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第三話 偽の勇者はかく語りき

 レムリア王の真なる勇者の宣言は、瞬く間に世界中を駆け巡った。

 対魔連合の長――魔族に対抗する人類同盟のリーダーである、世界一の大国の王が放つ言葉の意味は非常に重い。


 深い事情を知らない他国の民は勿論、レムリア王国の殆どの人間ですら、この十年戦ってきた勇者は偽者で、今回召喚された勇者こそが本物なのだと信じた。


 少数ではあるが、王の宣言に反発し、俺を庇ってくれた者も居た。

 全てを賭して戦い続けた一人目の勇者を、偽者呼ばわりするのは酷過ぎる、と。

 

 この十年を共に戦ってきた、掛け替えのない仲間達。

 騎士グラント、魔道士サティナ、槍使いミラ、次期剣聖ケイン、そして聖女クロエ。

 世界の為、王国の為、政治的理由の為、様々な事情から俺を支援して来た一部の貴族。

 ――そして今回、真なる勇者とされた男、ハヤト・ハザマもその一人である。


「ヤオミさんはこれまでずっと、この世界の勇者として頑張ってきました。言わば僕の先輩です。これからは二人で勇者として頑張って行こうと思います!」 


 ハザマのこの言葉は、全ての人々に感銘を与えた。

 ……圧倒的加護、聖剣を持ちながら何と謙虚であるのか。

 ……矢張り、彼こそが真の勇者だ。

 ……彼に任せれば、必ず世界を救ってくれるだろう。


 俺の仲間達でさえ、この時のハザマにはかなり感心させられた様だ。

 

 兄と慕う騎士は「頼もしい二人目の勇者だ」と。


 姉とも妹とも思う魔道士は「ふうん、まあ悪くはないかしら」と。


 親友である槍使いは「輪を乱す心配は無さそうですね」と。

 

 弟分である次代の剣聖は「聖剣って反則ですよねえ」と。


 そして愛する聖女は「彼がいれば本当に魔王を……そうすれば」と。


 二人目の異世界人は、驚く程早く世界に、そして英雄達に認められた。

 そしてその後、怒涛の勢いで目覚しい戦果上げて行き、俺の十年などものの半年とかからずに消し去ってしまったのだ。

 

 世界は真なる勇者、ユウト・ハザマ一色に染められた。

 功績も賞賛も尊敬も敬愛も、そして仲間達の信頼、愛情さえも、全て奴だけに向けられていった。

 

 理由は当然、ハザマの加護『聖剣召喚』が圧倒的であった事。

 己の聖なる力を、剣の形にして扱うという加護。

 これ程、勇者に相応しい加護もあるまい。


 聖剣さえあれば、俺だって……などという妬みを挟み込む余地さえない。

 現実に聖剣などという剣は無く、全てあいつの力でしかないからだ。 


 もう一つの加護『カリスマ』も有効に働いたのであろう。

 総じて、誰の目から見ても――俺から見てさえ――救世主たる「勇者」に相応しいのはハザマだけであったから。


 また、想定外の不運もあった。


 聖剣の特殊効果である、範囲内の仲間の能力を大幅に上昇させる、という力がどういう訳だか、俺にのみ働かなかったのである。

 俺は聖剣に、仲間として認められなかった。

 結果、聖剣の恩恵を受けられなかった俺と、強化された仲間達の戦力としての力関係は拮抗する。

 

 パーティーの絶対的最強から横並びへと、転がり落ちてしまった俺。

 仲間達の対応は、次第に変化していった。


 グラントはそれ程変わらなかった。

 ただ、時折俺に対して憐憫の情を匂わせるようになった。

 あと、俺よりハザマを尊重するようになった。   

 パーティーのリーダーを、ハザマと見做したのであろう。

 

 サティナは大きく変わった。

 目に見えて俺を軽視するようになった。

 お姉さんぶる事も、妹のように甘える事も無くなった。

 全ての感心が、ハザマへと流れていく。


 ミラが最も変わった。

 親友であった筈が、知人、いやそれ以下になってしまった。

 親愛が軽蔑へと、そっくり摩り替わってしまったようであった。 

 逆にハザマの事は、自分の主であるかのように信奉している。


 ケインは少し変わった。

 兄貴分ではなく、同格の相手として接してくるようになった。

 俺の現状に、同情しているようでいて、面白がっているようでもあった。

 ただ、年齢が近いライバル心からなのか、ハザマを兄と慕っている様子はない。


 そしてクロエは……

 変わらない、と思っていた。

 思いたかっただけかも知れない。

 俺への対応は変わらなかったが、次第にハザマに惹かれている様に感じられた。

 そして俺が、決定的な場面、二人の口付けを目撃してからは……

 明らかに余所余所しくなり、ハザマと行動を共にするようになった。


 皮肉な事に、ハザマだけが出会いから今に至るまで、何も変わらない唯一の人間であるように思う。

 

 俺の事も未だに、元ではなく現役の勇者だと思っているようだ。

 つい先日も、俺を偽者と嘲った貴族を一喝し、たしなめいていた。

 俺が偽勇者だという世の中の共通認識は、全く気にしていないらしい。

 

 女に対しては、自分から追いかける事はまず無い。

 だが、来るものは何人でも拒まずといった有様だ。

 当然、パーティーの女達と勇者に群がる他所の女が揉める事もあった。

 それでも結局、勇者の実績とカリスマで何とかなるのだから、真面目にコツコツやってきた俺のような人間に取っては、たまったものではない。

 

 ……例外としてクロエにだけは、自分から積極的にアプローチしていたが。


 ハヤト・ハザマという男。

 みんな仲良く、幸せになろう!いや僕が幸せにしてみせる!

 などという、正に勇者に相応しい思考の持ち主。

 

 誰かの幸せの影で泣いている者の事など、一生気付けない無神経な理想主義者。

 

 なまじ高いスペックのお陰で、大概何とかなってしまうのが始末に終えない。

 きっとこの男は、この世界に来る前から何も変わらずこうだったのだろう。


 下手をすれば、俺からクロエを寝取った事すら、よく解っていないのかも知れないとさえ思える。

 天然で無神経な奴のこと、俺たちを見て雰囲気で関係性に気付くというのは無理だろうし、その可能性も十分にありそうだ。

 俺はハザマの前でクロエとの仲睦まじい様子を見せたり、二人の交際をハッキリと話した事もない。

 

 ……それでも、普通の神経をしていれば気付きそうなものではあるが。


 他の仲間から聞かされたかどうかは流石にわからないが、例え聞かされていたとしても、そこは奴の事、自分に都合よく解釈しているのだろう。

 

 ――二人は付き合っていたのかも知れないが、彼女にアプローチしても何も言われないし、きっともう別れたのだろう!――

ああ、普通ありそうだ。


 旅の最中、様々な感情からハザマに関わりたくないが余り、奴がクロエを気にしている事に気付きながら、極力近づかないようにしていたのが今更になって本当に悔やまれる。


 ……結局、仮に俺がどんなに頑張って、二人の接近を阻止しようと行動していたとしても、事実クロエ自身が奴に惹かれていってしまったのだから、結果は変わらなかったのだろう。


 さて、ここまでくると意外に思われるかも知れないが、正直に言って、俺は自分から全てを奪った狭真勇斗という男を、悪人だとは思ってはいない。

 寧ろヤツは善人であり、色々な意味で俺などより余程、人々が望む勇者に相応しい人物であるとさえ思っている。

 

 この「勇者に相応しい人物」というのが一番の問題だ。

 想像してみて欲しい。

 今まで長々と説明してきたような人間。

 そんな男が、突如として自分の前に現れたら……と。


 繰り返しになるが、俺はハザマを悪人だとは思っていない。

 誰より勇者と呼ばれるに相応しい人物である、と思っている。


 ただ、ああこれは自分でも如何かと思うのだが、本当にどうしようもなく、口が独りでに笑い出だしてしまう程に、俺はハヤト・ハザマという男を

 

 

 ――八つ裂きにしたいだけなのだ。

偽の勇者から見た真の勇者の人物像でした

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