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難しい。眠い中で書いたので、誤字などありましたら教えて頂けるとありがたいです。
22世紀の東京は、陸海に渡って広がる前衛的都市である。
ブロック毎に独自の推進力を持ち、必要に応じて次々と組み替えられていくメガフロートの港。都市全体にはリニアモーターカーとモノレールの線路が複雑に張り巡らされ、その隙間に所狭しと立ち並ぶ高層ビルと駅が直結している場所も多々ある。道路は地上、高層ビルの真上、地中を目まぐるしく行き来する。その全てが、2500万といわれる人口を運ぶ為にあるのだ。
その東京で、通りもまばらになった深夜の道路を走るリムジンが一台。
桐嶋和也は、その中で例の設計図の解析をしようと躍起になっていた。しかし、PRA、AEEそれぞれの標準暗号や知っている限りの現行暗号から第二次世界大戦中の暗号まで様々な方式を当てはめたものの、表面以上のデータ…つまり、ブラックボックスとなっている中身の情報は全く出てこない。
苛立ち、途方に暮れた和也は、研究所のコンピューターにアクセスする。演算機能を使おうとすると〔貴方のコードではこの機能は利用できません〕と表示され、和也は頭をガシガシと掻いた。
「どうかなさいましたか?」
黒人の運転手が、陽気であるが穏やかなアルトの声で話しかけてくる。
「身内に少し苛ついただけだ」
応え、和也はソファに倒れ込む。身体がソファにゆっくりと沈み込むと、満腹感とあいまってすぐに眠気が襲ってきた。
リムジンが滑らかに止まると、和也は素早くそれを察知し眠りから覚めた。こんな事で身体の疲労感が僅かに取れた様に感じるのが、少し苛立たしく思えた。
「おはようございます」
先程の黒人…胸の略章を見るに、どうやらアレックスの専属SPらしい…が、白い歯を見せて笑う。
「ゆっくり来たんだな」
「そりゃあ我がPRAの切り札でごさいますから。気持ち良さそうに寝てるのに、起こしちゃ申し訳ないでしょう」
「ありがとう」
リムジンを降りると、少し風が吹いているのが分かった。春特有の、少しの冷たさを伴った風だ。
夜の中に、黒い車体が沈み込む。それを見届けると、和也は研究所のドアを開けた。
「やあ、おかえり」
副所長の灯が、ヘッドフォンを耳から外しながら言う。彼のひょろっとした外見に不釣りあいな程ゴツいそれを散らかったデスクに適当に置くと、頼んでもいないのにある事をまくし立てる。
「今、君が今日行なったVR訓練を兵士側の視点で見ていたんだ。感想を言わせてもらうと…いやはや、流石としか言いようがないね。段々と兵士の行動や頭が狂っていくんだ、恐怖でね。僕はもう、君がどういった所でどういうトリックを使って兵士を殺していくか分かってるからホラーで済むが、それでもやっぱり怖かった。何せ、君は姿を見せない。その為、兵士は様々な方法で君を撃退しようとするが、その時は君は出て行かない。だから兵士の中の誰かが犯人だとなり…最後は君が手を汚さずとも、見事に同士討ちをし、全員が君に殺されたんだ。特に凄かったのは…」
灯を置いておき、和也は顎から引き抜いたマイクロメモリをパソコンに貼り付ける。あの設計図が表示されると、ぐちぐちと話していた灯が真剣な表情となった。
「なんだか分かるか?」
「うーん…パワードスーツの進化版、とでも言えばいいかな?もしくは君自身の進化版だけれども」
灯がキーボードを叩く。いくつかのソフトウェアを立ち上げると、一気に渋い顔をした。
「成る程、これは何なのかが分からない訳だ…」
「何があった」
「端的に言うと、文字が読めない」
は?と間抜けな声を漏らした和也に、灯は画面の一部を指差してやる。それを見た瞬間、和也も同じように渋い顔をした。
そこには、文章のような物があった。だが、その一つ一つの文字が全く読めないのだ。見た目は楔形文字に近いが、完全に別物。
文章にしても、文字の間隔が上下左右に均等なので、上から下に読むのか、左から右へ読むのか、それすら分からない。
「…無理だな」
「取り敢えず、このデータは君が持っておいてくれ。一応研究所のスパコンに任せてみるけど、期待はしないでね」
「了解だ。こっちでも何か思いついたら報告はする」
そう言い、彼は自室へ戻った。
その時、東京から、西へ約200キロ。
そこに、レーダーをすり抜けて、AEEの爆撃機が低空飛行をしていた。
ただただ難しい。