望まぬ・望まれぬ召喚
「おお!勇者様、よく来て頂きました!」
目の前の椅子に座った、王冠を被った50代前後の男性が、私に対して何かを言っている。―――が、何と言っているかわからない。
「まさか、成功するとは・・・」
「だが、女だと?しかも子供ではないか。」
「このようなものに、魔物との戦闘が務まるのか?」
他にも、ローブを着た男達が、何やらこちらを見ながら何かを言っているが、やはり、何を言っているかわからない。
(えっと、ちょっと待って? 私、何でここにいるの? つかここ何処なの!? それに、この人たち、何語喋ってんの? 聞いたこと無い言葉なんだけど・・・え? まさかここ、日本じゃない!?)
「どうなかさいましたか、勇者様?」
おそらく王様だろう男性が、困惑した様子で話しかけてくる。
・・・困惑してんのは、こっちなんですが?
「おお!そういえば、翻訳の魔法がまだでしたな。ローウェル、翻訳魔法の使用を」
「はっ!承りました」
王様が何か言った後、ローブを着た者の中から30代くらいの男が出てきて、床の模様(魔法陣?)に手を置いた。
その瞬間、体に何とも言えない感覚が走り、少し体が跳ねてしまった。
「ははは、これで私の言葉が解りますかな?」
「・・・はい、解りますが、今のは?」
視線を魔法陣と、それに手を置いていた男に向けて聞く。
・・・少し感じが悪いなこの男の人。
「今のは翻訳魔法ですが、翻訳魔法は、あなたの世界にはなかったのですか?」
「え? 魔法、ですか?」
魔法というと、あの魔法? いつも隆哉が話してる、あれだろうか?
そういえば、魔法のある世界に召喚されたいっていつも言ってたっけ?
・・・ということはこの状況、異世界召喚とかいうのだよね。
目の前で魔法なんて使われたら、疑いようもないし。
「まさか、あなたの世界には魔法が無いのですか? それではなにか、得意な武器などはないですか?」
「いえ、武器どころか、格闘技の経験すらありませんが・・・」
「では、戦闘技術は、まるで無いと?」
「はい」
「ふむ・・・では、ステータスと心の中で唱えて頂けますかな? それで何となく、自分の使える魔法が解るものなのですが」
「えっと、はい」
(ステータス)
唱えるとなんとなく分かったが・・・これは、
「自分が使える魔法が分かりましたかな?」
「えっと、はい。生活魔法・・・普段の生活を楽にする魔法のようです」
「・・・そうか。聞いたことが無いな、生活魔法か」
「えっと、ダメだったんですよね?」
「ダメな訳では無い。魔法を持たずに生まれる者も少なくないからな。ただ、戦闘には役に立た無い魔法ではあるだろうな」
「・・・」
「なかなか珍しい魔法なのは確かだ、色々試してみればよい」
気落ちした様子の王様でしたが、先ほどの魔法陣に手を置いていた男に話しかけた。
「ローウェル、勇者召喚でこのような者が召喚されるなど・・・」
「勇者召喚は400年前以来のものですので、殿下には召喚前に成功の確率は低いと進言いたしました。それと、召喚に成功したとしても、望んだ者が召喚されるかは、分からないとも」
「・・・そうであったな、成功したので、期待したのだが・・・」
「あの!私を元の世界に帰してもらえせんか?」
もう私には興味が無くなったようなので、2人の会話に割り込んで元の世界への帰還を要求する。
「・・・先ほどこの者が言ったように勇者召喚は400年前のもので、残された文献を頼りに行ったものだ。文献には、召喚された勇者を元の世界に帰す方法は残っておらんかった」
「そんな!」
「但し!魔族領の図書館には勇者召喚に関した文献が残っているという情報もある。―――だが、そなたに戦闘技術が無いのであれば、入手するのはほぼ不可能であろう」
話を聞く限り、この国と魔族領というのは仲が良くないんだろう。どうにかしてその文献を手に入れたいけど、王様は手伝ってくれそうにないし・・・いや、手にいれたとしてもすぐ帰れるかもわからない、生活の拠点を探すのが先かな?
黙ってこれからのことを考えていたら、王様が再び話しかけてきた。
「そなたに戦う術が無いのであれば、王城で世話をする訳にはいかぬ。だが、こちらの都合で召喚したのだ。少しくらい便宜を図ることくらいはしよう」
「先ほど言っていた、魔族領にあるという文献をくれる、というのはダメですよね?」
「それをしたら魔族との戦争が起きることになるだろうな」
やはり文献の方は無理だったか・・・というか、戦争することになるほど仲が悪いんだ。
「・・・お金を幾らか貰えますか?」
「ふむ、分かった。それだけでいいのか?」
「はい、大丈夫です」
お金が有れば大丈夫でしょ!生活拠点やこの世界の基礎的な知識も欲しかったけれど、早くここ出たいし。
「では後ほど届けさせるので、それまで部屋で待っていなさい」
そう言われたので、メイドさんに案内された王宮の一室で待つことになった。
・・・案内してくれたメイドさん、綺麗な人だったなー。
―――しばらくして、この部屋まで案内してくれたメイドさんが、小さめの袋を持って戻ってきた。
「お待たせしました。こちらが約束の品です。こちらの世界で半年程は暮らせる金額をご用意いたしました。」
そう言って、片手に乗せるには少し大きいくらいの袋を渡してきた。
・・・このメイドさん、見れば見るほど綺麗だな〜背丈は165?くらいかな?金のフェミニンボブディの髪に、メイド服をきちんと着こなしてる。タレ目もチャーミング。耳が尖がってるし、もしかしてエルフかな?
「あの?」
いつまでも袋を受け取らなかったためか、怪訝な表情を浮かべてこちらを見ている。
「あ、すみません」
あ、笑われちゃった。・・・でもすごい、笑顔が可愛い。お持ち帰りしたいくらい!
「それとこちらはエルフに伝わるお守りです。知らない世界で不自由だと思いますが、頑張ってください」
「え?私にですか?ありがとうございます・・・でも、何であったばかりの私に?」
「―――知らない土地に1人で暮らさないといけないという苦労は、私も知っているので・・・」
少し影のある顔で言う、メイドさん・・・そう言えば、名前聞いてないや。
「あの、私、朝日香奈って言います。えっと、名前を聞いても?」
「失礼しました、名乗っていませんでしたね。シャーラと申します。以後、お見知りおきを。それと、これから職に就くのであれば、冒険者になるのがよろしいかと。仕事内容は、町の方々やギルドから出される依頼などをこなすことです。こなしているうちに新しい職も見つかってきますので、まずは冒険者になることをお勧めします。場所は、冒険者ギルドに行きたい、と言えば誰かしら教えて頂けるかと。何か聞きたいことが有りましたら、そこで聞いて下さい」
「わかりました!冒険者ギルドですね!」
シャーラさんか、親切な人だなー。また会いたいけど、王宮に来ることなんかなさそうだからね・・・
そんなことを思いながら彼女に別れを告げて、王宮を後にした。
―――王宮のある場所にて―――
「―――ではあの者に無事渡すことができたのだな?」
「はい、例の『お守り』も渡すことができました」
「ふむ、ならば問題が起きた時は・・・」
「はい、即座に対処可能かと」
「そうか、ではご苦労だったな。下がってよいぞ」
「はっ!失礼します」
王の間に残った方が、誰にも聞こえないほどの大きさで―――
「あまり問題を起こしてくれるなよ?あまりに酷い場合は・・・始末せねばならんな」
と、1人呟いたのであった