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序幕

そのタマシイは、いつまで転生を繰り返すのか。

その呪いは、いつまで二人を呪縛するのか。

何度巡っても必ず出会い、どんなに足掻こうとも必ず惹かれ合う。

その二霊は、いつまで輪廻の責め苦を負うのかーー。

 その国の、寂れた王宮にはたいそう立派な玉座があって、多少古めかしいが美しい装飾と頑丈な造りである。


 その玉座に、腰かける者があった。

 まだ若い。齢は二十五、六と言ったところか。端正な顔立ちと優雅な気品とが即座に感ぜられたが、彼の切なげな様子がそれらと拮抗して、やはり幾分幼さを覚えた。



 王には家族がなかった。家臣もなかった。付き従わすべき民草さえ、一人もなかった。本当に天涯孤独となった身だった。


 当然であった。この王が自ら望んだ結果なのである。



 父母はいずれも流行り病で早くに亡くし、十余りで次期国王に即位した。

 兄弟たちは家臣たちとともに国外に追放した。姉妹たちは早くにすでに隣国の王侯貴族のところへ嫁がせてある。臣民もすべて、国から追い出した。


 と言うよりはむしろ、この若き王の言行動に呆れ果て、王宮ごと王の方が見捨てられたと表現した方が正しいのだろう。


 しかし、王は特段気にとめた風もなく、むしろその国には自分自身しか居ないという事実に安堵さえしているようであった。




 彼の目は、眼前に置かれた一体の石像に向けられていた。


 かたどられているのは美しい、若い半裸の女だった。それはそれは瑞々(みずみず)しい、滑らかな大理石の彫刻で、生命力に溢れていて、あたかも一個の自律した生き物であるかのごとく感ぜられた。


 青年は広い玉座の間の、陛の上の玉座から、数段低い位置に置かれる半裸婦の石像を注視している。

 向こうも、こちらの顔をじっと注視しているように感ずるのは彼の気のせいではないだろう。


 彼と彼女はお互いに見つめ合いながら昼夜を過ごし、その為に人々は誰も王宮に近寄らなくなった。

 最後の臣下が暇を請うてからどれくらいの年月経ったのか、青年には分からない。


 王はただ、その石像を見つめられさえすればそれで良かった。




 美しい女性の像は今日もまた、一段と瑞々しい。


 孤独な王は、そっと瞳を閉じて静かに泣いた。





〈序幕・終〉

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