表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/17

3

「よく眠ってる。呼吸もしっかりしてるし、血色もいいみたい」

 僕は蛍を指定されたベッドに寝かしてから、隣の部屋を訪れ先に座ってる面々に伝える。

「そうですか。よかったです」

 アニエスさんが静かに答えると隣の椅子を引く。そこに座れということらしい。

 テーブルが中央にあり、老婆の目の前には僕とアニエスさん。僕から見て右側にクロエちゃんとカーラちゃん。左側にはローブから元の服に着替え終えたクリオが座っている。

 僕らは軽く目配せを終えるとその老婆を見る。

「この度は花菱蛍様をお救い頂きありがとうございました。私の名前は―――」

「アニエス・エローだったな。魔王、ファニー・エル・ブレーズの秘書。後私が知ってるのは勇者として召喚された篠崎健也、魔王軍第三部隊隊長、カーラ・オージェ。魔王軍、魔法部隊研究所棟副院長、クロエ・アイドは知っているが……」

「どこから情報を得ているかもわからないが、魔王軍外のことはわからないみたいだね。ボクはクリオ・ベルトワーズ。わけありで健也についてきている」

「……一時賑やかしていた義賊か」

「ふーん。その情報は入っていたんだ」

 一体どこからこれだけの情報を揃えているのか、正直恐ろしい。でも助けてくれたのは事実だし、今は大人しく話を聞こう。

「私はここで隠居しているただの老婆―――という話は通じないだろうな。私の名前はエティ・マヘルだ」

 その名前を聞いた瞬間、ヒュッと隣のアニエスさんが息を吸うのが聞こえる。

「まさか……聖職者クレリック。エティ・マヘル様、ですか?」

「昔はそうも呼ばれていたな」

 聖職者クレリック。その言葉を聞いた瞬間にカーラちゃんたちも目をまん丸くする。

「篠崎健也にはその知識を植え込んではいなかったのか」

「はい……。健也様、簡単に申し上げます。この世界で一番有名なパーティーとでも言えるでしょうか。そのパーティーは特別にそれぞれの役職はこう呼ばれております。真勇者マナブレイブ魔女ウォーロック竜騎士ドラグナー錬金術師アルケミスト、そして聖職者クレリック。本来なら勇者、魔法使い、魔剣士、僧侶このパーティーにはいませんが錬金者。このメンバーですね。そしてこのパーティーはペジテントと呼ばれてます」

 流石にそれでわかる。ということはこの人は。

「しかし、インフニができてからもはや7000年!仮に魔王クラスだとしても生きていけないし……。そもそもあなたは人間!どうして生きて―――」

「不思議に思うこともあるまい。お主らもつい先ほど体験しただろ。死なない人間というものを」

 それは蛍のことを言って……。

「しかし!その死というのはあくまでも外傷などによるダメージの事。寿命による死は……」

「免れん。普通はな」

「……わかりましたです!蘇生、中毒です」

 声がかすれるような感じでクロエちゃんがつぶやく。

「クロエ?どういうことですか?」

「私たちの研究所で進められているです。私達の体は細胞分裂を行い生きてるです。そしてこの細胞分裂は基本的にできる回数が決まっているです。それを超えると細胞が死ぬわけです。それの限界数がいわゆる寿命だとも呼ばれているです」

 細胞分裂などはこの世界でも共通なんだ。でもアニエスさんも知らないことから考えるとあまり知られていないということか。

「そして蘇生というのはその細胞分裂を無理やり活性化させ促進させる行為言われているです。ですがそれを行い続けると体内が常に細胞分裂を続けているような状況、つまり中毒状態になるとも言われているのです。そうなりますと、完全な不死の出来上がり、です」

「待って!この世界には……、癌という病気はないの?」

「癌、ですか?あるですが」

「だったら、僕も詳しくは知らないけど、確か細胞分裂のコピーエラーが悪性腫瘍―――癌の元になってるって。だから細胞分裂を無限に行うと癌に犯されるんじゃ」

「蘇生を延々と行っているんです。つまりは魔力の真正な力が使われるものです。エラーはありえませんです」

 そりゃ、そっか。完全な形で復帰するならエラーなんてありえないか。

「といっても蘇生中毒なんて机上論でしかないと思ってたです」

「だが、実際私はそうなってしまった。たとえ私の胸が貫かれようが関係ない。まぁ、それこそ塵も残らぬほどに消滅させられたら恐らく死ぬと思うがな」

「そんなの……数千度の熱で一瞬して」

 当たり前だけどすべての物質は気体、液体、固体を行き来する。ただ身の回りで言えば水ぐらいしかそれを見る機会がないだけ。人の皮膚だって、元をたどればタンパク質だったりするわけだから、高い熱で、一瞬にして焼けば赤い霧ぐらいしか残らない。そうなれば復活はできないけど……。そんなの残酷すぎるし、できるとも思えない。

「その他のペジテントの皆様は?」

「全員殺された。蘇生中毒にも足りなかったからな。私らは邪気を出来うる限り少なくするのが役目だ。強大な敵と戦いすぎて死んだ。私はダメージを受けたらすぐに回復をしたからな。死ぬより早く、死なぬ体となった」

「そう、なんですか」

 ずっと生き続ける体というのがいいことなのか悪いことなのかは分からない。人は死ぬのを自然に恐れるし……かといって死ぬのがいいのかと言えれば答えられない。僕たちはついさっき人の生き死にに逆らったわけだし。

「……ペジテントのことは気になりますがまずは蛍様のことですね」

 動揺を重ねていたアニエスさんだがいつもの調子を取り戻すようにコホンと咳打つ。

「どうして、蛍様をお助けに?いえ、まずはどこで蛍様とお知り合いに?」

 少し踏み込んだ問いかけ。なぜ蛍を手助けしたかは大切な問いだ。

「そうだな。それは―――」

「私の方から、話すよ」

「螢!」

 隣の部屋からやってきて扉を開けたのはつい先ほど眠っていたはずの蛍だった。顔はまだ辛そうに歪ませているがしっかりと二本の足で立っている。

「ほお?推測していた時間よりも早い回復だな。流石は“勇者”とでもいうべきか」

「螢!お前、もう」

「ごめんね、迷惑をかけて」

「いいから、座れ」

「ありがとう」

 僕は蛍を椅子に座らせて体調を確認する。顔色は回復はしているが通常のそれとは違い少し血色が悪い。

「それで、私とこの人、エティおばあさんとの関係だけど……。新たなる造形フェイクフェイスを付けてもらったって話したでしょ?そのおばあさんがこの人。ただ、聖職者クレリックだとか、そういう話は知らなかったけどね」

「花菱蛍はどのくらいから意識があったんだ?」

「蘇生された瞬間から覚えている……。意識はなかったけど聴覚としては頭に生きてたみたいで記憶が残っている」

「人は一番最後まで、心臓が止まろうとも意識は数分存在し、聴覚は生き続けるという……。逆に最初に覚醒する感覚も聴覚なのかもしれんな」

 エティさんは冷静に分析する。その話は僕も聞いたことがある。今更だけど人間の構造はこの世界でも同じとみていいんだろう。

「そもそもの出会いは私が単身で魔国に向かっていた時、突然現れた熊に襲われて悲鳴をあげたこと。熊なんて問題無く倒せたけど急だったからかな、少し転んで怪我をしたの」

 “熊なんて”という意識がもしアスガルに戻ってもあり続ければ感性を疑われそうだが、僕も熊など簡単にやれる自覚があるので黙っておく。

「怪我事態は白魔法で癒したんだけど疲れとかもあって色々自棄になってた時に、私の悲鳴を聞いてやってきたのがエティおばあさん。その時は魔法使いの成れの果てと自分で称してた。そこから一週間ほど、私の事情も聞かずに魔法の稽古をつけたりとかしてくれたの」

「裏はあったがな。お前が明らかに人のソレを超える魔力量、法力を持っていた点、そして勇者出現の話を聞いていたからな、すぐにお前が花菱蛍だとわかった。お前の様子を見たいというものあり、もう一つ言えば不死とはいえ腹は減るから、その料理だとか狩りだとかの人出になるというのもあった」

「あ、はは。まあ、でも私を助けて色々やってくれたの。あっ、その時は自分から自己紹介したからまさか名前を元から知ってたとかそういうのは知らなかった」

 少し困ったように笑いながらそうまとめあげる。これで蛍とエティさんの関係性はわかった。問題は次の焦点に移る。

「では、なぜ私たちの名前を?」

「ヴェル・ルーズ、ソレイト・アードという名前をしらぬか?」

「えっ……?」

「どうしてその名を?」

 驚いたように声を上げたのはアニエスさんとカーラちゃんが声を上げる。

「知ってるの?」

「私はソレイトの方だけだが……。彼は私の部隊でさまざまな部隊補佐をしてくれている。いわゆる頭脳のような存在だ。今は第三部隊の部隊長を臨時で任せている」

「私もソレイトの名は知っております。そしてヴェル・ルーズ。彼を蛍様は御存知ではないですか?」

「いいえ……」

「人間側にいるある政治家です。キレ者としても有名です」

「なるほど、そうなんだ。それで、その2人がどうしたんですか?」

「あやつらには一種の術をかけておる。必要な情報は私の脳に送られることになっておる。いわば1秒で3人分、つまり3秒分の記憶を受け取るわけだ」

「脳がパンクしそうだな……」

「脳というのはそんな簡単に壊れるものではない。完全記憶をもっていたとしても壊れることは無い」

 そりゃそうか。記憶も自然に廃れるし。

「だから私たちの名や顔も知っていてクリオの場合は名前だけだったということですか」

 深く頷くアニエスさん。というかこれって。

「情報漏れてるし、いいんですか!?」

「これが人間側の宰相なら問題ですがエティ様はどちらにも属しておりませんし、こういっては失礼ですが現在エティ様の影響はないに等しいです。もちろん、エティ様を魔王軍に取り込めれば話は変わりますが……」

「もう面倒なことはゴメンだ」

「私としても無理を強いることは致しません」

 アニエスさんが頭を下げる。確かに政治的影響は今は皆無か。その結論に至るのが早いのは流石だなぁ。

「それでは三つ目。なぜ、私達を助けてくださったのですか?」

「……お主らの行いがこのままではインフニが壊れることになるからだ」

「インフニ、が?」

 その言葉に僕たち全員が固まる。インフニが壊れるっていったい?

「話をせかしすぎたか。正しくはインフニは残る。壊れるのは魔国と人間国。つまり天界しか残らないだろうな」

「なん、で?」

「花菱蛍、篠崎健也。お前らは天使と言えば魔族と人間。どちらの味方だ?」

「そっか」

「人間……!」

 アスガルでの常識で言えば―――そもそも魔族や天使なんて存在しないけど―――基本的に天使は人間側の見方をしてれくれている。キリスト教とかでは人間を殺す神や天使はいるが、それはいわゆる罰として下されているもの。RPGなどでは天使は味方してくれることが大半だし。忘れていたわけではないけど、大前提としてあったがために気にすることを忘れていた。なんとなく天界は人とか悪魔とか差し引いて善の味方だと。

「なに?健也たちの世界ではそれが普通なの?」

「う、うん。天使は善、魔族、悪魔は悪っていうのが多いかな」

「それで?」

「天使というのはあくまでも自分のテリトリーを守る存在だ。今現在、邪気の数は少ない。天使がこの地に降りて反映するためには人も魔族も不必要な存在になったわけだ」

「ちょ、ちょっと!理解が追いつかないよ!!」

 頭が痛くなってきた。

「まずその前提が違うということだ。そもそもこのインフニという世界は天使しか住んでおらんかった。だがあふれれる邪気は天使どもではどうもうまく消すことができず、天界という邪気が入らない世界を作り上げ、残った世界にてある者たちを呼び出した。それが」

「ペジテント、ですよね?」

「アニエス・エローは読めてきたようだな」

「天使は邪気を出すために、私達が行ったようにペジテントの皆さんを別の世界が召喚した。その世界は恐らく……」

「お前らがアスガルと呼んでいる世界だな」

「なんで、アスガルが?」

「召喚の為にはインフニと一番近い世界が自然と選ばれることになります。世界線というのは複雑に絡まりあっているので近さは場合によります。そしてインフニと一番近いのが」

「アスガル」

「付け加えるならそれの日本という土地だな」

「日本が……」

 衝撃の事実がどんどんと出てくる。そんなからくりが色々と……。

「そもそも花菱蛍らはおかしいと思わなかったのか?日本語が通じるということに?」

「あっ」

「あー、いや、でもこれは自然とそういう言葉に置き換えられてるのかと思ってたんですけど」

「そんな便利機能は無い。それもこれもペジテントが現れそこから繁栄していったからだ。まあ、ペジテントのメンバーは日本人だけでなくフランス人やらもいたがな。そこで召喚の最中にダメージを喰らい人の形で亡くなったのが魔族じゃ」

 はぁとト息が漏れる。文献にもそんなことは残っていなかったのだろう。アニエスさんもクロエちゃんも目を燦々と輝かせて話に聞き入っている。僕としてもいままでの謎が解けるようで心がうずく。

「でも、なんでそんなことが?」

「先に言っただろ?邪気を払うための、いわば肉を喰らうために牛を飼うのと同じじゃ。邪気を払うために人を飼ったにすぎん。その後邪気が完全に薄くなり天使どもが動けるようになったのが今じゃ」

 天使の身勝手さに思わずギリッと歯を喰い縛る。そんなの酷過ぎる。家畜という存在と同等といったが違う。家畜は確かにいずれ殺される存在だろう。しかし、それと引き換えに種の繁栄というのは約束してくれる。だが、天使たちは繁栄させるだけ繁栄させて邪魔だと言っているわけだ。

 そもそも家畜たちとは根本的に脳の出来、ココロという存在とかが違いを持っているし。

「それじゃあ、天使は今何をしようとしているのか、エティ様は御存知で?」

「思い出話をしよう。私達は邪気をずっと払い続けてきた。元の世界に戻してもらえるというエサにつられてな。しかし、その最中に天使と出会い真実を知ったんだ。邪気を払っても世界が安定するまでは私達人を存在させるということを。それに逆らうために私達は天使に抗い殺された。回復役の私だけでは到底天使を倒せずここで隠居をしていたわけだ」

 それが真実だったのか。許せない。

「そして今回、もう人間は不必要と見たんだろうな。人間国と魔国を緊張状態に持って互いに殺し合いをさせたうえで、人間国を勝利させて全員殺そうとしたんだろうな」

 緊張状態というのはこの僕たちが旅立つきっかけとなった輸出入についてなんだろう。

「ふーん。で、なんでそんな回りくどいことを?天使の強さってのはわかんないけど、邪気に弱いだけで基本的に強いんじゃないの?伝説のペジテント様方が倒されたっていうぐらいだし」

 今まで黙っていたクリオが真剣な眼差しで尋ねる。

「ああ。天使の力なら人間を殺すことなどは容易いだろうな」

「人間を、ねぇ」

 その意味深な言い方に裏があるのはすぐに全員が分かった。人間にはできるということは。

「まず、殺し方としては人間どもを操り自滅させればそれでよい。しかし、魔族はそれができぬ。直接殺しに行かなければならん。それはなかなかに骨が折れるだろうな」

「なんで、魔族は操らないの?」

「操れない、だな。人間国には宗教―――聖ヴァリウス教がある。そこでの祈りという概念を逆利用することで人々を操る。元は天使どもが仕組んだ物らしいが、魔国はその昔にうまくその概念を遮断することに成功していたんだ」

「なるほど……」

「まぁ、歴史に流れという偶然でしかないんだろうが」

 これで全てのピースが埋まった。人間を操り魔国の国交を絶ち緊張状態に……。緩やかに戦争状態に持っていき人間国を勝利させることで人間国にもかなりのダメージを与える。そうなった人間を滅ぼすのは天使にとったら簡単な話なのだろう。

 僕たちをその言葉を飲みこみ今までの旅がすべて天使によって踊らされていたことを知る。一体どうするべきか……。このまま人間国に行ったとしても絶対に話がこちら側に有利に進むことなどない。となると成すべきことは自然と決まっている。しかし、それを行うことができるかどうかは別の問題だ。

「……一度、この情報を持って、魔国に戻りましょう」

「魔国って、魔王さんの元に?」

「はい。私達は基本的に魔王様から外交などは任されておりますが、今回はことが天使に及びます。さらに言えば天使は今まで以上に死との危険性が高まります……。現に、蛍様は死に至りました」

「死に……って、そうだ。結局蛍が死んだのってあれは」

「話の流れ的に天使の仕業ってこと?」

「恐らくは」

 アニエスさんは目でエティさんを見る。エティさんは少し迷った素振りをして頷く。

「バクライヌが現れたのは天使どもの仕業と見て間違いないだろう。あいつらは邪気を消し去ることはできなくとも生み出すことはできる。そもそもバクライヌ自体はフェイク。真の目的は弓で気づかれずに殺める事だろう。ウゴウの弓―――討たれた者は心を凍りつかせ精神を殺し続ける。普通の蘇生では生き返らないというのはそういうことだ。インクルードの力を借りて精神を浄化させる必要性があったからな」

 殺め続けるということは生き返らせたとしてもすぐ死んでしまうということか。なんてむごい弓なんだ……。

 勇者一行の力を自然と与えてしまう天使たち。だからこそ、それを超える殺し方も持っているということか。

「……かしこまりました。皆さん、一度魔国に戻ります。蛍様もよろしいですか?」

「もちろん。結局私が一番天使の手のひらの上で踊らされて、で魔国側に寝返ったから消されそうになったわけだし、少し前まで会った疑念や同情、申し訳なさとかは全部消えた。私は健也についていく」

「蛍……。あぁ、そうだな。天使を倒そう」

「ならば、最後。聖職者クレリック、エディ様。よろしければ魔国まで同行していただけませんか?あなたの力はかなりのもの……。ここで腐らせるのはもったいない」

「……断る」

「えっ?」

 断られるとは思っていなかったのか間の抜けた声を上げる。それは僕も一緒でこの流れだとついてきてくれると思っていたのだけど。

「どうして?」

「私とて全盛期の力はもう歳によって失われている。今はかろうじて死なないでいるだけで老化というものは進んでいる。知っての通り、魔力も法力もかなりの生命力を削る。年を取れば自然と力が失われていくものだ」

 言われたら、そうかもしれない。歳を取るほどに魔力が強くなるというのは確かにおかしく感じる。そりゃ感覚や思考といったものは濃く深いものになるがそれを戦闘中にできるかと言われたら話は変わってくる。

「で、ですが!貴方様は極限魔法を」

「あれは、精霊たちが力を無償で貸してくれているにすぎん。じゃから、私からのプレゼントはこれだけだ。極限魔法・最上高。召喚サモン。イフリート、ミレイヤ、インクルード、アクエリアス」

 エティさんの目がそれぞれ赤、黄、紫、水色に光るとぼおっとした影が出てきて徐々に形を成していき小さななにかのキャラクターやマスコットのような存在が四人現れる。しかし、その姿は愛らしさよりも神々しさが前面にあふれる。

「……召喚サモンを」

「そうじゃ……。といってもそれそのものではなく分身体ではあるがな」

 と前置きをしたところでエティさんが小さく目配せして口を細く開ける。なにかを喋っているように見える。

 1分もするかどうかの辺りで精霊たちが頷くと僕らの元にやってくる。

「えっと……?」

「力を貸してくれるそうじゃ。精霊たちは基本気まぐれ。天使や人間、悪魔に依存はしない」

「そうなんだ」

『よろしくー』

「うわっ」

 その時脳内に直接響いた声に驚く全員その声が聞こえたように驚いた様子で精霊たちを見る。喋っていたのは、ミレイヤだということが直感的に理解する。

『改めて、ボクはミレイヤ。電気を司る精霊だヨ』

 先ほどの明るく元気いっぱいといった声が響く。姿は黄色に輝きバチバチと電気を起こしている。

『……闇のインクルード。ワタシを使おうというのならそれなりの成果を見せなさい』

 どこか冷たい声で紫色の髪を触りながら呟く。

『イフリートだ!オレは面白れぇことができたらそれでいぃ』

 手をガッツポーズにしながら口を歪めて笑う豪快の声が聞こえる。

『……水、精霊。アクエリアス……。よろしく……』

 そして最後に眠そうな声が響く。水色のその姿は薄く線も精霊たちの中で一番細い。

 精霊たちは全て中性的な顔立ちで恐らくボクとかワタシとかの一人称に深い意味はなくまさしく性別不明なんだろう。そんな精霊たちが僕たちに。

『うーん、でもどうしよっかなぁ~。じゃあ、ボクは健也につーこう』

「えっ?つくって?」

『ボクたちも無限じゃないからね~。天使なんかと戦うんだったらボクたちの力をいっぱい使うでしょ?その時にボクたちの力がダブったら万全の力使えないかもしれないでしょ~。だから一人につきと思ってねぇ~』

 なるほど、そういうことか。これもエティさんの指示かもしれない。ともかく精霊たちが勝手に決めるようだがまあ、気まぐれっていってたし変に反抗しても意味がないだろう。

「じゃあ、ミレイヤ……様?よろしく」

『あははっ。別に様付とかいらないヨ~。気軽にやろう』

 脳内に響く能天気なその声に僕も思わず笑う。なんというか案外フレンドリーな感じだ。

「その、話の腰を折って悪いが、私は魔法はからっきしきなんだが」

「ボクも。からっきしという訳ではないけど魔法を連発して戦うというよりは、魔法で肉体強化してって感じだから精霊の力を使えるかは」

『わかってるっつぅーの。んなことは。だからおめぇらにはつかねぇ』

『えぇ。ワタシは……アニエス』

「インクルード様、ですか。確かに闇の精霊は回復魔法とは相性もいいですし、よろしくお願いします」

 どこか高圧的なインクルードと冷静沈着で人を立てるのが上手いアニエスさん。それに僧侶という役割が闇の精霊とも大きくかかわっているみたいだし、いいコンビかもしれない。

『オレは蛍。テメェだ』

「あはは……なんというか元気だな。イフリート、だっけ?炎魔法っていうと」

『オレは炎を司るだけあって、熱探知とかもできる!テメェ今は聖騎士らしいが勇者でもあるんだろ?なら感覚反射もそうとうだよなぁ?』

「……そうね。よろしく頼むね」

『おうよ』

 かくしてこの二人もいいコンビのようだ。動体視力などは対バクライヌ選でもうかがえたけど僕以上であるのは確実だ。それならばイフリートの力を最大限に生かせるかもしれない。

『ふぁっ……。水、クロエ……。魔法。契約』

「え、えぇ。よろしくです」

『水。高圧……高火力』

「えっと、はい。わかりましたです」

 どこか片言というか眠そうなアクエリアスに戸惑いながらも応える。これでも精霊だし、いざとなったらかなりの力を貸してくれるのだろう。

「私からできるはなむけはそれぐらいだ。魔国に帰るなら……」

『ボクの出番だねー。極限魔法で電子世界の変化変量テレポート・エレックでいきたい場所に行けるよー。制限は生成量10万トンぐらいだねー』

「生成量?」

『んっとー、その人物の質というか、強さというかオーラというか。まぁ、格ともいえるような感じ。エティも入れたら流石にきついけどこのメンバーならギリいけるかなー。ヤッパ、健也と蛍が重いけど』

「わ、私重くない!」

「いや、体重の話じゃねえだろ」

「あっ、つい反射的に……」

 僕の冷静なツッコミにハッとした顔で言い訳気味に言う蛍。流石の僕も苦笑いをしてから立て直すようにミレイヤに話しかける。

「じゃあ、さっそく力借りても?」

『もう力を貸すって決めたからねー。変なことしない限りは基本的に力を貸してあげるヨー』

「ありがとう……。アニエスさん」

「はい、よろしくお願いします」

「わかりました……」

 そっと集中すると頭の中で術式が展開する。明らかに普通の魔法とは違う術式に驚くが、まあ根本的に違うから当たり前かもしれない。

「ミレイヤ……、そなたの力を溢れさせ、電気を放ち我らを転移させよ―――極限魔法・電子世界の変化変量テレポート・エレック!」

 バジッと音が響いて僕たちの視界が一瞬で揺れる。

「お主らに未来を託したぞ。新制勇者たちよ」

 最後にエティさんの言葉が耳に届き僕は見えるかわからないがしっかりと頷き返した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ