幕間4
「……どこかに消えたと思っていたら」
ペネムは忌々しげにつぶやく。自身の先代たる初代“ペネム”が倒したとされているペジテント。エディは1人殺せない状況となってしまったため逃したとされていたがまさかあんなところで隠れていたとは思わなかった。そのせいで花菱蛍の抹消が失敗し、さらには精霊たちの気まぐれのせいで彼らへの氷空からの干渉ができなくなってしまった。
「妖精どもめ……」
妖精―――。
天使とは対を成す存在でインフニにおいて産まれたオリジナルの個体。ただし、妖精たちは自身の不死性、神聖性の為に個体数を増やすことなく、むしろ個体たちの融合により生存戦略を測った。そのため現在では四大精霊とされるミレイヤ、イフリート、インクルード、アクエリアスのみ。ある種賢い選択であろう。
「お兄様ー、どうするのー?」
「ハニエル。もういい。歴史は改変された」
未来歴史書を引きちぎると彼はハニエルに対してその本を放り投げる。ハニエルは受け取るとそれに小さく息を吹きかける。すると緑に発光して彼女の体内に吸い込まれていく。勝利の歴史本。その効果はかなり薄れては着ているがハニエルと融合をしたことで真の強さを示すことになるだろう。
「だが、歴史を元に戻すのも仕事の一つだ」
「そうだねー。あーあ、でもタイミング悪いよねー」
「セフィロトが苦しんでいる。彼らは生まれ変わっていないがやるしかない。天使の世界を」
グッと手を寄せる。彼の額が透明に輝く。シアー・ダアトとしての力を顕現させる。
氷空に突き刺さる生命の木。セフィロト。そこには合計で十個の木になる実と深淵にあるの上に存在する一個の実がある。
その実達は守護天使の卵ともされている。その孵るタイミングは分からず数百年の眠りの後目覚める者もいればハニエルのように先代が死ねばすぐに産まれる者もいる。現在眠るは九の実。孵っている実は二つ。孵った身は宿主にあった形に変質をし力を与えるため木には残らない。
王冠ケテル―――メタトロン。
知恵コクマー―――ラツィエル。
理解ビナー―――ザフキエル。
慈悲ケセド―――ザドキエル。
峻厳ゲブラー―――カマエル。
美ティファレト―――ミカエル。
栄光ホド―――アドナ。
基礎イェソド―――ガブリエル。
王国マクルト―――サンダルフォン。
通常であればこんなにも多くの実が眠ることはありえない。しかし、セフィロト自体が弱っているためその生命維持に実の力が必要としている。
「お兄様?どうしたの」
「考え事をしていただけだ。いくぞ、勝利ネツァク」
「ええ。お兄様。知識ダアト」
勝利の歴史本と、虚無の絶対弓を携える彼らは背の翼を大きくはばたかせて守るための戦いへと旅立った。