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自分だけが正しいとは限らない

昼過ぎ、倉庫の前は静かだった。


村人たちは、エリシアを見ると、

必要以上に距離を取る。

声をかけない。

目も合わせない。


正確には――

合わせないようにしている。


(うん、これが普通だ)


貴族だ。

しかも、魔力が不安定。

関わらないのが一番、という判断。


問題は――

エリシアが、それを良しとしなかったことだ。


「……ねえ」


突然、エリシアが声を上げた。


近くで穀物袋を運んでいた男が、

びくっと肩を跳ねさせる。


「あなた」


男は、ゆっくり振り向き、

深く頭を下げた。


「は、はい。

 何か……ご用でしょうか」


声が硬い。

視線は、地面。


(あー……)


エリシアは腕を組み、

一歩前に出る。


「さっきから、

 私のこと避けてるでしょ」


男の喉が鳴る。


「い、いえ。

 そんなことは……」


「嘘」


即断。


「全員そうよ。

 視線、声、動き。

 分かりやすい」


(頼むから、突っ込まないでくれ)


内心で祈るが、

エリシアは止まらない。


「言いたいことがあるなら、

 はっきり言えばいいじゃない」


男は、完全に固まった。


言えるわけがない。

貴族に対して、

本音を言える村人はいない。


沈黙が落ちる。


周囲の空気が、

一段、重くなる。


「……何も、ございません」


男は、絞り出すように言った。


「それなら、

 なんで誰も話しかけないの」


「それは……」


言葉に詰まる。


エリシアの魔力が、

ほんのわずか、揺れた。


俺は、すぐ横に出る。


「エリシア」


低く呼ぶ。


「今は、

 答えを求める場じゃない」


「……逃げてるだけでしょ」


「違います」


即答する。


「守ってるだけです」


エリシアが、こちらを見る。


「何を」


「自分と、

 あなたを」


一拍。


エリシアは、唇を噛んだ。


「……私が怖いって言うの?」


「はい」


躊躇しない。


「それと同時に、

 傷つけたくないとも思ってます」


男は、

頭を下げたまま動かない。


逃げ場がない。


エリシアの拳が、

ぎゅっと握られる。


「……最低」


誰に向けた言葉か、

分からない。


「正直に言わないなんて」


「正直に言えない立場もあります」


「貴族だから?」


「はい」


沈黙。


エリシアは、

何か言い返そうとして――

やめた。


代わりに、

穀物袋を指さす。


「じゃあ、それ」


男がびくっとする。


「私が持つわ」


「えっ、

 い、いえ!

 とんでもありません!」


慌てて否定する。


「触らせるなんて――」


「命令よ」


ぴしりとした声。


魔力が、

わずかに圧を帯びる。


(あ、これはまずい)


男は、

青ざめたまま袋を差し出した。


エリシアが、それを持ち上げる。


一瞬――

顔が歪む。


重い。

予想以上だ。


(無理するな……!)


俺が口を開く前に、

袋が、落ちた。


どさり、と鈍い音。


穀物が散らばる。


沈黙。


男は、慌てて膝をついた。


「も、申し訳ありません!!」


謝っている。

落とした本人ではないのに。


エリシアの顔が、

真っ白になる。


自分がやらかしたと、

一瞬で理解した顔だ。


魔力が、

ぐらりと揺れる。


俺は、すぐ前に出た。


「大丈夫です」


低く、短く。


「誰も、

 責めてません」


男の方を見る。


「下がってください」


男は、何度も頭を下げて、

後ずさるように離れた。


残ったのは、

散らばった穀物と、

唇を噛みしめるエリシア。


「……最悪」


震える声。


「だから、

 関わりたくなかったのよ……」


(これだ)


村人は悪くない。

エリシアも、悪意はない。


でも、

力の差が、全部を壊す。


俺は、穀物を拾い始めた。


何も言わずに。


エリシアも、

しばらくしてから、

黙ってしゃがみ込む。


二人で、

黙々と拾う。


誰も、近づかない。


遠巻きに、

視線だけが集まる。


「……カイ」


小さな声。


「私、

 またやった?」


「はい」


正直に答える。


「でも」


手を止めずに言う。


「わざとじゃない」


エリシアは、

何も言わなかった。


村の空気は、

穏やかなままだ。


だからこそ、

余計に、痛い。


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