2話 国の"元"大召喚魔法師ってマジですか!?
「ん、んぅ。」
気を失っていたのだろうか。
確か、もう一度転生するために二階の窓から飛び降りて…。
「あら、目が覚めた?」
聞いた事のない声だった。シェフでもなければ、見習いシェフ達でもない…。
ゆっくりまぶたを上に持ち上げた。
「誰?」
目に飛び込んで来たのは、瞳が深い紫色の女の子だった。
薄い桃色と、紫色のグラデーションの髪に、緑色のリボンのついたカチューシャらしき物をつけている。
「あなた、三時間も寝ていたのよ…。」
「マジですか…。」
女の子が私を見下ろすように、言ってくる。
そんなに寝ていたとは、思ってもなく自分に呆れてしまった。
「ここは…」
生暖かい風が吹いた。
そう私が問うと、女の子は首を左に向けた。
そこには、見慣れた王宮…城があった。
多分、同じ世界なのだろう。
転生大作戦は失敗に終わってしまった。
ここは、おそらく私が落ちたところの近くなようだ。
横たわっているからよく分からなかったが、私の周り一面にたくさんの花が咲いている。
窓から見た、王宮の庭のどこかだ。
「あなたが…助けてくれたの?」
万が一、ヤバイ人だった場合すぐに逃げなければならないのいため、私はゆっくり立ち上がった。
「はぁ。急に落ちてくるんだもん、びっくりよ。慌ててキャッチしたわ。」
ーー私は、この子にそれだけの力がある事にびっくりです。
「というか、お前!」
ビシッと、私の方へと人差し指を向ける。
「誰?なんて、失礼きまわりないわ!」
女の子の身長は、私と同じくらいなので失礼ではないのでは…。
とか、思いながらもせっかく助けてくれた恩人なので、失礼かもしれない。
ーー死なせてくれた方がむしろありがたいのだが。
「あぁ、ありがと!」
素直に感謝を述べた。
すると、女の子はそこじゃないと言いたげな顔をした。
「あなたね…」
今度は自身が着ている緑色と紫色が入っているドレスっぽい物を両手指で指した。
「私が誰か分からないの!?」
面倒さいやつに助けられたと思いながら、はてと考える。
「レオナルド・ダ・ピンチ?」
かつて、歴史の授業で習った、バカな私が唯一覚えている有名人を自信満々に行った。
「ちがーーーう!いや、誰よそれッ!」
再び、可愛らしい人差し指をこちらに向けながら、突っ込まれる。
ーーいい線いってたと思うのだが。
「私の名前は、ラック!この国の元大召喚魔法師!!」
「え、元?」
すこし、デリカシーのない事言っちゃったかなとか思ったが、ラックちゃんはふてくされたように答てくれた。
「追放されたの。」
「誰に?」
「今日、メーリス姫に。」
まあ、有り得ない事ではない。
姫は、乱暴でわがままな性格だと言うことはシェフ見習い達でも噂だった。
詳しいことは知らないが、シェフが姫のところに食事を持って行った時、『要らない』と言われて帰された事があるとか…ないとか…。
「まあ、落ち込むなって。」
私は、立ち上がりラックの肩をポンポンと叩いてやった。ラックの顔をのぞきこむと目が点になっていた。
「え、」
「お、おとこが…。」
なぜか、プルプルと肩が震えている。
なんか、危ない気がしたので慌てて私は距離をとった。
「レーディーに気安く…触るなッ!」
ラックは手を上へとかかげた。私の足下に魔法陣が出現する。
それも巨大な。
ドガァァァァアアアアアン
悪い予感しかしない。
「わぁぁぁぁぁぁ!?」
すると、私は上へと持ち上げられた。落ちそうになるのを、何とか踏ん張る。
「いや、なんで!?」
持ち上げられた原因は…岩だ。
下を見ると、3メートルぐらいもある。
「いや、何すんだよ!」
私が少しでも油断をしていれば、軽傷では済まなかっただろう。
「お前が近いから、悪い。」
ベッと可愛い舌を出して言う。いや、可愛い。可愛いから、許される。
だが、1つ腑に落ちない点があった。
「あの…、私……女なんですけど…。」
「は?」
ラックは、有り得ないという目でこちらを見た。
「いや、でも、あんたどう考えても」
「そこを動くな!!!」
何者かの声によって次の言葉は遮られた。
声のする方を見ると、10数人の男達がいた。皆、黒い帽子に白や銀色の鎧を付け、こちらに刃を向けている。
私は、血の気が引いていくのがはっきりと分かった。
「こちら、メリース軍団だ!お前は元大召喚魔法師だな?そちらの者は…付き人か何かか?」
「メリース軍団?」
そんな軍団あったのだろうか。
「メリース姫君が開設したお遊び軍団みたいなものよ。恥ずかしいから国王様はあまり周りに知らせないようにしてたの。」
少々…いや、かなり毒舌ながらも、ラックは教えてくれた。お遊び軍団を作るほどとは…、姫も随分お暇をしているようだ。
「遊びなどはない!」
1番中央の人が、反論をする。
「姫はお前の悪事を見つけ、追放しッ!
国の安全を守ろうと考えて下さる、優しいお方なのだ!」
姫が、優しい人だなんて聞いたのは初めてなような気がする。実質、私は一度も会った事もないし、見たこともないから本当なのかどうかは分からない。
それより…気になったのは……。
「ラックちゃん…何かやらかしたの?」
左に居るラックを見た言う。だが、少女は無言のままだ。
「メ……………の…………をた………の。」
「え?」
あまりに小さな声で、全然聞き取ることが出来なかった。
「だがらッ!
メリース姫のお菓子を食べたの!」
ーーえ、いや…まさか。
そんな事で追放されたのか。
「あまりに些細な事だな。ウン。」
そう言わざるおえなかった。
周りの騎士達も呆然として、こちらを見ている。まさか、ラックの追放理由など知らずに追ってきたのだろうか。
「ゴホンッ、ともかくッ!」
騎士の一人がわざとらしく咳払いをして、話を戻した。
「お前達を処罰する!」
そう言って、騎士達は剣を抜き私達の方へと突進した。
「ヤバイヤバイヤバイヤバイ!」
私は、ラックちゃんの手を取り、後ろを向いて走り出した。
手なんか握っちゃってるから後から、隕石でもぶつけられるかなと思うが、『後』があるなんて言う保証もない。
綺麗な花を問答無用で踏みつけながらただ、走り続けた。
「あ、オワタ。」
真っ直ぐ走っていただけだったので、王宮の敷地の一番端に到着してしまったのである。
敷地は上から見るとだいたい長方形になっていて、その端には魔法で出来た百メートルくらいの柵が立ち並んでいる。
そのため、侵入も逃走も百パーセント出来ない。
「ここまでだ!」
後ろから追いついて来た騎士が、剣を振り下ろす。とっさに私はラックを突き飛ばした。
ギュイン
「いっ……。」
背中に強烈な痛みが走る。焼けるような痛みで、なかなか立ち上がることはできない。ラックは、倒れたまま、呆然とこちらを見ている。
「止めだ!クソども!!!」
騎士がもう一度剣を振り下ろそうとする。ラックの方へと手を伸ばし、もう一度突き飛ばそうとしたが、とてもじゃないが間に合わない。
「逃げて!!!!」
自分が涙を流しているのも気にせず、精一杯の声で叫んだ。
今にラックに剣が当たろうという瞬間、彼女の口が小さく開き、こう言ったようか気がした。
「バカね…。」