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村での日常

朝、空き家の前はいつも通りだった。


井戸の桶が一つ、

壁際に立てかけてある。

誰が置いたのかは分からない。


エリシアは、遅れてやってきた。


昨日と同じ服。

同じ髪型。

ただ、歩き方が少し違う。


「……おはよう」


声が低い。


「おはようございます」


それだけで、会話は止まった。


エリシアは、俺の横を通り過ぎ、

中に入る。

床に腰を下ろすまで、何も言わない。


しばらくしてから、ぽつりと。


「……誰も、何も言わないわね」


「ええ」


「昨日のこと」


「はい」


「なかったみたい」


否定も肯定も、しない。


「怒られないのも、

 注意されないのも、

 変な感じ」


「村としては、

 普通の対応です」


「そう」


エリシアは、床を見つめる。


「……視線だけは、ある」


「ありますね」


「話しかけない。

 近づかない。

 でも、

 見てる」


言葉が、少しだけ荒れる。


「それが、

 一番、腹が立つ」


「でしょうね」


エリシアは、鼻で笑った。


「家なら、

 必ず言われる」


「何を、ですか」


「全部」


短く言う。


「やったこと。

 やらなかったこと。

 やるべきだったこと」


指先が、床を叩く。


「評価されないって、

 こんな感じなのね」


「消えたみたい、

 ですか」


一瞬、エリシアの動きが止まった。


「……そう」


小さな声。


しばらく、何も起きない。


外で、人の足音がする。

誰かが通り過ぎて、

また音が消える。


「ねえ」


エリシアが言う。


「もし、

 迎えが来たら」


「はい」


「私は、

 昨日のこと、

 説明しなきゃいけない」


「でしょうね」


「……上手く言えない」


俺は、すぐには答えなかった。


「言えない時は、

 無理に言わなくていいです」


「それで、

 通る?」


「通らないと思います」


即答する。


エリシアが、少しだけ笑った。


「正直ね」


「評価される場では、

 正直が一番危ないです」


「……知ってる」


エリシアは、壁に背を預けた。


「でも、

 何も言えないまま戻るのも、

 嫌」


「分かります」


それだけで、

十分だった。


エリシアは、しばらく考えてから言う。


「ここでしてること」


「はい」


「全部、

 “練習”だと思えばいい?」


「ええ」


「何の?」


「自分の状態を、

 壊さずに終わらせる練習です」


「……変な言い方」


「褒め言葉として受け取ります」


エリシアは、鼻で笑った。


それ以上、話は続かなかった。


それでよかった。


この時間に、

意味づけはいらない。


外では、

村の一日が、

昨日と同じように進んでいる。


ここだけが、

少し違う。


それだけで、

十分だった。


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