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番外編.レナードの受難。

いつもありがとうございます。

今日は本編の方はお休みです。

すみません。

 

 小鳥の(さえず)る声で目覚めたレナードはそのまま窓辺へと行き、勢いよくカーテンを開けた。

 外は明けゆく太陽の爽やかな光に包まれている。

 いい一日になりそうだ、と思ったレナードは朝食をとりに家族用の食事室へと向かった。

 すると、そこにはすでにディアンがいた。

 

「遅いですよ、レナード。では行きますか」

 

「は? どこへ?」

 

 レナードを見るや否や、ディアンは立ち上がるとレナードの腕を掴みスタスタと食事室を出ようとする。

 その勢いに押されながらもなんとかレナードは行き先を聞いた。

 が、その答えに驚愕する。

 

「不可侵の森ですよ。レナードの騎士生活恐らく五十周年を祝して冒険へ行くのです」

 

「待て待て待て!! なぜ冒険だ!? ってか「恐らく」って何だ!? しかも不可侵の森ってありえねえだろ!?」

 

「おや、騎士ともあろう者が怖気付いたのですか? 恐らく五十年も騎士をしているのに?」

 

 呆れた、とばかりに言うディアンにレナードはこれ以上何か言っても無駄だと悟る。

 そして隙を見て逃げ出したのだった。

 

 

  *****

 

 

「助けてくれ! ルーク!!」

 

 先頃、皇太子の地位に就いたルークの部屋にレナードは助けを求めて駆け込んだ。

 

「断る!」

 

 そんなレナードをルークはキッパリと切り捨てた。

 それに納得しかねるようにレナードが食って掛かる。

 

「何でだよ!? まだ何も言ってねえよ!!」

 

「お前が助けを求めて来る時は常にディアン絡みだ。ジャスティンの所へ行け!」

 

 明解なルークの返答にもめげずレナードは更に言い募る。

 

「ジャスティンは今日、シェラサナード様とデートなんだよ!! そんな時に邪魔して見ろ、ディアンよりも恐ろしい災いが降りかかって来るだろうが!!」

 

「姉上と? そうか、それではしょうがない。腹を括れ」

 

 ルークの無情な言葉に言い返そうとしたその時。

 勢いよく部屋の扉が開かれ、魔王の如きディアンが現れた。

 

「やはり、ここにいましたね」

 

「お前ら兄弟はノックぐらい覚えろ」

 

 呆れたように言うルークにディアンは悪びれもせず爽やかに微笑んだ。

 

「おはようございます、殿下。今日は冒険日和ですので、レナードの恐らく騎士生活五十周年を祝って不可侵の森へちょっと出かけてきます。ですから、しばらくお側を離れる事をお許し下さい」

 

「不可侵の森!?……そうか……もちろん構わない。まあ、気を付けて行って来い」

 

 非常に嘘臭い笑顔を浮かべながらルークは二人を励ますと、同情の視線をレナードへと向ける。

 二人の会話の隙に逃げようとしていたレナードは、すぐさまディアンに捕まえられて引き摺られるように部屋から出て行った。

 

「……レナードに幸多き事を」

 

 その様子を気の毒そうに見ていたルークはポツリと祈りの言葉を呟いたのだった。

 

 

  **********

 

 

「レナード、恐らく騎士生活五十年ともあろう者が、そのような魔物にてこずっていてどうするのです」

 

 呆れた様子のディアンに、ついにレナードは噛みついた。

 

「お前は何もせずに、何言ってんだ!? 俺が昨日から何体の魔物と戦ったと思ってんだ!! 少しはお前も働け!! 戦え!!」

 

「何を言ってるのですか、レナード。私は文官ですよ? 戦うなんて野蛮な事出来る訳ないでしょう。それとレナードが何体の魔物と戦ったなんていちいち数えている訳ないでしょう? 私は薬草摘みに忙しいんですから」

 

 そう言うと、不可侵の森でしか摘めない薬草でいっぱいになった籠を大事そうに抱え直した。

 それから何やら図鑑のような物を取り出すと、ディアンはレナードに頼んだ。

 

「あ、レナード。その魔物の角は滋養強壮に大変効果があり高値で取引されるそうですから、切り取って下さい」

 

「い・や・だ! 何で俺がお前の小遣い稼ぎに付き合わなきゃならないんだ!! もう十分だろうが!!」

 

 不機嫌な調子で答えたレナードは来た道を戻ろうとした。

 が、その肩をディアンががっちりと掴み、暗黒笑顔で微笑む。

 

「レナード、私は何も私利私欲だけでこの森に入った訳ではありませんよ? この森でしか摘めない薬草でいったいどれだけの人が救われる事でしょうか……あなたは病に苦しむ人を見捨てるのですか? 騎士道精神はどこへ行ったのでしょう。嘆かわしい事です」

 

「――わかったよ!! もう少し付き合ってやるよ!! ただし、その魔物の角を切り取るのは可哀そうだろう? そもそも侵入者は俺たちだ。襲ってきたから倒しただけであって、コイツも本来ならこんなところで倒れる必要はなかったんだ。角まで失くしたらコイツ立ち直れないんじゃないか?」

 

 ディアンの言葉に不服そうにしながらも結局は付き合うことにしたレナードだったが、気を失っている魔物の角を切り取る事には躊躇いを見せた。

 

「さすが、騎士道精神をお持ちですね。魔物にまで情けをかけてやるとは……でも安心して下さい。その魔物の角はまた生えてきますから」

 

「そうなのか?」

 

「たぶん。だから苦しむ人たちを助けると思って」

 

 そう言ってディアンは優しく微笑む。

 その微笑みに驚いたレナードは、ディアンの返事が「たぶん」だった事に気付いていなかった。

 

 

「なあ、あの伝説は本当かな?」

 

 角を切りながら顔を上げずにレナードは聞いた。

 

「そうですね、今回の目玉商品にするつもりですから無いと困りますね」

 

 その答えに驚いてレナードは顔を上げる。

 

「お前……至極の宝を売るつもりなのか!?」

 

「さあ、それは物を見てみないと何とも言えませんね」

 

 そう答えたディアンだったが、次に口を開いた時には不快そうに顔を顰めていた。

 

「ところでレナード、先程から鬱陶しい『あれ』をなんとかして下さい」

 

「……気持ちはわかるが、今のところ害はないしな」

 

 そう言うと二人は『あれ』を煩わしそうに見る。

 二人に視線を向けられている事に気付いた『あれ』は一瞬隠れたかと思うと、次には二人の目の前に仁王立ちで現れた。

 

「ハッハッハ! よく聞け人間ども!! 至極の宝が欲しければ、この森の最奥へと行くのだ!! さすれば、宝が手に入るやも知れん!! もちろんそれには試練を乗り越えてもらわねばならないがな!!……ププ。『知れん』と『試練』……ププ」

 

『あれ』と呼ばれた魔物は、偉そうに述べた自分の寒い言葉に一頻(ひとしき)り笑った後、二人に目を向けた。

 が――

 

「え? いない??? どこ行った!?」

 

 慌てて辺りを見回した『あれ』は二人がずっと先を歩いて行くのを見つけて慌てて追いかける。

 

「ちょっ!! 置いて行くなよ~!!」

 

 そうして二人に追いついた『あれ』は恐ろしい形相で咆哮を上げた。

 

「お前ら! ふざけるな!! この俺様を無視するとは殺されたいのか!?」

 

 その怒りに触れるだけで並の人間なら昇天しただろう。

 実際、その怒りを帯びた魔力は近くにいた下等な魔物を昇天させた。

 が、二人は『あれ』が見えていないかのように会話を続けながら進んで行く。

 

「……だから、いくらなんでも至極の宝は売っちゃまずいだろ? いらないなら王宮の宝物庫で保管すればいいんだし……」

 

「バカですね、レナード。それでは一銭の得にもならないではないですか」

 

「お~い!」

 

「だから、儲けようとするなよ!!」

 

「お~い!!」

 

「だからあなたはバカなのですよ、なぜ儲けにもならないのにこんなとこまで来ないといけないのですか」

 

「お~いってば!!」

 

「お前がこんなとこに俺を連れて来ておいて何言ってんだ!?」

 

「おい!! って言ってんだろ!?」

 

 再び咆哮を上げた『あれ』に二人はピタリと立ち止り振り向く。

 

「うるさい!!」

 

 二人の息の合った怒声に、『あれ』は思わず直角に腰を曲げ謝罪した。

 

「すみませんでした!!」

 

 それから結局『あれ』は無視されたまま大人しく、二人の後に憑いて行ったのだった。

 

 


読んで下さり、ありがとうございます。

※「憑いて行った」は敢えてです。

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