ファンタジーショートショート:ビンタ
ここは、魔王城地下にある酒場。夜な夜な魔物たちがここで酒盛りをしている。
「なんだよ!その腫れた頬はよぉ!」
ケラケラと笑い転げるゴブリンと憮然とした表情の頬を晴らしたオークが居た。
「だってよぅ。すこーしだけだぜ?少しだけ隣のいい女だなぁとちらっと見たら”あんたなにみてんの!”ってかあちゃんにビンタされたんだ」
「お前の場合嫁さんの方がレベル上だしな。それにしてもくっきり跡が残ってるな!」
そのゴブリンとオークはその腫らした頬を肴に吞んでいるのであった。
「確かに嫁、彼女の方がレベル上だと大変なことになるである!」
そう言ってゴブリンとオークの話に乗ってきたのがロックゴーレムとスライムであった。
「あれ?ゴーレム先輩どうしたんですかその顔?ひび割れてますよ!」
そんなゴブリンの指摘に肩を落としながら答える。
「吾輩も怒らせたのである。しかも彼女の方がレベル的にも種族的にも上であるから凄まじい一撃だったのである・・・」
「あぁゴーレム先輩の彼女さんってアイアンゴーレムですもんね。それでひびで済んでよかったじゃないですか!」
「いや、これでもようやく治りかけたところである。ビンタされた時など顔どころか体まで半壊しかけたである」
「いや先輩も苦労されてるんですねぇ」
しみじみと同じビンタされた者同士。オークは共感を覚えた。
「でもでも!いいよね!僕なんてレベル高すぎて逆に大変なんだよ!」
ぷるぷるとスライムは震えながら語りだす。
「え?でもスライム先輩は物理攻撃無効じゃないですか?叩かれても痛くないんじゃないですか?」
首をかしげるゴブリン。
「僕の場合レベル高いから物理攻撃無効に加えて強酸性も持ってるからね!叩いた女の子の手が溶けて吸収しちゃうんだ!」
「げ・・・それはその後が大変じゃないですか」
思わずその溶かされる手を想像して気持ち悪くなるオーク達。それでも元気にスライムは喋り続ける。
「まぁそれはそれで溶かして吸収しちゃうから僕的にはおいしいし?その後きちんと治してあげるからね!段々女の子も癖になってきて変なプレイに・・・」
「やめんか!」
ごうっ!とゴーレムがスライムを叩く。しかしスライムには効果がなかった。
「もぅ僕には効かないって!でもそうだねお酒の席でする話でもないよね!」
「何やら楽しそうな話をしておるな」
「こ、これは!魔王様!」
「魔王様なぜこちらへ?」
慌てふためくゴブリンとオークをしり目にその話の輪の中に入る魔王
「たまにはこうして皆と呑みたいと思う時もあるのだ」
持参した酒を一口呑むとそう呟くのであった。
「そういえば魔王様その恰好はどうされたのです?まるで勇者と一戦交えてきたような?」
「まさか魔王様!勇者がもう近くまで⁉」
一緒に酒を呑む魔王の様子は衣服のあちこちが切り裂かれ、焼け焦げていた。
「いやそれがな・・・この前人間の国の王女を攫ってきたであろう?」
「確かこれで勇者をおびき寄せ倒す作戦でしたよね?魔王様良いお考えだと思いました」
オークの言葉に賛同する魔物たち。
「そこまではよかったのだ。しかしその王女も肉付きの良い体でな?儂もつい魔が差してな・・・その王女に少し・・・」
「何をされてるんです魔王様・・・」
げんなりする魔物たち
「しかもそれを現行犯で妻に見つかってな・・・」
「え!魔王様の奥方様は・・・」
「魔王様に一目ぼれして人間側を裏切った元勇者!」
「凄まじい攻撃であった。ビンタなんぞまともに受けたら頭が破裂してしまうわ!」
その言葉に戦慄を覚える魔物たち。
「魔王様・・・よくご無事で・・・」
「うむ。と言うわけで暫くここで匿ってもらおうと思ってな」
ぐびりと酒を飲み干すと徐に魔王は叫んだ。
「勇者よ!早く来て助けてくれ!」
「いや!それ魔王様のセリフじゃないですよ!」
魔物総出のツッコミが入るが、それに答える声があった。
「はぁい勇者様ですよー?悪い魔王はどこですかー?」
恐ろしいまでに光り輝く剣をだらりと持ちながらにっこり笑う魔王の妻もとい元勇者。因みに優しそうな笑みを浮かべているが目は全く笑っていなかった。
「もう。こんなところにまで逃げるなんて。逃げ足の速さも魔王級なのかしら?でももう逃げられないわよー?」
魔王は逃げ出した!