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番外編.レナードの苦難。

 

 今、タベルナ(食堂兼宿屋)の食堂で難しい顔をして座っている若い男、レナード・ユースは、先月十八歳の誕生日を迎え成人した所だった。

 名門侯爵家、ユース家の次男として生まれ、容姿にも恵まれている彼は、その誕生日を迎えた先月、頭脳、体力、そして、魔力共に騎士団基準を合格し、来月から騎士団に入団する事が決まっていた。

 誰もが彼の事を羨み、彼になりたいと言う。

 そんなレナードの切実な願い、それは……。

 

『代れるものなら代ってくれ!!』

 

 と言うものである。

 

 ***

 

 レナードの前には、一人の女性がいた。

 城下にある大通りから一本路地を入った場所にある一軒のタベルナの食堂で、二人は向かい合わせに座っている。

 女性は先程からずっと俯き、ハンカチを握り締め泣いている。

 周りの食堂利用客からは、チラリチラリと視線を向けられている。

 きっと周りの者たちは、いいとこのお坊ちゃんが女性を弄んだあげく、捨てようとしているとでも思っているのだろう。

 皆、一様にレナードへの視線が冷たい。

 それもそのはず、この女性の言葉がシンとした食堂に響き渡っているのだから。

 

「酷いわ、レナード!! 十八歳になったら結婚してくれるって言ったじゃない!! まだまだ未熟だけど、絶対、私を幸せにしてくれるって!!」

 

 ――― そんな無茶な事、言ったんだ……。

 

「だから私、婚約者と別れたのに!!」

 

 ――― ええ!? それはまた早まった事を……。

 

「私に、あんな事しておいて、今更、別れたいなんて!! もう私、お嫁にいけない!!」

 

 ――― あんな事ってどんな事!?

 

「なんで何も言ってくれないの!? もう一度、あなたの優しい声で私の名前を呼んで!!」

 

 ――― えーっと……。

 

「お願い!! 何か言って、レナード!!」

 

「あの……お名前はなんて言うんですか?」

 

「!?」

 

  ***

 

 ――― クソッ!! ディアンの野郎!! また、人の名前騙りやがって何してんだ!?

 

 レナードは先程の女性に叩かれて腫れた左頬を抑えながら、屋敷へ帰る為に大通りを歩いていた。

 先程の女性は魔力が程々あったらしく、平手打ちをする時にわざわざ魔力をのせて叩いてくれたので、結構効いた。そんな気の強い所が、ディアン好みだったのだろう。

 レナードは、ディアンに先程の場所へ呼び出され「わざわざ何だろう?」と思い、行ってみたら修羅場が待っていたのだ。

 

 ――― クソッ!! これで何度目だよ!!

 

 もう一度レナードは悪態を吐いたが、これが何度目なのかはわからない。

 

 ――― 次は絶対、騙されないからな!! ディアンめ!!

 

 この誓いも何度目なのか。

 そうして歩いていると、ふと目の前に若い男が立っていた。

 

「あなたがレナード・ユースさん?」

 

 いきなり尋ねてきた男に訝りながらも、レナードは答えた。

 

「――そうだが?」

 

「では、ついて来てくれますか?」

 

 そう言って男は歩き出す。

 何が何だかわからなかったが、思わず男の後をレナードは追った。

 男はレナードを振り返りもせず、スタスタと進んで行く。

 

「お前、何なんだよ?」

 

 ずっと黙ったままの男にしびれを切らして問いかけたレナードだったが、男は急に立ち止まった。

 

「着きました」

 

 男がそう言った場所は、行き止まりになった薄暗い路地裏だった。

 

「? お前……!?」

 

 訳がわからず、再び声を掛けようとしたレナードは、数人の男に囲まれている事に気付いた。

 その中から顔に傷のある体格のいい男が一人、前へ進み出てくる。

 

「お前がレナード・ユースか?」

 

「そうだが、お前らは?」

 

 レナードの質問に答える者はなかった。

 いきなり男たちは、棒やナイフをレナードに向けて振り回して来たのだ。

 

「な!?」

 

 なんとか男たちの攻撃をかわしていくが、何せ数が多い。何度か棒で殴られ、膝をつきながら、それでもナイフからは逃れようと苦戦する。

 騎士団入団が決まった以上、私事で一般人に魔力を揮う事は許されない。

 

 ――― クソッ!! このままじゃ!!

 

 本日何度目かの悪態を吐きながら、なんとか逃げる手を考える。

 と、そこへ更に数人の男が駆けつけて来た。

 万事休す。レナードは、その状況を呪った。

 

「お頭、違いますぜ!! この男じゃありません!! あっしらがやられたのは銀髪野郎でした!!」

 

 ――― え?

 

 駆けつけて来た男の一人の声に、レナードは唖然とした。

 

「何!? お前レナード・ユースなんだろう!?」

 

 お頭と呼ばれた男がレナードに詰め寄る。

 

「そうだけど……」

 

 切れて腫れた口からは、思うように声が出せない。

 

「でもお頭、コイツじゃありやせん!!」

 

 先程の男がジッとレナードを見て叫ぶように言う。

 

「じゃあ、間違いなのか!?」

 

「間違いです!」

 

「……」

 

 二人のやり取りにレナードは言葉もなかった。

 

 ――― 銀髪のレナード・ユース……。

 

 レナードは立ちあがると、男たちを一睨みしてから無言でその場を立ち去った。

 男たちもまた、無言でレナードを見送った。

 

  ***

 

「ルーク!!」

 

 すごい形相で、というか酷い顔でレナードは王宮のルークの部屋へ怒鳴り込んだ。

 そこにはディアンもいて、ルークとボードゲームをして遊んでいた。

 

「おや、レナード、随分と男前になりましたね。整形に成功したんですね、おめでとう」

 

 ディアンが驚きもせず、心配もせずに言う。

 

「ディアン! お前もだ!!」

 

 レナードは二人を睨みつけるが、ルークはレナードの存在そのものに気付いていないかのように、盤上をジッと睨んだままだ。

 それに腹を立てたレナードは、ズカズカと二人の側に行って、ボード盤を机からはたき落とした。

 

「お前ら、いい加減にしろ!! 俺の名前を騙るな!!」

 

 その言葉にディアンはしれっと答える。

 

「レナード、私は仮にもユース家の跡取りですよ? その私がおいそれと名乗れるわけないじゃないですか。いいですよね、次男坊は気楽で」

 

「な!?」

 

 嫌味で返され、何を言えばいいのかわからなかったレナードに、更にルークが言葉をかける。

 

「レナード、皇子の俺が市井で名を名乗れるわけがないだろう。いいな、お前は気楽で」

 

「な!?」

 

 再び言葉に詰まるレナードに、ルークがため息を吐いて続ける。

 

「しょうがないな、レナード。俺の貴重な魔力でお前の怪我を治してやる」

 

 そう言うとレナードに向けて治癒魔法を始めた。

 途中でディアンも加わる。

 

「しょうがないですね、今回は特別ですよ?」

 

 暫くすると、レナードの怪我はすっかり良くなった。

 それを満足そうに見た二人は……。

 

「レナード、お礼は?」

 

「え? お礼?」

 

「そうですよ、貴重な魔力を使って治癒してあげたんですから」

 

 レナードのポカンとした顔に、ディアンは諭すように言う。

 

「あ、ありがとう」

 

 思わずお礼を言ったレナードに、ルークが呆れたように言う。

 

「感謝は言葉だけじゃなく、態度で示せ」

 

「え?」

 

「もちろん、そうですよね。先程ジャスティンから「三人のうち誰か手伝いを」と頼まれましたが、レナードが行ってくれますね」

 

「ああ、それで許してやろう」

 

 ただただ、呆気に取られていたレナードだったが、ルークの「ほら! 早く行け!」と言う言葉に追い立てられて、部屋を出て行ったのだった。

 

「あれ?」

 

 ジャスティンの部屋へ向かいながら、何かがおかしいと思わずにはいられないレナードだった。

 


読んで下さり、ありがとうございます。

まだまだ、やんちゃな18歳の3人でした。

18歳でも(ルークはまだ17歳)治癒魔法が仕えるくらいには魔力があるみたいです。

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