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58.知ったかぶりは恥をかく。


 『花ちゃん、お歌じょうずだねぇ』

 『花ちゃん、また歌ってよ!!』

 

 

 『どうやったら、そんなに綺麗な声が出せるの?』

 『小泉さんのような歌声を天使の歌声って言うんでしょうねぇ』

 

 

 

 『花ちゃんって、歌が上手いからって音楽の田中先生にひいきされてない?』

 『あ、言えるー』

 

 『花!! お前は小泉の家名に泥を塗る気か!!』

 

 ――― ……さい……。

 

 『ねえ! 田中先生、辞めさせられたって!!』

 『ええ!? それって小泉のせいって事!?』

 『そうだって!! 小泉の父親が怒鳴り込んで来たって!!』

 『うわ! サイアクー』

 

 ――― ……さいって……。

 

 『クスクス。小泉さんどうしたの?』

 『あ、もしかして上履きないの? やぁだ、どうするぅ?』

 

 

 

「――もう! うるさいって言ってるでしょ!!」

 

 花は叫んで起き上がった―――つもりだった。

 

「……あれ?」

 

 久しぶりに初等部の頃の夢を見たと思って、あの頃には言えなかった言葉を思いっきり吐いたのに。

 目が覚めて寝台の上にいるかと思いきや、花は四つん()いの状態で床に手を付いていた。

 

「あれ?」

 

 今一つ自分の状況が飲み込めないでいた花は、その場に座り込み辺りを見渡す。

 そこは豪華な装飾が施された応接間のようであったが、花が知る限りではマグノリアの王宮にこのような部屋はなかった。伊達に毎日散歩していた訳ではないのだから。

 自分の状況に思い至ると同時に、すぐ後ろの騒がしさに気が付いて振り返る。

 

「ガーディ様! 大丈夫ですか!?」

 

「ガーディ様!!」

 

 その場には小さく呻いて蹲る男と、その人物を心配して声を掛けるローブを纏った男が二人いた。

 

 ――― だ、大丈夫かな? 誰か人呼んで来た方がいいかな?

 

 などと花が心配していると、蹲っていた男が苦しそうにしながらも体を起こし、花を見た。

 

「あの……大丈夫ですか?」

 

「……」

 

 念の為に花は聞いてみたが、やはり返事はなくまだ苦しそうだ。

 

「この女!!――」

 

「やめろ!」

 

 ローブを纏った男の一人が花に向かって来ようとし、花は思わず座ったまま後退ったが、苦しそうにしていた男の制止する声に助けられる。

 大分落ち着いてきたらしい男……よく見ればまだ少年と言ってもいいような男の顔を見て花は驚きに声を上げた。

 

「あれ? あなたは……」

 

 とは言ったものの、名前が出てこない。

 

 ――― えーっと誰だっけ? よく見た顔なのに……えーっと……。

 

 そんな花の様子を見て男は微笑む。

 

「私の名前はガーディです」

 

「ああ、そうそう! ガーディさん!!」

 

「まだ名乗った事はありませんでしたが……」

 

「……」

 

 ――― アイヤー!! 知ったかぶりしちゃったよ!! 大失敗!!

 

 顔を覚えるのは得意だが、名前を覚えるのが苦手な花はついつい知ったかぶりをしてしまい、恥をかいてしまった。

 それでも、花は気を取り直して聞かなければいけない事を聞く。

 

「あの……ガーディさん、あなたは確か王宮で働いていた方ですよね? ここはどこですか? あれから時間はどれくらい経ったのですか? そして何の為に私がここに?」

 

 ガーディと言う男はマグノリア王宮で小間使いとして働いていたはずだ。

 そのガーディは花の矢継ぎ早な質問の一つ一つに答えてくれた。

 

「私はセルショナード王の魔術師の一人です。マグノリア王宮へは間諜として潜入していました。ここはセルショナード王国のクジサスにある離宮です。あなたをマグノリア王宮からお連れして……一日といったところでしょうか。何の為にかは……後ほどお分かりになるでしょう」

 

 クジサスはマグノリアとの国境近くにある街だが、ターダルト王国とも近いため城塞都市の様相を呈している。そこにある離宮と言うのなら、恐らく守りが厳しく外からの侵入は難しいだろうが、脱出路としての抜け道だってあるはずだ。

 花はすっかり頭に入っているセルショナードの地図を思い浮かべながら考えていたが、ガーディはそんな花の心を読んだように告げた。

 

「残念ながら、逃げ出す事は不可能ですよ。例えここから逃げ出せてもセルショナードから出る事は叶いません。とすれば、再び捕まる事は避けられませんし、その場合はあなたの無事を保障できませんので無駄な事はしない方がよろしいでしょう」

 

 その言葉に一瞬挫けそうになったが、それでもめげずに花はニッコリ微笑んで質問を続けた。

 

「ガーディさん、あなたはセルショナード王の魔術師となる前は何をなされていたんですか?」

 

 ガーディは一瞬、その質問に虚を衝かれたような顔をする。

 『従順で微笑む事しか能のない娘』と思っていた花の、先程からの質問にガーディはその考えを改めた。そして気持ちを切り替えると、優しく微笑んで答える。

 

「ガーディで構いませんよ。それと……私が何をしていたかですが、あなたが知る必要はありません」

 

「そうですか……では、ガーディ……にお友達は何人いるんですか?」

 

「さあ、何人だったか……残念ながら昨日、数人亡くなりましたね」

 

「まあ、それはお気の毒です。それで、その命の代償に得た物にそれ程の価値がありましたか?」

 

「それはこれからわかると思いますよ」

 

 暫くの間、ディアンとはまた別の微笑み合戦が繰り広げられたが、結局花の得られた情報は少なかった。

 その後ガーディは出て行ったがローブを纏った男が一人残ったのは、恐らく見張りの為だろう。どうやらここは花の為に用意された客間らしく、ガーディと入れ違いに侍女二人が入ってくると湯あみだ何だと世話を焼かれたので大人しく従った。

 そして今、用意された食事しながら花は男の隙を窺っていた。

 果物をむく為のナイフを見つけたのだ。

 緊張しながらも、なんとか花はそれをコッソリとナプキンで包むと椅子とドレスとの間に隠し入れる事が出来た。

 

 ――― 後でなんとか隠し持てるように考えないと……。

 

 そんな事を考えながらも、花は自分の行動に驚いていた。

 今までなら、「まあ、いっか」で流されていただろうに。

 でも今はルークの許に、みんなの許に帰りたいと切望している。

 花は窓に目を向け、曇天の広がる冬の空を眺めた。

 

 ――― ルークに会いたい。

 

 ルークを想うと、花は苦しくて泣きたくなった。

 きっとルークは酷く心配しているだろう。

 それでもどうか、あまり悲しまないで、苦しまないでいて欲しい。

 本当は今すぐ駆け出してルークの許に帰りたい、泣き叫んで暴れてしまいたい。

 でもそれは出来ない。

 必ずルークの許へ帰ると決めたから、今は耐えるのだ。

 花は強く決意すると、何事もないように再び食事を続けたのだった。

 

 

  *****

 

 

「ガーディ様、王太子殿下が到着なさいました」

 

「わかった」

 

 ガーディは立ち上がると、離宮の外邸へと向かった。

 長い廊下を足早に進みながらガーディは転移できない己に苦笑する。

 今度こそ花を闇へと落とす為に別次元空間へと閉じ込めた完璧な状態で術を施していたが、なぜかいとも容易く破られてしまった。

 通常では考えられない事だが、一度目と同じように眩いばかりの光が花を包み込んで闇を振り払い、空間から脱出したのだ。

 その反動でガーディは魔力に損傷を受け己の生じた空間は歪み、修正する為に更に魔力を消費してしまった。

 

 ――― あの光はいったい何なのか……。

 

 計画は少し狂ってしまったが、修正は利く。

 王太子の待つ部屋の前まで来ると、これからの事に意識を集中させてガーディの為に開かれた扉の中へと入って行った。

 


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