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「勇者殿、よい旅をしてくだされ」

「わかりました。必ず、旅を成功させます」

 スリカ村の村長の家。アーサ・バートさんがベッドの上で横になりながら礼を告げる。

 先ほどまでは、村の出口までお供すると言って聞かなくて困った。まだ緑優の宿り木グリーンカーテンの維持の為に使っていた魔力が戻りきれていないのに、それは無茶な話だ。なんとか僕らとベネットさんでなだめ今に至る。

 なお、体力の回復や次の旅路への準備などで、ドレッド討伐からは早くも3日が立っていた。宿はドレッド討伐後は僕の部屋も取れたので布団に包まれ眠ることもできた。

「俺からも頼む。最近は気味のわりぃ邪気が大量に出ている。スリカはドレッドを倒したことで一時的に邪気が少なくなっているからしばらくは無事だろうが……同じように苦しんでいる小さな村はある。もう、こんなことは繰り返してはならない」

「わかってます。これ以上の事が起きないように、僕らも全速力で」

「アーサ様、申し訳ありませんが私達が旅を達成させ、国が安定するまでは」

「わかっておりまする。この戦いで柱を失った家庭への介入はきちんといたしまする。我に二言はあるまい」

「俺も前にたって指揮をとる。こう見えても次期村長なんだ。村の信頼を勝ち取るためにも、ガキの世話はやるさ」

「ベネットさん。よろしくお願いしますね」

 僕は少しクリオの方を見てから答える。

 それはドレッドを討伐してその報告を終えたとき。推測も交えたドレッド討伐隊の最期を伝えたのだ。その様子に彼女らもなにか心に来るものを受けたようだが、助けをしたという報酬の代わりとして父を失った子供らの世話を要求したのだった。それはクリオが言い出したことではなくカーラちゃんが言い出したことだ。

「本当ならば、パーティーでも開いて盛大に送りたいところなのだがな」

「そんな、結構ですよ」

「それに私たちは誰にも知らせずに来た身です。人間側に私どもの動きがばれる可能性がありますので」

「残念じゃ。では、我からは祈りだけささげておこう」

 手のひらを祈るように合わせて黙祷する。しばらくの静かな時間の後、目を開く。

「それでは、お気をつけて」

「頑張ってきてくれ」

「はい、ありがとうございます」

 代表的に僕が礼を述べて村長宅を後にする。

「……では、続いての街ですね」

「次は?」

「海と空の街。クレリストです。スリカとは違い大都会でそこからは定期便の船に乗り、人間国との国境として存在するディニックへと向かいます」

「あっ、船あるんだ」

「はい、近道できるところは近道していこうと。もちろん、道中になにか依頼を引き受けましたらその依頼の深刻度に応じて引き受けるかどうかを考えていきましょう」

「わかりました」

 海と空の街、クレリストか。首都である城のある場所(ライスルと言うらしい)に続く都会の街なのかな。ライスルでは勇者ということをひた隠しにするために、あんまり体験できなかったけどもしかしたらインフニ独特の食べ物や風習が体験できるかもしれない。

「このまま何事も無ければ今夜にでもつくな。食糧は買い込んでいるし問題無かろう」

「はいですぅ。料理はあたしに任せてくださいです!」

「私もお手伝いは致しますからね」

 ワイワイと賑わいながら歩いていく。いつの間にか村は抜け、完全には整地されきれていない砂利道へと出る。

 その賑わいから少し離れた所にいるクロエに話しかける。

「どうしたの?」

「なにがだ?」

「いや、話に入り込まないんだなって」

「……はぁ。元からボクはあのメンバーとは相成れない義賊だ。そんなボクがあそこでキャッキャするのもおかしな話だろう?」

「そうかな?なにもずっと一匹狼を気取らなくて」

「気取ってるつもりもなければそもそもが狼なんだけどな」

「あっ、そういやそうか」

 僕の視線を気にするように外していたフードをつける。あれからは基本的にフードをつけなくなっていたが、こうして視線を気にするときはフードをつけていた。目は口ほどにものを言うというけど、彼女の場合は耳は口ほどに、だ。

「だとしても、僕なんかは勇者って肩書きなだけで、真のところを見ると異世界の住人なんだけどね」

「それでもだよ。光と闇は同時に存在することはできないんだ。健也やオージェ達は光の人間。対してボクは闇の人間だ」

「闇って……」

「そういう存在も必要なんだ。光はただあるだけじゃ光と気づかない。闇があるからこそ光の意味があるんだ」

 ヒーローは悪がいてこそ成り立つ、というのと同じか。確かに闇の部分も必要だし、世の中が全部正義だとしたら。

 それはそれで怖いのかもしれない。悪い人がいて、それを懲らしめる人がいて、さらにそれを出し抜く人がいて。残酷だけどもそうじゃなきゃ、世の中はより上にいかないのかもしれない。

「でも、闇と光が同居しちゃならないわけでもないんじゃ」

「そうかい?きっとどちらかに浸食されていくよ。まあ、ボク一人がただ光へと移るなら大した問題はないんだろうけど……もしものことを考えれば闇のままでいたほうがいいに決まっているんだ」

「それって……」

「トロトロ歩いているとおいてかれるよ」

 急に話を変えると、彼女は少しだけ歩調を早める。これ以上話したくはないということか。ただ、それが暗に示している部分はわかる。彼女が闇でいなければならない理由。それはただ普通に生活をするだけでは暮らしていけない人たちをすくうため。

 僕らの旅が失敗してさらに魔国の状況が悪くなれば、きっとそういった人々が増えていくだろう。その時に彼女はきっと義賊として活躍するだろう。それが闇だとしても。

「ん?」

 どこからか視線を感じて思考を破棄する。ふっと前を見ると談笑している様子の三人と離れて歩くクリオの姿。誰の視線だったのかわからないが、勇者としての感からカーラちゃんだけがどこか様子がおかしく感じさせれた。




「ここが、クレリスト」

 海と空の街。確かにそれを表している。

 鼻に抜ける潮の匂い。にぎわう人々の声とさざ波が鼓膜を揺らす。そして、今は夜でわかりづらいが建物の高さはそこまでない為空がとても高く感じさせられる。夜空は星が美しく都会でありながら空気が澄んでいる。それはライスルでも同じだったし、もしかしたら魔法や妖力があることから科学技術をあまり必要としていないのかもしれない。

 その為、環境破壊もしていないとしたらこの空の高さも納得だ。

「このまま宿に、と言いたいところですが今回は宿ではなく波止場に行きましょう。定期船にはできるだけ早く乗りたいですしね」

 アニエスさんの言葉にそうですねと返す。先ほどアニエスさんは街の入り口にあったマップをチラリと見ていたが、あれだけ必要なところを覚えたのだろうか。今思えばここまでの道筋などはどこで覚えていたんだろう。漠然と北に、とか西にだけではいけないはずだし……。もしかしたらかなりの方向感覚を持っているのかもしれない。それをアイツが知ればうらやましがるかもしれないな。というより、アイツと話している時に召喚されたわけだけど、アイツ視点にとってみれば、突然僕が消えたように映ったのだろうか?もしそうなら大変な騒ぎになっているだろうな。

「こちらですね……。しばらくお待ちくださいませ」

 波止場につくと、パタパタと受付に向かっていく。いつ定期船が来るかなどを話しているのだろうか。問題はどれくらいの頻度でやってくるかだ。週に一度とか月に一度とかだとかなり厄介だ。

 しばらく待っているとアニエスさんが嬉しそうな顔でやってくる。

「いい知らせです。今日の夜、出航の便があるそうです。そちらにのれば明日昼前にデニックへつくそうです」

「おお!やった、運がよかったですね」

「はい、ですのでもうチケットの方は購入いたしました。船自体はもう入場できるみたいですのでそちらで夕食の方もとりましょう」

 アニエスさんに示されながら船の方へと案内される。

 修学旅行で沖縄に言った時や家族旅行などで船に乗ったことはあるが、それはあくまで移動手段としての利用だった。つまりは船舶時間なんて1時間にも満たないものだったわけなので、どこか心躍る。

 もちろん、そんなことで浮かれている状況に自分がいるわけではないけども……、だけども船内で寝泊まりするという船旅は初めてだ。特別することがないのなら気を張らずにゆっくりするのが正解だと思う。ずっと気を張っていたら精神が疲労してしまうし、そうなると魔力の回復にも害をなす可能性がある。集中力の途切れは妖力を用いた概念操作にて悪い影響を与えるかもしれない。むしろデメリットしかない。

 なんて、誰に言い訳をしているのだろうかと自分に向けてツッコム。

「あっ、これですね」

「えっ、で、でかい」

 それは豪華客船、というのは誇張表現だが、とても立派な船に見えた。

「はい。特に選んだわけではなく、私達が乗れる客船を探したところ、一番早くディニックにつくのがこの船だということでしたので」

「でも、お金とかは」

「資金はありますよ。多少贅沢にはなりますが、これが最短ルートとなります。私達が優先すべきはお金ではなく時間ですから」

 はっきりと言い切る。まあ、確かに一日でも人間国との国交を取り戻す方が国としてみるなら益になるはずだ。それこそ想像もできないレベルのお金が動くはず。そこから差し引くとここのお金なんて安いものなのかもしれない。

「では、乗り込みましょうか」

 アニエスさんに微笑まれ僕らは船内へと足を運んだ。

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