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ちょっと焦って投稿しました。
読みにくいかもしれません。ご了承を。
お詫びにカツオの刺身をしょうが添えでどうぞ。
ドミネーター第二話
僅かばかりの休憩を言い渡され自室に戻ると、和也はベッドに倒れ込んだ。
ハードな実験だった、と和也は思った。
VR実験自体は何回かやっている。だが、リアルな戦場で…しかも30日間分の時間をそこで過ごせば、疲れとストレスは感じた。
そもそも条件が無茶だ、と彼は回想する。
手持ちの弾薬は無し。味方も支援もなく、敵は40人近くのSES兵。そして自分の身体は、平均的な16歳男子の身体。100年程前に問題になっていた少年兵もあのような状況だったのだろうか、と和也は思ったが、それ以上に思った事は人体の限界だった。
最先端の装甲を纏っていても、強力な銃を持っていても、人の身体では限界がある。
銃弾に撃ち抜かれただけで動かなくなる心臓。急激な慣性がかかるだけでその思考能力を失う脳。力を入れただけで簡単に折れる骨。小型の無人警備機のパワーにすら敵わない筋肉。見えないものに恐怖し、発狂する心。
いとも簡単に、砕かれる命。
「…軟弱だ」
和也は知らずの内にそう呟いていた。
彼は、人間の脆さに嘆いていた。
今の自分の身体…義体は違うと思いながら、自分の右手に目をやる。
手榴弾を括り付けて爆発させても壊れない動力ユニット。ブラックアウトもレッドアウトもしないCPU。戦車が乗っても歪みすらしない特殊合金で出来た骨格。人体の数十倍から100倍の力を発揮するカーボンの筋肉。仲間が居なかろうと、絶望的な状況だろうと、ただ任務をこなし、生存する事だけを至上とする心理。
サイボーグが大っぴらに『量産』されない理由は、こうした人間性の喪失だと、和也は初めて改造を受けた時に教えられた。
健全なる精神は健全なる身体に宿る。成る程身体が機械であれば、思考も機械の様に変化し、適応していくのだろう。
(…寝よう)
部屋に備え付けの電話が鳴ると、和也はすぐに目覚めた。時計を見ると、一時間ほど経っているらしい。
回線を開くと、研究員の一人が事務的に次の実験内容を報告してきた。先ほどのVR実験においての記憶がどれ程あるか、口頭でテストをするようだ。「了解」と短く返すと、和也は電話のスイッチを切った。
通路に出ると、副所長が待ち構えていた。彼は無精髭を弄りながら、「すまないね、和也君」と言葉をかけてきた。
「何がだ?」
「いや、あのVR実験が余りにも重労働に見えたものだから。たった二時間で30日分の時間を疑似体験するんだ。身体的にはともかく、精神的には相当参っているのかな、と」
「そう仕向けたのはお前らだ。わざわざ謝らなくていい。俺はそういう風に扱われる物だと認識しろ」
「そういう訳にはいかない。カウンセラーとして、君の精神を預かってる身だ」
「そうか。勝手にしろ」
それっきり、和也も副所長も何も言わなかった。三分ほど歩くと、心理実験室とプレートの打たれた部屋に着き、そこを開けると物々しい機械の山に塗れた、一人の女性研究員がいた。
「A-1ね。初めまして。私は…」
女性が自己紹介を始めるが、和也は聞いてはいなかった。その前の、ある単語が耳に引っかかる。
A-1というのは、彼を…桐嶋和也という人間を、実験材料として扱う時の識別番号だ。
副所長と所長、それにあのワシントンとかいう中将以外で、彼の名前を、和也と呼ぶ者はいない。呼ぶ必要も無い。彼らにとって桐嶋和也という少年は、自分の技術を試す為にある、実験用のマウスなのだから。
それを彼は特に悲しいとも、虚しいとも思ってはいなかった。
椅子に腰掛けると、頭部にケーブルを接続される。脳波やCPUの動きを調べ、記憶の有無を推測するためだろう。
研究員の一人が覗くパソコンに、彼の脳波が映しだされる。それはいくつかのパターンを見つけ出すと、その脳波が何を示しているか、というのを文字で表す。恐らくあの男も、ある程度の技術と冷徹さを買われてここにやって来たのだろう。心理学者か何かだろうか。
そして女性の研究員に渡された質問を見ると、和也はため息をついた。100以上ある項目は、兵士の格好や銃の種類、ビルの色に至るまで様々だった。
長くなりそうだと、和也はもう一度ため息をついた。