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好き

ラブコメにはならない……とは保証できませんけど、どうだろw

 その日は少し肌寒くて、薄着でいるのは厳しかった。僕はTシャツ短パンで元気に歌なんか歌いながら、1人で繁華街を外れていく細い路地をとおって、すごく寂れた感じのする道を路地裏を歩いていた。みんなは少し驚くかもしれないけれど、僕は別に寒くなんてなかったんだ。もちろん今はそんなことしてたら寒さで身動きが取れなくなってしまうだろうけどね。


 僕ははそんなさびれた通りの建物の中でひときわ目立っている一戸建ての家の前で右向けー右をして、その一戸建てに入っていった。そう、そここそ僕の家、フェラーズハウスさ。



「ただいまー」



 周りの建物と見比べたら少し変わってるかもしれないけれど、気になるなら見比べなければいい。少なくとも僕はこの家に愛着を持っているし、デザインとしてもなかなかイケてると思うんだ。


 このころは帰ってくると、キッチンでマミーがおやつを作ってくれていた。僕は家に帰ってきて、まずその匂いを嗅ぐのが大好きだった。



「お帰りなさーい。こーらっ!ランドセルは自分の部屋に置いてきなさいっ!」 



 そう。話し忘れていたけれど、その時僕は小学生。僕はおやつが楽しみでランドセルを置く前に、まずはキッチンでマミーがどんなお菓子を作っているのかを見にいって叱られるのが日課だった。いつも叱られてから部屋にランドセルを置きに行くのだけれど、この日はちょっと他に気になっていたことがあったんだ。

 それが気になって仕方なかったから、僕はそれを部屋に行く前に訊いておきたくて、キッチンを出る前にマミーに尋ねてみた。



「今年のの誕生日プレゼントなにー?」



 この日は僕の誕生日。いつもいつも凄い誕生日プレゼントをくれるマミーとパピーだから、その年のプレゼントもとても楽しみにしていたんだ。



「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。まだ秘密よー」



 マミーは答えに迷う時、間を持たせるためか、すごく長く笑うんだ。きっと教えてしまおうか、秘密にしようか迷っていたんだね。僕は答えを知りたかったわけじゃなくて、尋ねておかないと落ち着かなかったからきいておきたかっただけだったから、楽しみにしてるねっ!とだけ伝えて自分の部屋にランドセルを置きに行った。



 部屋に戻って、僕はこれまでもらった数々の誕生日プレゼントで遊んだ。小学校に入る前はジャグリングの玉とか、シナイっていう名前のなんか固いのに軽い棒とか、ものすごく長い縄とかで、僕はなにに使うかよくわからなかったから、それで近くの野良犬を叩いたり、しばったり、吊るしたり、挿したりしてよく遊んだ。小学校に入ってからはほとんど刃物だ。僕はそれらの鈍い光沢やどこが刃先なのかもわからないような鋭さに子供ながらに心を奪われた。もらった次の日にはもうネズミとか、猫とかを捕まえてきては解剖したもんだよ。マミーに猫はかわいいからダメってすぐに叱られちゃったけどね。その日も今度はどんな刃物をもらえるのか、もしかして今度はもっと別の殺し方ができる道具なのかとすごく楽しみにしていたんだ。


 でも、僕がもらったのはそんな道具じゃなかった。そんな道具なんかよりはるかに素晴らしいものだったんだ。



「こ、こんにちは。私エリーっていいます。これからよろしくお願いしますね。」



 そう。僕がもらったのは殺してもいいおもちゃだった。

 エリーはきれいなブロンドヘアーの女の子だった。女の子とは言っても、その時の僕からしたら彼女はお姉さんというくらいには見えた。でも、その時の僕はそんなことなんかより、彼女をどうやって殺すのが一番楽しいかを考えていたんだ。


 動物を殺したとき、野生の鳥やネズミなんかを突発的に殺すのは面白かったのは、まあ面白かったけれど、霜を踏みしめるようにすぐにその面白さも淡く消えてしまうし、さらに次がほしくなった。

 気まぐれで餌をあげて育てたウサギを殺す方が面白くて、より濃いものを与えてくれた。濃いものについて、できたらちゃんと説明したいんだけれど、僕にはいまいちちゃんと説明できそうにない。でも、それが与えられたとき、僕は何かで満たされているようなそんな気分になれるんだ。それだけでもう当分は殺さなくてもいいやと思えるくらいに満たされた。それで僕は自分の好きなものを殺す方が幸せな気分になれるってことに気付いた。

 

 だから、その女の子も好きになってから殺すことにした。マミーとパピーは人は恋をする生き物なんだって言ってた。恋をした相手のことは、もう殺したくて殺したくて仕方ないけれど、死んでほしくなくて、殺したくなくて仕方なくなっちゃうらしいんだ。



「僕はトミー。よろしくね!」



 そういってから僕は手を差し出して彼女の顔を見た。彼女は無邪気な笑顔を浮かべたまま、僕の手を握ってくれた。その幸せそうな笑顔を見て、僕もつられて笑顔になった。


 殺したいのに殺したくないなんてとってもおかしな話に聞こえるかもしれないけれど、僕はそれをちゃんと理解していたんだ。ウサギを殺すときだって、殺したくなかったけれど、殺したくて仕方なかった。そして殺したらとても幸せだったんだ。だから、僕はそれを聞いて、なんて幸せになれそうなんだろうって思った。


 そして、僕は彼女の笑顔を見て、きっと僕はこのエリーのことを好きになれると思えたんだ。


* * * * *


 エリーは見世物小屋で売られていたところを、僕のマミーが僕へのプレゼントにいいんじゃないかと思いついて買ったんだってマミーは言ってた。見世物になる前は実は貴族だったんだって。その時僕の持ってた貴族のイメージなんてマミーとパピーの友達(本当は仕事で付き合いがあっただけだったみたいなんだけどね)って程度でしかなかったから、エリーもパピーとマミーの友達なのかなぁなんて風に思ってたんだ。


 見世物小屋はこの家からは少し遠いけれど、この通りにもあったりした。だから僕もそれを見たことはあるし、どんな場所かなんとなくはわかってるんだ。僕はあそこの小屋で見世物にされている人も、見世物にしている人も嫌いだった。どちらも人のようには感じなくて、とても気持ち悪かったんだ。



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