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Dominator  作者: 秋刀魚3号
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file:8

二日連続なんて今日くらいじゃないでしょうか。

「はい…大丈夫です、私の方は準備完了。いつでもクレイドルは起動出来ます」

AEEのステルス機の中、一人の少女が、通信端末に向かって話をしていた。

身に纏っているのは、AEEの軍服…ではなく、黒いトップスに白いホットパンツ。巨大なモニターの光に浮き上がった彼女は、この機内では違和感そのものと言える。

「まずはこの機を都市郊外に不時着させます。適当に迎撃部隊を差し向けてくだされば、より隠蔽が楽になるかもしれませんが…ですが、必要がないならすぐに…」

何か話し込んでいる彼女の前には、人が一人入っても少し余る程の大きさの筒が立てられていた。側面には幾つかのコードと、その中に埋れた『CRADLE』の文字。

「PRAの識別コードを受信…確認しました。コードを上書きします」

端末に送られてきたコードを、そのままドロップシップのCPUに向かって転送する。

「では、このまま沿岸部に向かいます。通信終了」

端末の電源を切る。

ポケットに端末を入れると、彼女は服に隠していたあるものを取り出した。

ロケットが付いたペンダントだった。それを細い指で開けると、彼女はふう、とため息をついた。

(…今まで、長かった)

がむしゃらな六年間だった、と彼女は感慨に浸る。

PRAのスパイとして、AEEに潜入した。

AEEの研究所に、最年少の研究員として所属した。

数百という数の子供を、人体実験に使った。

その内の何十人もの子供を、死に追いやった。

そして、彼に出会った。

彼を逃がす為に、ブレンダンとあらゆる工作をした。

そうして彼と、一生の別れをした。

そのつもりだった。

空を彷徨わせていた目を、再びロケットに戻す。そこに収まっていたのは、彼と二人で撮った、たった一枚の写真。

同じくらいの身長だった。あの頃は、自分も彼も、まだ幼かった。

写真の中の男の子は、自分の手を女の子の手に繋いでいた。女の子が頼んだ時、男の子は特に嫌がることもなく承諾してくれた。それがひどく嬉しくて、その後は寝るまでぼーっとしてた記憶がある。

だが、男の子はなぜ承諾してくれたのだろう。手を繋いでる相手は、自分自身の身体をボロボロにした、張本人だというのに。

写真の中の男の子は、ちょっとだけ微笑んでいた。

(…だけど)

彼は恐らく、私の事を覚えていないだろう、と彼女は考えた。

仮に覚えている…もしくは思い出したとしても、彼に理性が戻った今、彼を実験に使用した自分を許すことはないだろう、とも。

「…それでも」

彼女は、ギュッとロケットを握りしめる。

「和也…」

彼女がポツリと呟いた名前は、唸るエンジン音にかき消された。




前方、クリア。前進可能。

敵影無し、歩兵部隊、前へ。

「…今のところ、ちゃんと動いてるわね」

「皆も、市街戦経験は殆どありませんからね。まだ油断は出来ません…」

東京、西ブロックの一角にある高層ビル。

その更に上を走る高速道路に、二機のエイジスが佇んでいた。

片方は、先ほど降下してきたルイス。目の前に表示されたHUDを眺めながら、各チームに指示を出している。

もう片方は、先程までビームソード片手に戦闘機とドッグファイトを行っていたカエデ。

「そういえばカエデお姉さん、迎撃部隊が来ませんね」

「私がネットワークをハッキングして、西ブロックには敵影無しっていう信号をずっと送り続けてるからね」

「じゃあ、先に飛んできてた戦闘機部隊はどうしたんですか?」

「食べた」

「…金属を食べたんですか?」

あー純粋で可愛いと思いながら、カエデは、先ほどの戦闘の記録をビデオ付きでルイスに送信する。そこには、プリーズラクが魚の群れのように戦闘機に群がり、爆発させるまでの一部始終が映されていた。

「わぁ…!」

空に咲いた炎の花に、ルイスは感嘆の声を上げる。微笑ましい光景に、カエデも自然と顔が綻ぶ。

その数秒後だった。

視界の端で、本物の爆発が起こる。夢見心地になっていたルイスが、我に返ってHUDを確認すると、無人兵器ウォーカーの一機の表示が『戦闘不能』となっており、更にそれに随伴していた兵士四人も戦闘不能になっていた。その画面を確認すると、ルイスもカエデも、にわかに真剣な顔つきになる。

「…なんでやられたんでしょうか?」

「分からないわね」

言いながら、カエデはスコープアイを起動し、爆発現場を観察する。

「ごめん、今分かったわ」

「何が…?」

カエデは今見ているものを、写真としてルイスに送信する。それを見た瞬間、先ほどとは真逆の、悔しそうな、悲しそうな表情をルイスは浮かべた。

車だった。丁度ウォーカーの足をもぎ取るように車が突っ込んでおり、それによって動けなくなったのだ。

「…お兄ちゃん…」

「私たちの事なんて覚えてないのかしら、カズヤ兄ぃは」

はあ、とカエデはため息をつく。早速兄ぃを止めなきゃいけないのか、と少々げんなりしていた、その時だった。

「…和也ってのは」

真後ろから、声が聞こえた。二人が同時に向き直ると、目の前にあったのは、巨大な銃口だった。

「俺の事か?」

桐嶋和也は、堪えきれなかった笑みを顔に滲ませながら、引き金を引いた。



聴覚がイかれるかと思った。

爆音が二つ炸裂し、二人の影を吹き飛ばす。和也が上に乗っていた無人戦闘機のMAF-21『ハミングバード』が反動で僅かに安定性を失うと、彼は少しよろけた。

「っとと」

右手に取り付けた携行式キャノンを仕舞い、左手に持ったロケットランチャーをその辺に捨てる。

(正直、バレずに接近出来るのは予想外だったな)

最先端技術様々だと思いながら、和也は戦闘機の淵を掴み直し上昇する。

「…さて」

息を整えると、彼はナイフを取り出す。そして振り返りながら、それを背後に高速で投げる。飛んできていたひし形の物体にナイフの刃が刺さると、ひし形は爆発を起こした。

戦闘機を後ろに下がらせ、爆発を凌ぐ和也。そうしながらも、彼の視線は前へ…先ほどの、スーツを纏った少女が居るであろう方向へ向けられていた。

(あのスーツ…)

似ている、と和也は思った。

先日送られてきたと報告があった、あの設計図に。

「さすがカズヤ兄ぃだ。VR戦で遊ぶ時も、訓練でも、カズヤ兄ぃはいっつも1番だった」

「…あの時の私たちは、弱かったんです。お兄ちゃんが連れていかれても、私たちは何も出来なかった」

少女たちが、黒煙の中から姿を現す。

金髪の小さそうな女の子は、赤に黒のラインが入った巨大なスーツを。

茶髪の少女は、黄色と黒の、下半身が大きく膨らんだスーツをそれぞれ身につけていた。

「だけど、戦力差がある今ならどうかな?」

「こっちは第三世代…と言っても、今のお兄ちゃんには分からないでしょうけど、エイジスが二機。お兄ちゃんは、その貧相な機械の身体に、私達のボディに傷一つも付けられないような銃」

「…逆境は慣れてる。そういう訓練なら死ぬほど受けてきた」

和也が吐き捨てるように言う。目の前の、自分を兄と呼ぶ二人の少女は、それぞれの武器を掲げながら、こちらに目を向ける。

「待っててね、兄ぃ」

「待っててくださいね、お兄ちゃん」

「…今すぐ、助けてあげるから」

「私たちは、もう、お兄ちゃんに助けてもらうだけじゃないって事、証明しますね」

彼女達の顔が、上下から蠢くアーマーに消える。

「カエデ『ベトリューガー』、全力で行くわ」

「ルイス『シヴァ』、邪魔なものは焼き払います」

音が置き去りになる程の速度で向かってくる彼女達を、和也の目は正確に捉えていた。

誤字脱字、矛盾などありましたらアドバイスなどお願いします。


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