幕間:黒ノ涙
主よ、ワタシには――オレには夢があるのです。
ああ主よ、貴方はきっと笑うのでしょうね。
オレはただ箱庭が、貴方がお造りになるその箱庭が、
「幸福」でありさえすれば、ただそれだけで嬉しいのです。
たとえ彼らがその世界のすべてを否定しても、
たとえ貴方が御自身の庭の出来映えに満足なさらなくとも、
それでもオレはその庭に暮らす
生きとし生ける者総ての「幸福」を考えずにはいられないのです。
主よ、貴方はきっと笑うのでしょうね。
主よ、万物の主たる我が主よ。
貴方がお作りになるのは、
いつも悲しくて切ない庭ばかりです。
けれどオレは自身に課せられた使命を、
もちろん良く理解し、わきまえているつもりです。
手を出さず、何もせず、ただただ見詰め、
貴方がお造りになった子供たちの狂いゆくさまを、
何があっても静観する、その辛さよ。
主よ、貴方はきっと笑うのでしょうね。
ああ、主よ。どうか主よ。
次こそは、次の庭こそは、彼らの願いが聞き入れられますように。
そうしてその庭に生きる総ての者どもが等しく、笑顔でいられますように。
何があっても彼らの赤い糸がほつれることがなく、
何があっても、もう誰も、傷つけ合うことのないように。
そう申し上げたとき、貴方は心底、不思議そうなお顔をなさいましたね。
けれどもその後で、貴方はしっかりと頷いて微笑みを下さいました。
また、新たな庭が生まれようとしています。
我らに行けと仰るのなら、
もちろんオレは進んで参りましょう。
それはアイツだって、同じ気持ちです。
ですから主よ、どうか主よ。
教えて下さい、次こそは。
人の持つ心の優しさを。
人が持つ思いやりの心性を。
それこそは貴方の願いであるはずだから。
「人間」というものを生み出した貴方の、
それがたった一つの願いであるはずだから。
こう申し上げれば貴方は笑うでしょうか。
オレには夢があります。
その夢は、きっと叶うはずですよね?
今度こそは、彼らが幸せでありますように。
次の庭こそは、すべての人々が幸せな笑顔でありますように。
もう誰一人、黒の涙を流すことがありませんように……。
オレは籠鳥。いつだって貴方の籠鳥。
何度、人を諦めても、
何度、人を見棄てても、
それでも、可哀いと想ってしまう、哀れな黒鳥。
人ひとり満足には救えぬ、非力な下僕鳥――。
〈黒ノ涙 終〉
??『白ノが口を利いてくれぬ。白ノはまた、我を見棄てるのか……』
黒ノ「それは貴方があからさまに、はぐらかしたからでしょう。裏切るだなんてそんな。あり得ません、主よ」
??『どうだかな。そうじゃ……お前も一度、我を見棄てようとした。我は覚えておる』
黒ノ「あれは……オレたちの〈残像〉がやったことでッ! あの時にはもう、〈あれら〉とオレたちの繋がりは」
??『ふふ。分かっておる、冗談じゃ。次の庭でも、キリキリ働いておくれ』
黒ノ「…………もう、主よ」