最終話 ひこーき雲とあおい空
顔を合わせた少女と少年。彼らのときが今、動き始める…。
触れた君の手はとても暖かくて心地よかった
君はここにいると教えてくれた
しばらく、誰も来たことが無いような病室。
どこまでも白く、唯一の彩りである花瓶には少ししおれたミニヒマワリ。
「…で、何の用だ?」
ぶっきらぼうに洸一が言った。
彼が座るベッドの隣には小さな椅子。
窓を背にして未月が座っていた。
「一応…謝りに…。さっき怒らせたみたいだったし。」
「それだけじゃないだろ?」
さらに訊かれて、未月が口をへの字に曲げた。
「俺を…哀れみに来たんだ?」
自嘲的な笑みを浮かべ、未月を見る。
「…ちがう。」
じっとその顔を見つめ返し、答えた。
怒っているような、真剣な表情。
その視線を受け止め、洸一は言い募る。
「そんなわけあるかよ!ここに来たってことは全部知ってるんだろ?事故のことも、俺が野球出来なくなったことも!」
「知ってるよ。だけど、哀れむためなんかに来たりしない!」
「うそだ!」
「うそじゃない!」
未月が一喝すると、洸一が息を呑んで黙り込んだ。
叫びとともにあふれたのは、涙。
「私は…あなたに逢いたかっただけ。」
涙に濡れた瞳で、洸一を射抜く。
「だってしょうが無いじゃん。気になるんだもん。」
「…。」
「何でそんなに大事なものを捨てようとしてるのか。なんで、そんなにつらそうなのか。
どうして…そんなにおびえてるのか…。」
「そんなの、俺の勝手だろ…。」
未月の顔をまともに見られず、洸一は顔を背けた。
「大体なんで泣いてんだよ…。」
「知らないよ…。」
手の甲で目の辺りをぬぐっている未月を目の端で捉え、洸一はベッドの上に視線を落とした。
「…俺の腕、完全に死んでるわけじゃないんだ。がんばれば動くし、感覚も残ってる。
リハビリ次第で何とかなるって言われたこともある。」
洸一は話し始めた。
ぎこちなく右手を動かして、テーブルの上の折鶴を手に取る。
「でも、けっこうキツくて…本当に回復してるかどうかも分からなくて。
たとえ、ちゃんと動くようになっても、野球が出来るかどうかもわからないし。」
右手が震えて、折鶴が滑り落ちた。
「俺には…先が見えないんだ。」
震える右手を、左手で掴む。
「可能性はゼロじゃないよね?」
今まで沈黙していた未月が口を開いた。
涙は止まっていた。
両手でローチェストの上のグローブに触れる。
「先は見えてるよ。洸一君はまた出来るようになる。」
未月がきっぱりと言った。
「お前、俺の話聞いてたか?」
「聞いてたよ。治るんでしょ?この手は…。」
グローブから手を離して、洸一の手を包み込む。
「治るよ、絶対。」
今まで、いろいろな人に同じことを言われた。
治るよ。
あきらめるな。
がんばろう。
でもそれはどこか社交辞令めいていて、あやふやだった。
けれど。
このバカ女は何の根拠もなしに、ただ治ると言ってくる。
今までで一番テキトーで、いい加減な言葉。
でも、信念をもった言葉。
「だと、いいけどな…。」
洸一に笑顔が浮かんだ。
それは、なんとも形容しがたい苦笑いだったけれど。
確かに、笑った。
「そうだ!洸一君!紙飛行機ってどうやって作るの?」
唐突に未月が訊いた。
「は?どうやって…って。お前作れないの?」
「うん。鶴ならできるけど。」
「そっちの方が難しいだろ、普通…。」
軽く突っ込みながらも、一枚の紙を手に取る。
真っ白な箱のような建物。
そこから二つの白い紙飛行機が飛び出した。
白いラインの入った、抜けるような青空を背景にそれらは舞い上がる。
どこまでも高く、高く。
大きな決意を乗せて。
最終話 ひこーき雲とあおい空 <完>
まず、最後まで読んでいただきありがとうございます!!
私は今まで2つほど短編を投稿させていただいたのですが、このような連載は初めてだったのです…。
前作があまり明るい終わり方ではなかったので、ハッピーエンドなお話にしようと思いまして。
二話目で思いっきりばれてるんですけどね…。
彼の正体が…。
謎掛けとかは苦手です。
この話書くのに、部屋で紙飛行機作って飛ばしたりとかしてました。
話に詰まったときとか。
後は、野球ですね…。
何気にすきなんですよ。
特に甲子園とか。熱いのが。
かっこいいじゃないですか!!
本当にここまで読んでいただき、ありがとうございました!!