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番外編.ルークの心配。

 世界中に鐘の音が鳴り響いた、あの奇跡の日からひと月あまり。

 騒動の中心だったマグノリア王宮もすっかり落ち着きを取り戻していた。

 そして花は、温かな陽気に誘われて、美しく彩る庭をセレナたちとのんびり歩いていたのだが――。 

  

「ハナ、歩いたりして大丈夫なのか?」


「陛下……私は別に病気ではないんですから、大丈夫です。妊婦には適度な運動も必要なんですよ」


「そうか……」


 突然目の前に現れたルークに驚くことなく、花はにっこり笑って答えた。

 花の妊娠がわかってから、今まで以上にルークは過保護で心配性である。


「それに、ソフィアは臨月まで馬に乗って、あちらこちらと駆け回っていたそうですが、ヴィートさんはとっても元気にお生まれになったんですって」


「いや、あれはまったく参考にならんだろう……」


 ルークが聞いた話では、それはもうセインははらはらと心配ばかりで、胃に穴が開いたとかどうとか……。


「そうですね、私は残念ながら馬には乗れませんから……」


「……」


 そういう問題ではないが、ルークはもう何も言わなかった。

 と、そこへ新たに現れた気配に舌打ちしたくなる。

 そんなルークとは対照的に、素直に「げっ」と声に出してしまったレナードは、その後絶叫した。


「ディアン! 何するんだよ!?」


「別に何も。何かを感じるというのなら、それはあなたの疚しさですね」


「んなわけあるか! 俺が何をしたってんだよ!?」


「あえて言うなら、存在していることです」


「存在全否定かよ!」


 レナードは新たに現れた人物――ディアンに、どうやら見えない攻撃を受けているらしいのだが、その抗議も当然受け入れられない。

 そんな二人をルークが睨みつける。


「お前ら、うるさい。胎教に悪いだろう」


「おや、陛下。胎教などという言葉をご存じとは……。どうやら育児書をしっかりお読みになっているようですね。確かに、父親になるためには必要なことでしょう。ところで、昨夜お渡しした書類はもちろん全て目を通して頂けたのですよね? たったの二千枚ほどですから、簡単でしたでしょう? それなのに、承認を頂きたいので今から伺いますと、先触れを出したにもかかわらず、執務室にいらっしゃらないのでお捜しいたしましたが……。先触れと行き違いになってしまわれたのでしょうか?」


「……」


「あの、陛下。ご心配をおかけしたようですが、私は本当に大丈夫ですから、どうかお仕事を……頑張ってください」


 ――過労で倒れない程度に。

 と心の中で付け加えながら、花はルークに笑顔を向けた。

 今晩はルークのためにいつも以上に心を込めて歌おうとこっそり誓い、諦めた様子のルークを見送る。


 ルークだけではない。

 落ち着いたとはいえ、あの騒動の後始末はまだまだ山積みであり、そろそろ王宮の人たちの疲れもピークにきていることは花も感じていた。

 なぜかディアンだけはいきいきとして見えるが、きっと、たぶん、少しは、疲れてもいるだろう。

 そう思い至ると、花は部屋へと戻る前に、月光の塔へ向かうことにした。

 どうかみんなの癒しに少しでもなるように、ピアノを弾くために。




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