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14.トイレはきれいに。

 

 メインの食事が終わり、一旦セレナたちを呼んで食器を片付けてもらう。

 

 ――― パッと魔法で片付けたりは、しないんだ……。

 

 そんな事を思っていると、エレーンがデザートと紅茶を運んで来てくれた。そして二人は一礼をしてまた下がる。

 ちなみに居間に続くいくつかの小さな部屋が彼女たちの部屋らしい。

 

 デザートはオレンジのジュレのようなものだ。

 それを口に運ぶのだが、花の頭の中には「デザートは、わ・た・し♪」と言うセリフがエンドレスに流れていて、味がよくわからない。

 気がつけば、ルークに何か話しかけられていたようだが、聞いていなかった。

 

「え? なんて言いました?」

 

「……他に聞きたい事はないかと、言ったんだ」

 

「聞きたい事?」

 

 聞き返しながらも、花の頭の中には相変わらず「デザートは、わ・た・し♪」が流れている。

 聞きたい事なら、たくさんあったはずなのに、咄嗟に出てこない。焦った花の口から飛び出したのは――

 

「デザートは私?」

 

 ――― ぎゃあああ!! なんで口から出るんだ!? 私のバカ!!

 

「食べてほしいのか?」

 

 自分の失言にパニックになっていた花は、ニヤリと笑って問い返すルークの言葉に更にパニックに陥る。

 

「何言ってるんですか!? どんな変態ですか!? 誰がそんな事言ったんですか!?」

 

「お前だ、ハナ」

 

 ルークは冷静に切り返す。

 

「そんな事、思ってても言いません!!」

 

「……」

 

 もはや暴走した思考は止まらない。

 

「それよりも、ここのトイレってどういう仕組みなんですか?」

 

 止まらないなら、突っ走るしかない。

 

「――俺はお前の頭の中の仕組みが知りたいがな」

 

 呆れた様子でルークが返す。

 

「だって、ここのトイレ、すごいじゃないですか。水が流れるし。しかも勝手に」

 

「そうか?……今から百年ほど前からだが……」

 

「百年前からですか? すごいですね。私の国とよく似た様式で驚きました」

 

 会話を進めるうちに、花は落ち着いてきた……内容に問題はあるが。

 

「そうなのか?……そういえば……」

 

 ルークはそう言うと考え込むように黙り込んでしまった。しばらく沈黙した後、ルークは再び口を開いた。

 

「今の仕組みを考えた男が、『違う世界から来た』と言っていたな。当時は、他国の事かと思っていたんだが……」

 

「ええ!? 本当ですか、それ!?……名前はなんて!?」

 

 ルークの言葉に、花は驚愕した。

 

「名前は確か……カズ……カズゥオ……ああ、カズゥオ・サトーだ」

 

「カズゥオ・サトー?」

 

 どうも、ルークの発音は聞き取りにくい。

 

「カズゥオ……カズ……カズオ・サトー!?」

 

 思い当たった発音に花は興奮して声を上げた。それに少し驚いたように、ルークが答える。

 

「ああ、確かに、そういう名前だったと思う。知っているのか?」

 

「い、いえ、その人のことは知りません。でも、その名前は私の国では、よくある名前です!」

 

 花の興奮は続く。

 

「そうなのか? でも、あの男にはわずかながら魔力があったぞ? だから、特に不審にも思わなかったんだが……」

 

「ええ!?」

 

 ――― じゃあ、違うのかな? そもそも、日本で感知式が開発されたのは最近だ。なのに、百年前って……サトウさんとやらは日本人じゃないのかな? うーん、わからない……んん?………待て待て待て!! ちょっと待て!!

 

 花はサトウさんに気をとられて聞き流していた、不自然なルークの言葉に気が付いた。

 

「あの……まるで、百年前にルークがサトウさんと会った事があるように聞こえるんですけど……?」

 

 恐る恐る聞いた花の言葉に、あっさりルークは答えた。

 

「んん? ああ、変わった男だったぞ。百年ほど前、マグノリアで疫病が蔓延したときに、『疫病が広がるのは不衛生だからです!』と衛生面の改善案を上申してきてな。それで王宮だけでもと、あの男の言うとおりにしてみたら、王宮内での広がりが収まったものだから、急ぎ、マグノリア全土に布令を出した。すると、数ヵ月後には無事に疫病も終息したものだから、その後、あの男の指示で数年かけて、王宮や城下の下水設備を整えたんだが……」

 

 ――― いやいや、そうではなくて……。

 

「ルーク……ユシュタールでは、一年は何日ですか?」

 

「四百二十日だが?」

 

「……ルークは今、何歳なんですか?」

 

「今年で……百四十三歳になるな」

 

「はい?」

 

「百四十三歳だ」

 

「……」

 

 花は黙って、すっかり冷めてしまった紅茶を飲んだ。

 

「そういえば、まだハナの歳を聞いていなかったな」

 

「……二十歳です」

 

 ――― 三百六十五日の計算で。

 

「若いな」

 

「――どうも」

 

 なんだか色々とどうでも良くなってきた花だったが、一応聞いておかなければと、口を開いた。

 

「あの……この世界の皆さんの平均寿命は?」

 

「平均……寿命も魔力によるからな。ほとんどの者たちは、だいたい百五十歳から二百歳くらいだろう。魔力の強い者たちは二百五十歳から三百歳くらいといったところだが、この王宮に限って言えば、四百歳に近いかもな」

 

「なぜですか?」

 

「この王宮には魔力の強い者たちが集まっている為、王宮内に魔力が満ちている。それが、皆の魔力に作用し、補っているからだ」

 

 ――― そんな、便利な機能が……。

 

「では、ルークもそれだけ長生きできるんですね?」

 

 花の言葉に、ルークは苦笑した。

 

「王族や、王族に近い貴族たち……レナードもそうだが、その者たちは特に魔力が強いから、更に長く生きる。俺の父である先帝陛下は五百三十七歳で亡くなられた。文献によると、千歳近くまで生きた皇帝もいたらしい」

 

「すごいですね」

 

 花は驚嘆した。

 

「無駄に長生きしても、しょうがないがな」

 

 そう言ったルークの声にはどこか、自嘲めいたものが含まれていた。ほんのわずかな沈黙が落ちた後、ルークは突然立ち上がった。

 

「もう休むぞ」

 

 そう言って、ルークは寝室へと姿を消した。

 

 ――― ええ!? 休むと言われても……どうすればいいの!?

 

 一人残された花は、途方にくれたのだった。

 


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