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 シャンデリア、スーツ、ドレスコート。

 こういった豪華、という価値感は元の世界でもこちらの世界でも変かわらないようでそこは少しクスリと来た。

 ただし、ここが魔国にあるということもあって、やや魔族よりの内装にはなっているらしくさまざまな種族に対応できるようになっているらしい。

「部屋は三つほどとらせていただきました。健也様のシングルのお部屋、そしてダブルのお部屋が二つです」

「はい、わかりました」

 船室の鍵を受け取りながら頷く。

「それでは、私達の方ですが……」

 スッと右手を出す。

「平等にジャンケンで、勝った二人、負けた二人で分けましょう」

 あっ、そうなるね。まあ、別に要望とかないならそれでもいいわけで。というかジャンケンという文化あるんだ。ん?それならグッパーでいいのかな?もあってよさそうだけども。それを提案しない辺りその文化は無いんだろうな。

「じゃーんけん」

 っとアニエスさんが音頭を取る。流石に最初はグーという文化は無いらしい。あれは某お笑い芸人が作り出したものだ。むしろ浸透していたほうが驚きでしかない。

 そうして作られたペアを見て大丈夫かなと僕は思わず乾いた笑いを浮かべてしまった。




 船内探検と称して食事も終えた僕はゆったりと船内を歩き回る。

 ドレスアップした魔族たちの姿も見え、この場所のすごさがなんとなしにわかる。

 なんとなく、こういう旅とかで海を渡るとすればボロ船とか、貨物船、大丈夫かと問いたくなるような変なもので移動する気がするんだけどな……。

 まあ、そこらへん気にしてたらキリがないか。もとより異常な力を持っているんだし。

 地下へと潜る階段を降りると、そこはゲームセンター、カジノとなっていた。

「健也殿。ここにおられたのか」

「カーラちゃん。うん、探索。部屋でこもってても暇だしね。カーラちゃんは?」

「私も似たようなものだ。暇つぶしの探索だ」

「へー。そういや、カーラちゃんはカジノとかに嫌気がさしたりとかはしないんだ」

 持ち前の正義感で、こういうことを嫌いそうなものだからなぁっと思いながら尋ねる。

「ん?別段何とも思わないが……、どうしてだ?」

「あっ、いや……アスガルの、僕の住んでた国では賭博行為は法律違反なんだよ」

「ほー、なるほどな。それでか」

「うん。あっ、といってもパチンコとか競馬とか競輪とかは法律違反に含まれないけどね。何でかまではしらないけど」

「ふーむ。“競輪”とやらはよくわからないが、その他はこちらの世界でも普遍的にあるな」

 そういや、自転車ってこの世界に来てから見てなかったな。必要ないのか、販売されていないようだ。

「確かにカジノで身を滅ぼす愚か者は少なからず存在するが、基本的には経済を回すには手っ取り早い。それにカジノは魔国では国が管理している。人間国では私営のものも存在するらしいが……私としては国が管理することにより、金持ちから簡単に金をとれる手段だと感じるからな」

「へー、なるほどね」

 僕は頷くと、近くに落ちていたチップを2枚拾う。見えにくいところに落ちていたが……もしかしたら大量に勝った誰かが落としていったのかもしれない。それは1、10、25、50、100と存在するコインのなかの25を表すものだった。

「カーラちゃん」

「うん?」

「一発勝負。この近くだと……ブラックジャックか。やってみない?」

「いいだろう」

「ちなみに、ルールは?」

「知っている」

 じゃあ、と二人合わせて暇そうに、ぼんやりとしていたディーラーの元に腰を掛ける。そのディーラーも僕らの話は少し聞いていたのだろう、簡単に頭だけ下げるとカードをシャッフルし始める。たしかに、僕らじゃあまり搾取できないだろうしこうなるのも仕方ないが。

「では、始めます。まず賭け金を」

 ディーラーに促されるまま僕らは25のチップを出す。

 それをみてからスッスッスとカードを配る。

 僕のカードは5と6の計11。カーラちゃんは3と1の、4、または14。ディーラーのオープンカードは1。プレイヤー側としてはかなり不利な数字だ。

 順番的にカーラちゃんからヒットかスタンドか。

「ヒット」

 ポンと机を叩きながら告げる。出たカードは4。計、18、または8。

「……スタンド」

 少し悩んだのちスタンドを選択。18で勝負に出たわけか。

「ヒット」

 僕は迷わずもう一枚引く。11という数字は何が出てもバーストすることのない数字。スタンドする意味がない。

 出されたカードは3。計14。ここでひよってスタンドするということはディーラーのバーストを期待することとなるわけだけど……、流石にそれはな。

「ヒット」

 そして渡された数字は。

「あっ」

「おっ」

 7。合計21。よーし、ヒットだ、なんてバカなことするわけもなく迷わずスタンド。とりあえずこれでディーラーがナチュラル21出ない限り負けることは無い。ただ、1がオープンしているから怖いんだけど。

「では、勝負です」

 タキシードに身を包んでいるディーラーは伏せているカードをオープンする。そのカードは、9。合計が20。ブラックジャックのディーラーは合計が17以上になるまでヒットそれを超えると強制スタンドだ。つまり。

「私は負けか」

「よし、僕は勝ち」

 フゥと息を吐きながら深く腰掛けるカーラちゃん。対して僕はグッとガッツポーズしながら50となったコインを見る。

「続けますか?」

「はい」

 そしてその50のコインを迷いなく差し出す。

「では、どうぞ」

 そうして出されたカードは。

「あっ……」

 ナチュラル21。1と11だった。

「おめでとうございます」

 ディーラーは軽く手を叩き自分のカードオープンする。プレイヤーは僕だけだが形式的にすべてやるらしくバーストしていた。できればそのバーストは直前にほしかった。

 手持ちのコインは125となる。

 少し迷ってから50のコインを出す。

 それを続行と受け取ったディーラーがカードを配る。出たカードは10と10。

「スプリットなさいますか?」

 あー、そういやそんなルールあったっけ。たしか同じ賭け金をもう一度だして手札を二つに分けるってやつだよね。

「そう、ですね。お願いします」

「かしこまりました」

 スッと、10の手札を分けてそれぞれにカードを足す。

「おぉ!健也殿」

「あ、はは」

 僕は思わず苦笑いを浮かべる。スプリットして出たカード。片方は9。もう片方は1だった。

 僕はもういいとスタンドを示してカードオープンを求める。ディーラーのカードは17。両方とも勝ちだ。

 その結果僕の持ち金は225となる。

 こうなったらやぶれかぶれだと笑いながら続けていたら……。

 おもしろいように勝っていく。そのたびにディーラーの顔色が微妙に悪くなっていく。そりゃそうか。

「健也殿、これは」

「こ、このへんにしようか」

「そ、そうだな」

 もはや持ち金が最初の50の100倍、5000となったところで軽く騒ぎになりそうだったのでそそくさと逃げるように去る。

 少し喧騒から離れた所で僕らは苦笑いをしながら向かい合う。

「えっと、どうしよっか」

「そ、そうだな。もとは拾ったものだし……旅に役立てよう。そもそも旅の金も国からのだ。政府としてはこれでプラスマイナスゼロとなるだろう」

「だね。なにか必要な物聞いてる?」

「そうだな……、たしかマジックアイテムの新たな造形フェイクフェイスが必要だとアニエス殿が言っていたな。たぶんそれが存在するだろうから、それを人数分変えてきてくれないか?」

「了解。それで残ったら、何か適当に必要そうなもの選んでくるよ」

「うむ」

 僕は景品交換所でその5000のチップをだす。

 えっと、フェイクフェイスは……あっ、あった。必要チップが500だから、それかける5で2500。丁度残り半分か。んーと、どうしようかなっと迷っているとあるものが目に留まる。

「あの、それはどれくらいで」

「こちらですと2500となりますね」

「そっか、じゃあ新たな造形フェイクフェイス5つとそれで」

「かしこまりました」

 まるで狙ったように目についた景品は同じコイン数にだったけど、これも勇者の加護、ということで納得しておこう。

 景品を受け取ると僕はカーラちゃんの元へ急ぐ。

「おまたせ、景品交換してきた」

「おう。と、健也殿、それは」

「いいやつとか、悪いやつとかそういうの詳しくわからないけど、よかったらカーラちゃんにどうかなって。新しい長剣。景品交換所においてあったから、思わず」

「それは嬉しいが……。健也殿が儲けたチップであろう」

「いいから。僕に使えそうなものもなかったし、カーラちゃんの剣も、先のドレッド戦でいたんでるようだし」

「気づいていたのか」

 驚いたように目を丸くするカーラちゃん。あの戦いでは、カーラちゃんは電気を生成した直後、剣に水をまとわせていた。いわば高熱から低温をまとったわけだから剣がダメージを負わないはずがない。

「これ、熱とかにも強いみただし」

「……かたじけない」

「カーラちゃん。こういう時はありがとう、でいいんじゃない?」

「ふふっ。まったく、健也殿にはかなわないな。あぁ。ありがとう、健也殿」




 そのままカーラちゃんとぶらつきデッキへと向かうと他のパーティーメンバー全員がそこのテーブルでなにか飲み物を飲んでいる。あれは……カクテル?

「健也様、それにカーラさんも」

 僕らを見つけたクロエちゃんが挨拶する。

「うん、さっきあってね。それで、手に持ってるのは?」

「えっ?あっ!!こ、これはノンカクテルです!」

「それをいうのならノンアルコールですよ」

 アニエスさんがクスクスと笑いながらツッコミを入れる。見た所同じような色なので全員同じカクテルなのだろう。アニエスさんはお酒を呑んでもよさそうだけど……みんなに合わせたのかな。

「なるほど、そういうことか」

 クリオはともかくクロエちゃんがお酒を呑んで酔っ払うという姿は想像つかない。でも、誤飲してしまってムニュムニュ言う姿は想像つくけど。

「あれ?その剣どうしたんですか?」

「おっ?あぁ、これか」

 クロエちゃんの目ざとい指摘にカーラちゃんは笑いながら答える。

「簡単に言うと、健也殿からの贈り物となるな。先ほどまでカジノにいたんだ。そこでチップを拾って、あれよあれよとブラックジャックで健也殿が増やしていったんだ。その景品交換でな」

「あら、そうなんですか。これは、『時雨』ですね」

「アニエス殿は剣の目利きもできるのか」

「少しですけど。時雨は軽い刀身に刃こぼれのしにくさや強さを兼ね備えた良技物です。刀は種類などにより細分化されますが、長剣ですと何にも該当されない通常の刀。以前までカーラが持っていた修行物、業物、良業物、錬金物、玉至物に分けられます」

「なるほど。一度玉至物で振るってみたいものだ。だが、私にはこの時雨が一番合うようにしたいのだがな」

「ふふっ。せっかくのプレゼントですからね」

「なっ、と、そうだ……ついでというかメインというかだが、これを。健也殿がとってくれたんだ」

 アニエスさんにいじられたからか少し顔を赤くさせながら本来の目的物を渡すように僕に目線を送る。

「これ、新たな造形フェイクフェイスです」

「あっ、ありがとうございます。ディニックで買い揃えようと思っていたので丁度良かったです」

「そうですか」

 嬉しそうにほほ笑む彼女に心が温かくなる。

 僕とカーラちゃんも同じカクテルを頼みテーブルにつく。

 レモンの酸っぱい味とオレンジやパインの甘味が出る。

「カジノ、か」

「どうしたの?」

 カーラちゃんが来たからか、くるりと背を向けて海を眺めているクリオに話しかける。

「健也殿は運を信じるか?」

「運?まぁ、非科学的なものだとは思うけど、あるんじゃないかな、なんて思ってしまうよ」

「そうか……ボクは運というのが絶対にあると思ってる」

 正直ちょっと意外だった。クリオのことだから運なんてあやふやなものに身を任せられないとかいうと思っていたし。

「簡単なことで、必ず50%の確率で表か裏がでるコインがあったとする。それを10回投げる。机上論の確率通りなら5回ずつ。だけど、被験者を多くよべばすべて表を出す奴もいれば裏を出す奴もいる」

「でも、それは10回ってすくないから」

「たしかにな。しかし、その回数が50回でも100回でも、人数が多ければ必ず全て裏を出す奴だっているんだ。その正体が運だと思っている。命など一度きり。思考回数等1度しかないんだから、全て裏を出す奴がたくさんいても何も不思議ではない」

「クリオ?」

「運って、そういうことなんだよ。だからこそ、ボク達はその運命を呪うしかできない」

 何か悟ったように呟く。いったいなにをいいたんだろうか。

「あぁ、別に健也の運の良さを呪ってるわけではないよ。それはただの妬み。カードを与えた人を呪うならまだしも、与えられた側の人間を呪うなんてナンセンス」

 僕の沈黙をどうとらえたのかそうフォローされる。

「じゃあ、ボクは先に帰るよ。アイツと同じ場所にいるのも嫌だし」

 ちらりと談笑しているカーラちゃんを指す。

「いやだって、同じ部屋じゃないか」

「なおのことだ。わざわざそんな時間を長くする必要性もない」

 クリオはクイッとカクテルを飲み干すとその場から立ち去って行った。残された僕はただぼんやりと海を眺めている。

 彼女の抱える闇はきっと光に照らされることを嫌っている。でも、このままでいいのかと思考を巡らす。

「殿……健也殿?」

「うん?あぁ、ごめん。ぼーっとしていた」

「クリオのことか?」

「ま、まあ。なんでクリオは義賊なんかやってたんだろうって」

「私は悪は嫌いだ。叩ききってやりたいほどに。だからかな、クリオ相手だと子供の様になってしまう。接し方がわからないんだ」

 だから、カーラちゃんが妙に突っかかるんだ。そっか……。認められないけど、きっとクリオのおかげで命が救われた魔族もいるはずし。

「アイツは羽を自らもいだ天使とでも呼べる存在だな。自ら堕天しようと望む、だがその行いが堕天になりきれない、中途半端な存在だ」

「…………」

「まぁ、なんだ。私としてはこの度を無事に終えることができればそれでいいんだ。時雨と共にすべての事件を解決させる。それが、私の生きる道だからな」

 それだけ残すと彼女はまた談笑の中に戻る。その言い回しに妙なしこりが残った。

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