本当にあったところが書いてあるのだと思うのだけど」

「・・・モテたんだ。ドルノちゃん」

「ほんの少しよ」

「花とか宝石とか、それで踊ったりとか」

「そういう文化の国なのよ」

「手にキスとか」

「向こうの国の挨拶なのよ」

「違う。ドルノちゃんが魅力的だからだ」


ディアンが過去に嫉妬している。

あら貴重、とドルノは冷静にディアンを見た。


ドルノには奇跡であり、未だに不思議に思うのだが、ディアンは勇者であるほど飛びぬけた人なのに、ドルノの事が本当に好きだ。

不思議だが真実で間違いないと、もう分かっている。


「でも、私はずっとディアンくんが好きだったのよ」

「うん」

ディアンが少し目を伏せるようにして、困ったように笑った。


「変な言い方だけど。僕を諦めないでいてくれて、本当に良かった。絶対、他の人になんて取られたくない」

ディアンの言葉にドルノは苦笑した。


ディアンがドルノを意識してくれるようになったのは、留学先から戻った後のこと。

ディアンが懇意にしている兄ルルドが、別の国に留学し、家に不在となった期間がある。その時にディアンは焦りを感じた。取り残されてしまう、と。

その結果、ディアンは、ドルノに変わらず傍にいて欲しいと願った。で、結婚するまでになったのだ。


この経緯を思い出し、自分は幸運だったとドルノは思う一方で、留学先でドルノがディアンを諦めていた場合、きっとディアンはディアンで他の人を見つけたに違いないとドルノには思える。

ディアンは勇者として有名で人気があり、大勢と出会う。


しかしドルノは諦めることを諦め、実らない恋だと受け入れ、ディアンと接点のある実家に戻った。

その結果が今だ。


何が幸いになるか分からない。


そして、なぜか巷ではそんなドルノの物語が大人気となり、翻訳までされて他国にまで広がっているらしい。


自分を平凡だと知りながら、憧れには手が届かないと分かりながら、好きな気持ちは捨てられず。現実を受け入れて己の幸せの形を自分で決めて生きる。

その結果、奇跡が起こって、諦め手放したはずの、最も望んでいた幸せを手に入れる。


大勢が、それに憧れている証拠なのかもしれない、とドルノは思う。


***


ある日。

ドルノは、勇者の仕事から戻ったディアンから、一つ頼みごとをされた。

ディアンが親しくなった他の国の勇者から、自分の話を本にして貰えないか、と相談されたというのだ。


「私は読むのは好きだけど書くまではしないのよ。私たちの話を書いた友人に頼んで良いのなら、手紙を送ってみるけれど」

とはいえ、彼ももう人気作家だ、彼が書きたいと思える内容かもどうかも分からない。


ドルノの話に真面目に頷き、それからディアンは少し困ったように言った。

「大分、特殊な事情なんだ。僕が聞いたのは本当に簡単な内容で、本にしてくれるならきちんと話す、っていうことだったんだけど。変わった事情で」

「どういう事情なの」


「ある国の王家が関わってて、ちょっと、難しいというか、何というか」

やはり困ったようにディアンが話すので、ドルノはまず聞いてみる。

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