21枚目~23枚目
21枚目
押すロスだ……。
押すロスって何だよ!
押すロスになる奴なんていたりするんだ……。
次の日、学校へ行くと黒板に大きな文字でこう書いてあった。
『押すを取り戻せ!!』
押すを全面に押し出すホームルームって……平和だな。え?何この議題?小学生!?
僕以外に押すロスになる人が、こんな身近にいた事に驚いた。
あ、いや、そこは、真田は意外とみんなに愛されていた。というべきか…………
「真田は?」
「まだ来てない~!」
「真田抜きで先に始めるか~」
学級委員長が教室の前に出て来て、ホームルームが始まった。
「はい、真田の押すを取り戻す件に、意見ある人!!」
「はい!」
真田の友達、青木さんが手を挙げた。
「思うんだけど、そもそも押す子が押す止めたのはさ、押す子はあの藤木先輩に選ばれたんだよ?それで押す止めたなら、押すやめてもいいんじゃないの?」
すると、口々に意見が出た。
「それって、押すやめなきゃ彼女になれないって事?」
「押すやめてまで彼女になりたいかよ?」
「いや、藤木先輩だぞ?人を刺してでもなりたい奴はごまんといるだろ」
いやいや、まず『押す』じゃなくて、空手部じゃないの?みんなスタートがおかしいって!
「今さら、真田の返事が、はい!ってなんか違う気がしないか?」
「わかる!なんか、こう、真田感が無いって言うか……」
真田感って何?サラダ感?
「そりゃ、押す子の押すは、押す子感があるよ?」
「それ気合いの問題だろ?」
「押す以外に気合いの入る言葉なんてあるか?」
すると、議論はヒートアップ
「オラに押すをーーーーー!!」
「ギブミー押す!!」
どんなテンション!?
何だろう……もはや話し合いというより、ディスってる?いじってる?
本人不在が余計不毛な気が……。
「じゃあさ、逆に、真田さんが押すって言いたくなるようにすればいいんじゃない?」
「どうやって?」
すると、誰かがこんな事を言い出した。
「みんな押すって使えばいいんじゃない?」
みんな………………押す?
「そうだな!押すだな!」
「おう!押すしよう!!」
待て待て待てーーーーー!!
こうして僕のクラスは、何故か『押す』が言いやすいような環境にする事になった。
「押す保護だね。」
押す保護?何護ってんの?
「みんな押す恋しくて、押す使うようになっちゃったんだね~!」
押す恋しいって何?!
みんなにとって押すって……一体何!?
22枚目
そんなホームルームの最中、真田が遅れて学校にやって来た。
「おはよー」
すると、クラスのみんなは口々に言った。
「押す!」
「おーす」
「押ーーーーす!!」
「オイース!」
「押す押ーす!」
今の誰だ?いかりや長介出てきたぞ?
「みんな、どうしたの?」
「押す子には、みんな押す子でいて欲しいんだよ」
真田は目に涙を溜めて言った。
「みんな………押ーーーーーーす!!」
みんなは真田に口々に押すと言った。
「押ーーーーーーす!!!!」
「押す押ーーーーす!!」
「押す!!」
「オイース!」
だから、コラ!いかりや!
クラスは押すであふれ、真田は泣いていた。
………………何?これ?
結果、みんな『押す』って言いたいだけ。
でも、今なら押すって言っても恥ずかしくない気がする!
「お………………」
僕は思わず押すと言おうとした。
いや、無理だよ!!普通に恥ずかしいよ!
空手やってないんだよ!無流派なんだよ!!
真田の友達が、泣いている真田の背中を優しくさすりながら言った。
「押す子は押す子だよ。先輩にも、押す認めてもらおうよ!」
「え?先輩?もう別れたけど…………」
「えぇええええ!!」
その場にいる全員が驚愕した。
それを聞いたクラスのみんなは、手のひらを反したように『押す』をやめるように説得していた。
「押す子、今すぐ押すは捨てな!」
「押すはもう言わないって言ってやり直してもらえ!」
「押すの無い、先輩好みの女になるんだ!」
え?今までの何だったの?
「え?私、押すやめないよ?」
何故か真田は力無い笑顔で言った。
「だって、また空手部に戻ったから」
え?空手部に、戻る?
どうなってるんだ?
23枚目
もう、真田の部活終わりを図書館で待つ必要なんか無いのに………………放課後の時間を図書館で潰してしまう。
帰ろうとした瞬間、名前を呼ばれた。
「押す!柳沢!」
「真田?」
どうしてここに?部活終わったなら、裏門からでも帰れる。図書館にわざわざ寄る必要なんてないはずだ。
「あの、柳沢、この前はごめん」
何、普通に謝ってるんだよ…………そこは、押すだろ?
「本当はね、空手部に戻る条件で、先輩と別れてもらったの」
「は………………?先輩にフラれたんじゃないの?」
「私が押すした。これ、みんなには押すね。」
嘘だろ?あの藤木先輩を振るとか………………
真田、頭、大丈夫か?
「あ、柳沢に遠慮とかじゃないからね?」
「それ聞かなくてもわかってるから」
すると、真田はくしゃくしゃになった紙を渡して来た。
「柳沢、これ、押すして!」
手紙………………?
真田の目の前で、僕は手紙を読んだ。
『柳沢へ、柳沢は先輩の事が押すかもしれない。でも、私も押すだ!!柳沢の事が押すだ!!』
こ、これは………………!!告白!?
これって………………ラブレター!?
しかも…………出た!!これは真田の伝家の宝刀!!
押すのゴリ押し!!
何だろう…………押すのせいで何か大事な何かが半減してるような……。
「柳沢、押す?」
僕は迷って迷って…………返事をした。
「………………押すだよ」
僕は何だか恥ずかしくて、真田の方を向けなかった。
「それ、押す?」
「押すだよ」
「それって押すなの?それとも押すなの?」
やっぱり『押す』じゃ伝わらない。
僕は真田の手を取ると、引き寄せて抱き締めた。
「押すだよ」
これなら、きっとわかるはず。
「押す!柳沢、押すだよ!!」
すると、図書館に数人の女子の先輩達がやって来た。
僕達は慌てて離れた。
そして、何故かお互いに押す押す言っていた。
「押す押す押す!」
「押す押す!」
すると、先輩達に怒られた。
「あんた達いい加減にしなさいよ!?」
「押す?」
「毎日毎日、押す押す押す押す!ホントうるさい!!」
先輩達は今日まで我慢していたらしい。
「いちゃつくなら外でやれ!!」
「押ーーーーす!」
押すで返事すんなよ!
「あ~!もう押す止めー!ハイ、押す禁止!!図書館押す禁止~!」
「えーーーー!!」
それからというもの、図書館に『押す禁止』という謎の張り紙が張られていた。
でも、いいんだ。
それは…………真田は廊下ですれ違った時に必ず
「柳沢、押すだよ。」
そう小さな声で言う。
でも、その『押す』の意味は………………
僕にしかわからない。
追伸
でも、
「ちゃんと柳沢も押すって言って」
って言われたから………………
「僕も押すだよ」
って言ったのに、
「はぁ?!押すじゃダメ!ちゃんと言ってよ!!」
って言うのは…………おかしくない!?
君は押すでよくて、僕は押すじゃダメなの!?
それだけはどうしても納得いかない!!
もう、押すは…………押すだ!!