表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

6枚目~10枚目


6枚目



これはマズイ。こんな物、誰かに見られでもしたら…………僕はおしまいだ。完璧に勘違いされる。先輩のストーカー(男)だ。気色悪いにもほどがある。


図書館でそのノートを鞄にしまおうとしたら…………


「押す!!柳沢、押す!!」


あ、いや、これは!!


持っていたノートを真田にいとも簡単に強奪された。


「柳沢…………これ…………」


真田はそのノートを見て、その手が震えていた。


「いや、あの、これは!違うんだ!!」

「押す!これ、スッゴい押すだよ!分かりやすい!柳沢は頭がいいんだな!」


何故か感心された。


まず、先輩の魅力はわかった。ここから適当に、好きになった理由やエピソードは捻出できそうだ。


あとは………………


今度はこっちの魅力をどうやって伝えるかだ。


この『押す』をどう押して行くかが問題だ。


それから、今度は真田をストーキング……いや、観察する事にした。


すると、瞬く間に、僕が真田の事が好きだと噂がまわった。


廊下ですれ違った時に、真田に肩を叩かれた。


「押す、押す。」

「押すで慰めるなー!」


誰のせいでこうなってると思ってるんだよ!真田のせい…………


「ごめん。柳沢には迷惑ばかりかけるな。」


それは………………。


そこは、いつもみたく、押す!!でいいだろ?


それから僕は、真田から目が離せなくなってしまった。



7枚目



真田を観察すると、真田の事が色々とわかって来た。空手バカは見たままだ。


すぐに部活を始めたいのか、基本の服装が胴着だ。下がたまにスカートになる時がある。スカートから覗く足が白くて綺麗だった。


たまに空を見上げて、押す!!と気合いを入れ直す。


いつもお昼はお弁当で、豆乳をよく飲んでいる。


ほぼ、押すしか言わないのに、よくクラスの女子と笑い合っている。


勉強は恐ろしく苦手のようだ。先生に当てられても、押す!!しか言わない。答えが全部押すってずるいような……。


僕は、押す!!が聞こえると、ついそっちの方を向いてしまう。


笑い声が聞こえると、見てしまう。


話し声が聞こえると、聞いてしまう。


おかしい。


そのとき、僕はようやく気がついた。僕は真田の事を…………いやいや、そんな訳がない。


何かの間違いだ。



8枚目



僕は何とかラブレターを完成させた。


それを、真田に見せると………………真田は少し迷って言った。


「押すだな……」

「押すじゃわかんないって。」

「難しい……。」

「難しい?」

「これ、感想文みたい。」


読み直してみると……何ともガチガチの作文だった。


結局、僕にもラブレターの文才は無い事がわかった。


「ごめん。僕には無理みたいだ。」


今では、色々な意味で無理だ…………。


僕には書けない。


「押す、押す!押すだよ柳沢!」


何となく、大丈夫大丈夫。と言われた気がした。


「これ、先輩に渡して来る。」


そう言って、僕の書いたラブレターを持ってどこかへ行ってしまった。


ひょっとして…………真田は気を使ったのかもしれない。きっと、僕をがっかりさせたく無くて……。


だから先輩に…………


いや、ちょっと待て?


僕が書いたラブレターを真田が渡したら…………それって、真田が書いたみたくならない?


こ、こらーーーーー!!


僕は真田を追いかけようとした。でも、もしここでラブレターを渡す事を阻止したら…………


それこそ、僕が真田の事を好きだと証明してしまうんじゃないか?



9枚目



ま、まぁ、あんな手紙に、先輩がなびくわけがない。そうだ。どうせすぐにゴミ箱行きだ。


それから数日後、僕が図書館で本を読んでいると、真田はラブレターの返事を持って来た。


返事!?まさかの返事!?


どうやら、あの読書感想文のようなラブレターがいいように評価され、文通のやりとりを始める事になった。


文通………………?


「押す!!」

「押すしか書けないのにどーするんだよ!」

「押す押す!!」

「まぁまぁ、じゃないんだよ!」


まさか、僕がまた書けばいいとか思ってない?


僕がまた手紙を書いたら、完全に真田のゴーストライターじゃないか!


今度こそ、自力で書かせる事を決心した。


真田の目の前に紙を置いて、シャーペンを持たせた。


「押す、お酢押す?」

「雄、お酢押す?何だよそれ!!」

「だって、押す以外っていつも言うから……」


だからってお酢と雄の内容でいいわけないだろ~!?


「やっぱり僕が書けばいいとか思ってない?」

「押す!!」

「絶対に嫌だ!もう書かない!!」

「押す……。」


真田はあからさまに落ち込んだ。


「押す……あの手紙で、多少なりとも柳沢の思いは伝わったんだ。柳沢の手紙が望まれているなら……柳沢が書く方が押すな気がする。」


やっぱりだ……。


普段、押す押す言ってるから、普通に喋った時に聞き入ってしまう。


きっとそのせいだ。そのせいで、僕は真田を好きだと勘違いしたんだ。


「でも、僕が書いたら、僕の気持ちは伝わっても、真田の気持ちは伝わらないだろ?」

「その方が押すだろ?」


ん?


その、押すは、その方がいいって事じゃないの?


その方がいい?


「柳沢の気持ちに、気がつくのが遅くてごめん……」

「は………………?」


その一言に頭が混乱した。


「最初はなかなか信じられなかった。……でも、手紙、渡してきた。後でちゃんと、柳沢が書いたって説明するから。」

「ちょっと待てぇええええ!!」

「押す?」


勘違いしている!!真田は確実に勘違いしている!!


「別に、僕は先輩の事が好きとかじゃない!!」

「押す、押す。」


いいからいいからじゃないんだよ!


「断じて違う!!違うから!!」

「おす、おーす。」


お前が声のトーン落とせって言うなよ!!むしろ日本語喋れ!!


「もう、隠さなくてもいいんだ。絶対誰にも押すだから。」

「いや、だから違うって!」

「押すだ!押す!!任せろ押す!!」


何故か、真田に応援される事になった。



10枚目



真田に渡された、先輩のお手紙を読んでみた。



『前略、お手紙、ありがたく拝読させていただきました。』


なんて達筆な文字なんだ?先輩年いくつだよ?


『あなたから素晴らしく心の籠ったお手紙をいただき、とても感銘を受けました。こらからもお手紙をいただけると嬉しいです。 かしこ』


え?これだけ?ん?かしこ?


………………待て?かしこって女が使う言葉だよね?


先輩、間違えてた?いや、先輩に限ってそんな事…………でも、そんなミスあり得ない事もない。


もしくは………………女が代筆している?


あれだけモテる先輩だ。先輩のためにそんな代筆をするような女の1人や2人、いてもおかしくはない。


真田への手紙を、女が………………?


何故だか急に許せない気持ちになった。


自分も、同じ事をしているのに……。


でも、真田がこの事に気づく事はまずない。


黙っていよう。黙って、返信を書こう。


僕が図書館で悩んでいると、部活帰りの真田がやって来た。


「押す!!柳沢!返事、書けた?」

「まだ………………。」


僕が悩んでいると、真田は隣に座って言った。


「押す…………ライバルの手紙書くなんて……押すだよな?押す…………。」


押すで謝るなよ……。


「いや、だから、ライバルじゃないから!」


真田は心配そうにこっちを見た。


「じゃあ、何で押すなの?」

「落ち込んでる訳じゃない。」


「じゃあ、押す?」

「元気があるように見える?」


「あ、もしかして押す!?」

「熱なんかないよ。」


って……何なんだよこの会話!!!!


『押す』が当たり前過ぎて、いよいよ色々な『押す』を理解できて来た自分が怖い!!


「柳沢!押す分けできるなんて押すだな!!」


押す分けって言うなーーーー!!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ