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僕のせいじゃない

 マミーとパピーが動かなくなった。

 僕が喉をナイフで胸を突いたら動かなくなった。

 でもこんなことしたかったわけじゃなかったんだ。こんなことになるなんて思ってなかった。エリーが、マミーとパピーも死なないって言うから、そんなことあるわけないとは思ったけど、エリーは死ななかったから。

 まさか死んじゃうなんて思わなかったんだ。だってエリーは死ななかったんだもん。

 マミーもパピーも許してくれるよね。だって僕のせいじゃない。エリーのせいだ。

 僕は悪くない。


 


 何度日が昇って沈んだだろう。今は暗くて見えないけれど、時間が経つほどに二人は黒くなっていって、面影もなくなっていく。今はもうだいぶ慣れてしまったけれど、臭いもひどい。


「二人は死んでしまったのよ」


 隣から声がする。エリーの声だ。僕はエリーの首にナイフを突き刺した。冗談のように血が噴き出る。それを押し込めるようにまた突き刺す。その繰り返し。

 僕の体は返り血で濡れ鼠。エリーも自分の血で以下省略。


「ふdbばいnでsまっあny」


 言葉になっていない音が聞こえる。言葉になっていないのにそれでも何を言っているのかは分かる。でもそんなの言われなくたってもうわかっている。二人が死んでしまったことなんてもうわかっている。それでも同じ言葉を言い続けるエリーの喉に何度目かわからないけれどナイフを突き立てた。今度は引き抜かない。そのままだ。

 静かになったエリーを跨いで窓辺に向かう。窓を開けると涼しい風が入ってきて、この部屋を浄化していくようだった。三人の血で濡れた服が風で冷えて僕の体温を奪っていく。寒いけれど僕の体は震えない。心が凍てついていると体の寒さも感じないんだなと思った。


「風邪ひくよ」


 刺した喉がまだ治りきっていないからか、ひどくしゃがれた声が聞こえた。僕はその言葉を無視してエリーの口に腕を無理やり突っ込む。腕を通して肉のさける音が伝わってくる。しかしエリーは平然としていて、むしろ少し笑みを浮かべる程度の余裕をもって僕を見つめてくる。左手には僕が先ほど喉に突き刺したナイフ。そいつを使って僕を殺すこともできるだろうに何もしない。してくれない。

 僕の腕は肘までエリーの口の中に入っている。顎が外れるどころか口が裂けるほどに開かれて、息もできず、首が内から弾けそうなほどに膨れ上がっているにも関わらず、エリーは苦しそうなそぶりを全く見せない。実際苦しくないのだろう。こいつはそういう化け物だ。本当にイラつかせてくれる。どうしてこいつは死ななくて、二人は死んでしまったんだろう。どうして僕はこいつを殺せないからといって。

 僕は腕を引き抜いて床に座り込んだ。


「僕はいったいどうすればいいんだ……」


 つぶやいた。本当に悩んでいるわけではない。でもなにか言わないと『僕』がそのまま消えてしまいそうな気がした。


「すきにすればいいじゃない」


 欲しくもない答えが返ってきた。


「私はそのうち殺してくれれば文句ないし、朝ご飯くらい作るよ?なんなら夜のおっ、ぁあ」


 僕は両手でエリーの首を絞めた。エリーは話の途中で喉を絞めたせいかうがいをするとき出るような音を出した。


「そんなこと……しても、私のこと殺すことなんて、できない、からさ……。とりあえず、どうやって見つからないように二人を処分するか、考えなよ」


 エリーは首を絞められながらも絞り出すようにそう言った。

 

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