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第三話 再会

一人病室で涙を流した少年。彼が次に現れるのは…。

あなたは誰なの?

どこに行ってしまったの?

私はまだ理由を聞いていないのに…。



「……き、未月!」

名を呼ばれて、未月ははっとして顔を上げた。

「ちょっと大丈夫?なんか最近、ボーっとしてること多くない?」

友人が眉間にしわを寄せて、顔を覗き込んでいた。

「あー…。ちょっと寝不足なのかも。」

あながち嘘ではなかった。

数日前の出来事が、何度も何度も頭の中に再生される。

降ってきた、白い紙飛行機。

屋上にたたずむ、一人の少年。

そして、両方とも消えてしまったという事実。

「ごめん。ちょっと顔洗ってくる。」

もっともらしい理由をつけて、未月は教室を出た。

(…ヒトが消えるなんて、あるわけない。きっと夢かなんかだ…。)

そう自分に言い聞かせて、頭を左右に振る。

それでも、妙にリアルで何故か割り切ってしまえないでいた。

未月が授業をサボったのは事実だし、先生にバレて軽い罰(大量の荷物運び)を食らったのもまた事実。

「あれは夢、夢…。」

口の中で唱えながら、未月は水を顔にたたきつけた。

飛沫が跳ねて、床を濡らす。

道行く人が、あからさまに妙な視線を向けるのにも気づかず、ひたすら洗う。


冷たい水は眠気を覚ますことはしても、このもやもやとした気持ちはすっきり晴らしてはくれなかった。



「ねぇ、今年は日焼けの心配しなくてよさそうだよ。」

いまだすっきりしない表情の未月が戻ると、早速友人が声を掛けてきた。

「日焼け?」

「うん。ていうか、野球部の応援しなくていいかも。」

「…?」

野球部の応援。

それは共学の高校ほとんどで行われる年中行事。

甲子園目指して戦う野球部を、全校をあげて応援する。

未月もその存在は知っていた。

「なんでまた…。」

「今年期待されてた一年生エースが事故にあったんだって。」

「エースが事故…。」

野球をあまりよく知らない未月でも、何だか大変なのだと分かる。

「それで戦力も気力も落ちてるって話。」

彼女は軽い調子で言っていた。

しかし、未月は表情を曇らせる。

「…未月?」

「…なんでも、ない。」

あわてて笑顔を作り、首を横に振った。



放課後。未月の足は自然とグラウンドに向いていた。

どうしてかは分からない。

しいて言えば、ただ何となく。

未月は金網ごしにグラウンドに目をやった。

友人の言ったことは、本当であるらしい。

いつも景気よく聞こえる掛け声は沈黙し、部員たちの表情は一様に暗い。

「そのエースとやらは、相当頼りにされてたんだね…。」


かしゃん。


未月の呟きに呼応する陽に、近くで金網が音を立てた。

音に惹かれるように、視線が移る。

「あ…!」

次の瞬間、未月は思わず声を上げていた。



その声があまりに小さかったこともあってか、その人物は身じろぎもしない。

ただ右手で金網をきつく握り締め、じっとグラウンドを凝視していた。

いや、睨み付けるというほうが適切かもしれない。

それは、見間違うことなく、屋上で消えた少年その人だった。











第三話 再会〈完〉

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