【二日目 首領】
【二日目 首領】
『バトル・ロワイアルとはいっても殺し合う事まではしなくていいよ。例え致命傷を負ったとしても、試合が終われば即回復できるようにはしたからね。今後の月守人の活動に支障が出たら困るっしょ?まあ、詳しいことはそれぞれの組織のサポーターに聞いてよ。では、さらばっ!』
再びモニター画面はノイズの砂嵐に覆われた。
「バトル・ロワイアル…」
少年が呆れたように天井を仰ぐ。
「それって、全員が敵同士ってことでしょうか?」
「心配には及びません」
その場の3人が振り返ると、ロロカが
辞書のような厚い本を抱えて佇んでいた。珍しく黒縁の眼鏡を掛けている。
「ロロカちゃん、どういうこと?」
「話はすべて理解しております。前代未聞のバトル・ロワイアルが始まってしまった以上、私達"日守人"はもちろん潤さま達月守人にも拒否権が一切ございません」
ロロカはそう断言した。
「拒否権がないとか言われても」
「あくまでも正々堂々と戦わせる方針か…」
「んーと、ところで、日守人って?」
深刻な表情を浮かべる潤と少年とは違って華美だけは考えるポイントがずれていた。
「そこからですか…日守人は月守人よりも下の存在。あなた方の役所の部下に当たる人たちです。常識範囲でしょう?」
「そして、上司である月守人と同じ数字を管理する日守人が私たちの秘書を勤める。ロロカちゃんは6月6日の日守人だよね」
「流石です潤さま。少し心配ですが、これなら首領を任せても大丈夫そうですね♪」
「へ?首領?」
ロロカの発言に潤は何の事かと目を丸くする。
「あ、それについては説明しておりませんでしたね。バトル・ロワイアル…今後は『12ヶ月戦争』とでも呼びましょうか。
月守人達は今後、4つの組織に別れます。『青春』『朱夏』『白秋』『玄冬』。潤さま方3人は『朱夏』に所属する者として戦っていただきます」
そこまで説明すると、ロロカは本の適当なページを開いて、潤達に見せる。
『朱夏』
・6月の月守人 潤
・7月の月守人 織彦
・8月の月守人 華美
・審判 日守人 ロロカ
「そして、ここで説明をしている日守人の上司が自動的にこの組織の首領となります」
「それがボク…」
潤は不安を紛らわすように自分の三つ編みをいじる。
「首領がこいつでいいのかよ」
名簿に書かれていた"7月の月守人"であろう少年、織彦は吐き捨てるように言った。
「ちょっと織彦さん。潤さまに失礼なこと言わないでください」
「失礼もなにも事実だろ。戦うのが嫌ならわざと負ければいい。だけど負けた方がどんなリスクを負うのかはわからないよ?戦いがすべて終わったら負け組は一斉解任の可能性だってある。下手に負けるわけにはいかないから」
「ですがっ」
「待って」
彼の意見に反論仕掛けたところで潤が静かにロロカの肩に手をのせる。
「彼の言う通りだよロロカちゃん。まだ戦いのいろはも知らないし、泣き虫なだけの私には3ヶ月を一度にまとめるのなんて無理。ましてや勝っちゃったらその4倍だよ。プレッシャーに耐えられない」
「潤ちゃん…」
「…わかりました。なら戦い方を教えるついでに改めて領主を決めましょう」
本が激しく光り、潤達の視界を奪った。
やがて、つよい光はおさまり、視界がぼやける程度には見えるようになった。場所も移動しており、廃墟のような建築物が乱立していた。
「おぉー」
一番に声を上げたのは華美だ。パーカーにショートパンツと活発な普段着から和服系統のセーラー服へと変わっていたことに驚いている。
「えっ、服装が変わってる!?どういう原理なの!?まさかアタシってきゅあプリだったとか!?」
「なわけないだろ。もしそうだったら僕は恥ずかしさでものすごく死にたい」
織彦の方も私服から爽やかなマリンスタイルになっていた。首からは方位磁石を下げている。
「あんたの服なんて別にいいんだけど!というかアタシ的には潤ちゃんの服が見たいんだけど…潤ちゃんどこ?」
「あ…あの…ここです」
2人の背後からいまにも消えてしまいそうな細い声が聞こえた。
「あ、潤ちゃ…っ!?」
振り返った2人はその場で固まってしまった。
そこにいた潤は純白のドレスに身を包んでいた。頭の左右についた紫陽花の髪飾りからは半透明のヴェールが広がっている。どう見ても戦いには向かない花嫁姿だった。
「いや…ボクなんで…この姿…ちょっと武装してるけどウェディングドレスは…」
本人も顔を真っ赤にしてうつむいている。
「いやいやいや、潤ちゃん可愛すぎかよ!しちゃう?挙式しちゃう?」
「うぇっ!?でもボク…まだ相手どころか好きな人すらいないし…」
そういう問題ではない。
「揃ったようですね。ではライフを配布します」
ロロカは指をパチンッと器用に鳴らした。潤の首元、華美の手首、織彦の腰ベルトに4つダイヤマークのチャームを通したリングがつけられた。
「そちらが貴方様方のライフとさせていただきます。1組織につき13つ。配分はそれぞれ4枚ずつ、余った一つは領主に配分される予定です」
手に余らせたチャームをロロカは簡単に握りつぶした。開いた手から破片がこぼれ落ちる。
「ライフを最後まで残した方が領主というルールで構いませんね?」
「ぼ、ボクは」
パキンッ
潤の首元のチャームが一つ砕けた。
「あぁ、問題ないよ」
ライフルを構えた織彦がポツリと言った。