初恋
それは、僕が小学四年生のこと。
僕は彼女に恋をした。
それはとても単純で、陳腐で、ありふれた理由だったけれど、僕にとってはそれが全てだったんだ。
彼女は可愛くて、笑顔が綺麗で。何よりも誰よりも優しかった。
僕がテストで悪い点をとって、それをクラスメイトに奪われたとき。泣きながら『返して』と言ったけれど、その子はそれをやめなかった。
もちろん、まだまだ子どもだから、善悪の判断がいまいちついていなかったのだと、今は理解できる。
それでも、当時の僕にとってはとても辛かった。
そして、それを助けてくれたのが彼女だった。
真面目で優しい彼女には、それが許せなかったんだろう。ただ、それが彼女正義感からきた行動だったとしても、僕は『自分のためにしてくれた』と思ってしまった。
笑っちゃうよね。知ってたのに。彼女は誰にでもそうだった。
悪いことは悪い。彼女は自分のルールを守っただけだったのに。
そんな彼女は今、都内でも有数の進学校に通っているらしい。きっと将来は、僕なんかよりもずっとカッコよくて、優しくて、頼り甲斐のある男の人と結婚するのだろう。
初恋は叶わない。でも、それが僕の初恋だ。
忘れることなんてできない。それは、あの時の僕と彼女を否定することになるから。
だから僕は、あの時の思い出を胸に生きていく。
思い出は綺麗なままで。
綺麗なままがいい。