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最終話.今までありがとうございました。

  



  世界の創世と終焉 響き渡るは鐘の音 

     全ての始まりも そして終わりも 鐘の音と共に



 まるで創世の神話の一節のように、心に響く美しい鐘の音。

 世界は輝かしい未来へ向けて新たに歩み始めたのだ。

 その清らかな音色に皆が耳を澄ませて聴き入る中で、ユシュタルの慌てた声が上がった。


「おっと、僕はもう行かないと! って、あ! そうそう、その前に……」


 しかし、すぐに何かを思い出した様子で花へと振り向いたユシュタルは、ドイル達の媚びた視線に追い縋られて足を止めた。


「さっきも言ったけど、僕に慈悲を期待しないでよ。君達の処遇に関しては僕が口を出す事じゃないからさ」


 冷やかなユシュタルの言葉を受けて、ルークは小さく息を吸った。

 そして、わずかに花から離れると、冷酷な皇帝の顔に変えてドイル達へ厳然と言い渡す。


「この素晴らしき日、喜ばしき出来事に、私は罪を犯した多くの者達へ恩赦を与えようと思う。しかし、――大逆である謀反、その先導者であるそなたらを赦免するつもりはない。追って沙汰するまで、各々屋敷にて謹慎し待命せよ」


 血の気を失くし、もはや立つ事もままならない程に虚脱したドイルやハルンベルツ侯爵達を近衛達が引き立てる。

 抵抗することもなく引きずられるようにして謁見の間から去って行くその姿を、誰もが黙して見送った。


 どんなに良き君主であろうとも、人を治め、国を治めるには幾許(いくばく)の血を流し続けなければならないのだ。

 この先もルークはつらい決断を何度も迫られるだろう。

 花はすっかり感情を消したルークの傍に立ち、冷たくなってしまった大きな手をそっと握った。


「私はルークを信じています。――この先も、ずっと」


 何があってもルークの決断を信じ、支えていきたい。

 花の小さな言葉に伝わるあたたかな愛を掴むように、ルークは繋いだ手を強く握り返した。

 そんな二人に、ユシュタルは優しく微笑む。


「さてと、本当に僕はもう行かないと。でも最後に、頑張ってくれた彼にも僕から祝福をね」


 にこやかに告げたユシュタルは花のお腹に手を当てて、別れの挨拶代わりにその柔らかな頬へと口づけた。

 途端に、黙って見守っていたルークの纏う気が怒りを帯びる。


「これは頑張った僕へのご褒美だよ。お城の壊れた所は直しといたから!」


「あ――」


 ユシュタルは軽く目を見開いた花へと悪戯っぽい笑みを向けて、ルークにも誰にも何も言わせずに瞬く間に消えてしまった。

 改めてお礼を言う機会を得られなかった花は残念な気持ちでいっぱいだったが、その様子を呆気に取られて見ていた者達は微かな期待にざわめき始めた。

 たった今、目にしたユシュタルの言動が意味することに、セインがためらいながらも質疑の声を上げる。


「お、恐れながら……その……、まさかハナ様は御子を……?」


「ああ」


 ルークの返事はそっけないものだったが、その声に喜びが含まれていることは長年側近くで仕えてきた者達には十分に伝わった。

 お腹に優しく手を添えた花の顔も幸せに輝いている。


「おめでとうございます!」


 謁見の間は一気に喜びと祝福に沸いた。

 避難していた王宮内で働く者達も、立ち入る事を許されない謁見の間の外に続々と集まって来ており、この吉報に歓喜している。

 その中に、手を取り合い、涙を流しながらも嬉しそうに微笑むセレナとエレーンの無事な姿を見つけて、花はホッと胸を撫で下ろした。

 ルークは繋いだままの花の右手をそっと持ち上げ口づけると、頬を染めた花を真っ直ぐに見つめた。

 

「ハナ、この指輪と共に私の生涯の愛を誓う。どうか私の妻となり、命ある限り傍にいて欲しい」


「――はい」


 幸せに込み上げる涙を堪えた花の声は微かに震えていたが、それでもはっきりと頷いた。

 その様子を、後ろに控えたレナードが嬉しそうに見守っている。

 ルークは花を柔らかく抱き寄せて皆へ向き直ると、ゆっくりその場を見渡した。

 瞬時に静まり返った謁見の間に、ルークの厳かな声が響く。


「今、この時を以ってハナ・カルヴァに私の名を授け、私の正妃とする」


 その宣言によって、花は正式にマグノリア帝国皇妃――ルークの正妃となった。


「ハナ様、おめでとうございます」


 養父であるセインが改めて祝いの言葉を述べる。

 ジャスティンも、ガッシュも、皆が口々に祝う。

 次々と祝辞を受けた花は涙に滲む瞳を輝かせて微笑んだ。


「皆さま、今まで本当にありがとうございました。そしてこれからも、どうぞよろしくお願い致します」


 謝辞を述べた花が深く頭を下げると、皆が畏れ多いと慌てふためいた。

 人々の笑顔は幸せを運び、王宮を喜びで満たしていく。

 賑やかになった謁見の間を上機嫌で眺めていたザックは、ふと浮かんだ疑問を口にした。


「……そういや、宰相殿、サンドル王国はどうするんすか?」


 エヴァーディオ王太子が亡くなった今、次代の王位はディアンが得ることになるだろう。

 それ故の問いかけに、ディアンは心底楽しそうに笑った。――そう、笑ったのだ。


「その件に関しましては、とっても良い事を思い付きましたので、ご心配には及びませんよ」


「……」


「そ、それは、とっても良い事っすね……ははは……」


 ディアンの返答に、ザックは明後日の方向を見て応えた。

 また、その会話を偶然耳にしてしまった者達やリコはさり気なく視線を逸らすと、サンドル王家の行く末を憐れみ、民の幸せを願った。

 花はなぜかディアンの周囲だけ空気が違う事に首を傾げながら、傍に立つルークを見上げた。


「――あの、私はルークからどの名前を頂いたんですか?」


 遠慮がちな花の問いにルークは苦笑する。


「ああ、そうだな……。これからハナは公式にはハナ・ルカシュテインファン・マグノリアと名乗る事になる」


「わ、私……ちゃんと発音できるように頑張って練習します」


 一瞬、困惑した様子の花だったが、すぐに決意を込めて呟いた。

 その言葉に、ルークは愛おしそうに目を細め、次いで意地悪くニヤリと笑う。


「だが、正式には――ハナ・ルカシュテインファン・マグノリア・トス・カルヴァ・コイズゥミ――となるな」


「え……」


 あまりの驚きにぽかんと開いた花の口を、ルークはその口で塞いだ。

 それは、末永く続く二人の幸せのはじまり。


 この後に、ユシュタールは美しい音楽の溢れる輝かしい世界となる。

 シューラの音色にのせて吟遊詩人が歌い紡ぐは、世界を支えた偉大なる皇帝と世界を救った尊き妃――その愛の物語。




ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

これにて「猫かぶり姫と天上の音楽」は完結です。

本当にありがとうございました。


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