表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

※「庶民に追放なら良いかと思っていたら殺害ルートがあるそうです」シリーズの6作目です。

※短くするため、単体で読めるようにすることを諦めました。すみません。

 今まで好んで読んで下さっていた方の気分転換になれば。


人物紹介(家族構成把握に)は  https://ncode.syosetu.com/n3107gu/ です

ヒュッ、と、ドルノの喉が鳴った。

そして、手紙から視線を外し、一緒に届いた装飾の美しい書籍を見た。


『恋が成就したものがたり』


今、最も読まれていると言って間違いない。という、本。


「ヒィイイッ!」

小さくドルノは悲鳴を上げた。

傍にいた、動くぬいぐるみが驚いてパタパタと寄ってくる。


「どうしよう。マリィ、皆」

ドルノは本気で戦慄きながら、寄ってきたネコのぬいぐるみたちに助けを求めた。

「イツィエンカの、書籍愛好会の、ドルストフ様が、私とディアンくんのお話を、本にして」


真剣な様子でぬいぐるみたちが頷いてみせる。

彼らは話せないので、動きで気持ちを伝えてくる。


「私、読書愛好会の皆に、ずっと、相談していたの。だって。でも、そうよ、手紙で聞かれたのよ、本にして良いかって、良いって答えたわ、だって! まさか、ちょっとした物語って、言うから! 気軽に、答えてしまったわ、私、良いって答えちゃったのよ! でも、まさか、大人気で、なんて、どうしよう」

ドルノは未だに震えながら本を取り上げて、ゴクリ、と喉を鳴らしながら本を初めて開いた。

非常に怖い予感がしている。


序文。

ドルノの名前がしっかり書いてあった。

感謝するといった前書き。そして、これは彼女の本当の物語だ、と。


さらに。

「うあああっ」

目次にドルノは呻いた。そして膝から崩れ落ちた。


書籍というのは目次からストーリーが分かる。

自分をモデルにした話ならなおさらだ。


「信じられない・・・」


これは、ドルノが幼少期よりディアンに憧れ恋心を抱き、諦めようとして諦めきれず、しかし奇跡が起こってディアンと両想いになったストーリー。


***


『そんなに落ち込まなくて良いじゃない。両想いで結婚したでしょ』

ぬいぐるみたちがドルノの常にない様子を心配しつつ、紙に文字を書いて伝えてきた。


「恥ずかしくて死にたいぐらいなのよ・・・!」


『でも僕たちも読みたいよ』

「あなたたちは、私がディアンくんをずっと好きだったって、ずっと知ってくれていたじゃない」

ドルノは情けなくも泣きそうになりながらぬいぐるみたちに気持ちを伝えた。

ぬいぐるみたちは、ドルノの良き相談相手、打ち明け話をする相手でもあった。


そのぬいぐるみたちは、フルフルと首を横に振った。

『ドルノが他の国に行っていた時のことも書いてあるのね』

『読みたい』

『きっと素敵な話。絶対読みたい』


ドルノは幼少時から、ぬいぐるみたちを友達にしていた。

彼らに『読みたい』と文字で伝えられ、見つめられるとドルノは弱い。


「と、とにかく、お返事を書くためにも、まず、私、読んでみて、それからみんなで、隠れて読むなら、良いわ」


ドルノが恥ずかしさを抑え込みつつ、ぬいぐるみたちの希望を飲んだので、ぬいぐるみたちは嬉しそうに跳ねた。


***


ディアンには秘密にしなければ。とドルノは、本を読み終えてから改めて思った。


ドルノが悩んできた事が、余すことなく書かれている。恐ろしい。


ドルノは留学先の国で、書物を愛する人たちと特別に仲良くなり、定期的に集まって交流した。

書物を愛でる会、という名で集まったのは最終的に7人。


留学は2年間。

家に戻ってからは、魔法での文通が続いている。

加えて、7人の間で、4冊の交換日記を回し合う交流も未だに続いている。

ドルノが遠い他国に戻る事を惜しみ、皆で決めてくれたのだ。


ドルノだが、帰国後、憧れのディアンと結婚することができた。

その結婚式には、遠方だから他国からの参加は断った。

代わりにと、他国の友人たちは、見事な魔法を当日にこちらに贈ってくれた。炎で出来た鳥が大空に舞う。

素晴らしかった。こちらで目にした皆で心から楽しんだ。祝いの気持ちに溢れていて、ドルノはしっかり彼らの祝福を受け取った。


そんな素敵な交流ある彼らには、自ら物語を作り書く人もいる。

ただ、趣味だったはず。

だからこそ、ドルノは、その中の一人に、ドルノをモデルに物語を書いてみて良いかと聞かれ、快諾してしまったのだ。

大失敗だ。

多分ドルノはあの頃、幸せすぎて正常な判断ができなかったのだ。


そして。

予想しなかったことに、ドルノを主役にした物語は、留学先の国で大人気になった。貴族も庶民も広く読むような物語になった、らしい。

この本で人気作家の地位を得た、というその友人は、喜びのままに、ドルノに状況報告と、特別に立派に装飾した例の本を贈ってきた。


これは駄目。


絶対、秘密にしなければ。


ドルノはぬいぐるみたちに真面目に頼んだ。


「絶対、家族の誰にも、この本の事を教えないで。あなたたちは読んでもいいけど、ぬいぐるみ以外は読んじゃ駄目。良い? お願いよ」


分かった、とぬいぐるみたちは頷いてくれた。

ドルノは、これで秘密は守れられると、安心した。


***


ドルノには、兄弟が4人いる。ちなみに、結婚相手のディアンにも兄弟が4人。


そして、そのうち、ドルノの一番上の兄クロルは、ディアンの一番上の姉リュイスと駆け落ち結婚した。

まだ早い年齢で、特にリュイスの父が早すぎると反対した結果だ。


クロルとリュイスは、諸国をめぐる商人になった。


そんな彼らは、駆け落ちで家を出て行った割に、マメに状況を連絡してきて、時折家に戻ってくる。

そもそも、商売で扱うのが、父たちが作る道具なので、仕入れのためでもある。

そしてそんな時は、他国の見事な商品も持ち帰って来てくれて、家族には特別に安く売ってくれる。


だから、一番上の兄夫婦が戻ってくるのは色んな意味で楽しみになっている。


のだが。


今回、兄夫婦の帰還にて、ドルノはめまいを覚えた。

一番上の兄クロルの妻、リュイスが家族の前で一冊の本を取り出してみせたからだ。


「これ。驚いて思わず買っちゃったの。ドルノちゃんが主役で、ディアンと結婚するまでが書いてあるの。びっくりよ」

他の家族は不思議そうな顔で、リュイスが持って見せている本を見つめている。

ちなみに、タイトルは読めない。

他の国の言葉で書かれているからだ。


「『恋が成就したものがたり』っていう題よ。翻訳もので、本当は別の国の物語だけど」

リュイスが本をめくって見せながら説明を始めるのを、ドルノは慌てて制した。

「リュイスちゃん! 待って! ストップ、お願い!」


「え。うん」

リュイスは真顔でドルノを見つめてから、ニッコリ笑った。

「ちなみに私、読んじゃった」

えへ、と可愛らしく笑われたが、ドルノには悪魔の微笑みに見えた。


「私が、買うから、他の誰にも、見せないで」

「え、でもこれ」

リュイスが少し驚いたのを、兄クロルも首を傾げた。

なお、今は、勇者の仕事で家に不在のディアン以外が全員揃っている。

「ドルノ、でもこれ、俺たちが持ち帰ったのはこの1冊だけど、普通にたくさん、市場に出回ってるぞ」


ヒィイイイ・・・!

ドルノが無言で悲鳴を上げて震えるのを、家族が何事かと見つめている。


ドルノが言葉なくリュイスの持つ本に手を伸ばすのを、リュイスとクロル夫妻は顔を見合わせ、少し考えたようになって、皆の前から隠してくれた。

「分かった。大丈夫、えー、でも、これが市場に出回っているのは本当で、それにこれは翻訳された本だから、他の国で人気だから翻訳されたという事で、つまりね」

「良いの、言わなくても状況は理解できるわ」


「どういうこと、ドルノお姉様」

ドルノの妹のノルラが不思議そうに尋ねてきた。他の家族もドルノの答えを待っている。


「これは、その・・・・」

ドルノは顔を赤くして言い訳を考えたが無理だとも判断していた。

現物がそこにあるのだ。しかも、リュイスは読んだのだ。リュイスどころか、大勢が。


「留学先の、イツィエンカで、懇意になった方に、その、私の事を本にして良いかと尋ねられて、それで、その時私は冷静じゃなかったのよ、軽い気持ちで、良いと答えてしまったの。だって、あくまで趣味で書く事を楽しんでおられた人だったの、その時は・・・」


クロルが口を開いた。

「大人気で、初版本は高値がついているらしい」


なんなのその情報!

余計なのよ。

ドルノは実兄に心の中で毒を吐いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ