表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

1枚目~5枚目

シリアスを書いた後は何故か、無性にくだらない事を書きたくなる習性がありまして…………


駄文にお付き合いいただけると幸いです。


1枚目



もしこの手紙を書いたとしても、決して読まれる事はない。


拝啓


なんて書いても、君はきっと、なんて読むの?あ、これ拝むって読むんでしょ?なんて言って、僕を困らせる。


僕は困ってるんだ。君の事が好きで、本当に困ってるんだ。


君は別の人が好きで、この手紙を読む事なんて、決して無い。


これは、読み手のいない手紙なんだ。



「柳沢!!押す!!」


そう言って君は毎日、僕の所にやってくる。


「押す!!押す?」


できれば、日本語をしゃべってもらえると助かる。


「押ーーーーー す!!」


残念。そっちは理解しても、こっちは理解してないんだ。


「押す押す押す、」


何なだめてんの?だから、普通にまぁまぁって言えばよくない?


「でもさ、空手女子はこれが普通だから。」


そう言って、すぐに開き直る。


僕に、ラブレターの代筆をさせているクセに……。



2枚目



それは、3ヶ月ほど前。放課後、帰り支度をしていると、胴着を着た女子が目の前にやって来て言った。


「押す!!柳沢!!柳沢は文芸部だったよね?」

「そうだけど……?」

「頼む!!ラブレターの書き方を教えてくれ!!」


そう、突然お願いされた。


それは、空手部の超イケメンで有名な先輩が、手紙を欲しがっているという話から始まった。昔の人は和歌だけでその人の人となりを見て判断してた。自分もそんな文章の書ける女の子に出会ってみたい。という話らしい。


空手部の先輩を狙う女子どもは、こぞってラブレターを先輩に書いた。この、同じクラスの空手バカ。真田 理央もその1人だった。


「これじゃマズイ!それだけはわかる!!」


そう言って、自分の書いた手紙を僕に見せて来た。


しかし、この空手バカは、全くと言って文才が無かった。


その手紙の内容は………………


『押す。先輩の事が押すです。』


文才以前の問題だ。全くの意味不明。僕がこれをもらったら嫌がらせの類いだと信じて止まない。


これではまるで先輩の事を押す………殺害予告?


「これは………独特な手紙だね。」


そう言うしか無かった。


「押す!!これ、どうにかしてくれ!!どうにか、奥ゆかしい恋文に変えてくれ!!」


クラスにはまだ多くの人が残っていて、クラス中の注目の的になった。


「ごめん……。」


そう言うしか無かった。


そうして、帰宅を急いだ。


第一、バレたら大変な事になる。変な事に巻き込まれるのはごめんだ。


「押す!!」


下駄箱に着くと、既に真田が仁王立ちで待っていた。どうやって……待ち伏せ!?え?瞬間移動?え?双子?


「柳沢!!この通りだ!!押す!!」


そう言って、真田は迷わず土下座をした。


「えぇ!!ちょ、あの、いや、その、頭、頭上げて。」


僕がそう言うと、真田はすぐに頭を上げて言った。


「じゃあ頼む!!押す!!」


押すだけあって、これじゃゴリ押しだ。


こうして僕は、押しきられる形で、ラブレターの書き方を教える事になった。



3枚目



ここまで来れば、教えている間にいい感じになるんじゃね?とか思われるかもしれないが、そんなに甘くは無かった。


「まずは好きになった理由とか……」

「押す!!」

「ちょっと声のトーン落とそうか?」


僕達がラブレター講習をしたのは、もっぱら部活終わりの図書館だった。


「おーす。」


声量を落としても言う事は変わらないらしい……。


「好きになった時のエピソードとか……」

「押す!!」

「だから、声が大きい。」


全くもって進まない。


「押す!!押す!!」

「もういいや。注意されたら謝ってね。」

「押す!!」


本当に進まない。


「まず、なんて伝えたい?」

「押す!!」

「だよね……。」


ダメだ……我慢だ。彼女は至って真剣だ。


冷静に……冷静になろう。


「まず、口頭で伝える事はしないの?」

「押す……。」

「じゃあ、まず口頭で伝える内容を書いてみよう。」


真田は紙に押すと書いていた。それを見てはっ!と気がついた。


そして慌てて補足した。


「押す以外で。」


そもそも会話のほとんどが『押す』で伝わる方がおかしいんだ。



4枚目



正直、もう嫌になってきた。


「じゃあ、自分のアピールポイントは?」

「押す!!」

「以外で!!」


真田はしばらく考えて…………


「上腕二頭筋!!」


筋肉バカか?バカなのか?


「脚下。それ以外で。」


真田はまたしばらく考えて…………



「髪が強い!!」

「髪強いって何?」

「結構剛毛なんだ。」


強さを求める所がおかしいだろ?


僕は頭を抱えた。


「全然……アピールポイントになってない……。」

「押す……。」


真田も頭を抱えた。


「押す……押す……。」


そのうち、真田は押す押す言いながら泣き始めた。


「いや、その、きっとある!何かいい方法が!」


そう口から出たけど…………『押す』しかないのに、いい方法なんて浮かぶわけもなかった。


『押す』しかない?いや、待てよ?『押す』がある!!


「押すってどんな時に使う?」

「押す!!」

「はい、まず返事、他には?」

「押す?」

「疑問。」

「押ーーーす!」

「挨拶、」

「押す、押す。」

「まぁまぁ。」


って僕が『押す』の使用方法を熟知してどうする!!


『押す』の取り扱い説明書もらって好きになる奴いる!?そんな奴いたら、それこそクレイジーだよ!!



5枚目



「もうさ、シンプルに『あなたの事が好きです。』とかでいいんじゃないかな?」


僕は一般論を出して来た。そう、定型文に乗っ取って書けばいい。どうして今までその事に気がつかなかったんだろう……?


オリジナリティを出すから難しいんだ。


「それで………………先輩の目に止まる?」


それは…………確実に無理だ。普通を書けば、即ゴミ箱だ。奇抜過ぎても即ゴミ箱。先輩が引かない程度に、丁度いい工夫のあるラブレターに仕上げなければならない。


難っ!!


何だか……最難関の大学を受験するかのような気持ちになった。


「押す……。もう……いい……。」


真田は力無くそう言った。


「それでいいの?好きな気持ち、伝えなくていいの?手紙がダメなら、電話、電話がダメなら、メール、口頭、他にもやれる事はあるはずだよ。」


せっかく好きになった気持ちを無駄にするのは、何だ勿体ない気がして…………思わずそんな事を言ってしまった。


「押す!!柳沢、押す!!」


真田は元気を取り戻した。


よし、こうなればとことんやってやる!!


それから僕は、先輩を観察した。先輩のどこが魅力なのか観察し、話を聞いた。まるで、やっている事が探偵の真似事だ。


まず、先輩は誰に対しても優しい。そして、さりげない気配りができる。話を聞くと、とても分かりやすく、声も声優バリにいい声だ。特に空手の型が抜群に綺麗なのと、動きのキレの良さが格好いい。


と、書き尽くされたノートを見て、ふと我に返った。


僕は一体………………何をやってるんだ!?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ