嵐は突然、出会いは唐突に…④
エリシアは、思ったより素直に――いや、素直というより、雑に俺を連れていった。
「ついてきなさい」
命令口調。
疑問形ゼロ。
拒否権は最初から存在しない。
(あ、これ完全に“使う”扱いだ)
俺は内心でそう思いながらも、黙って歩き出した。
断る理由がない。というか、断ったら面倒が倍になるタイプだ。
向かった先は、村外れの空き家だった。
人が住まなくなって久しいらしく、壁は少し傾き、窓も一枚欠けている。
「……ここ?」
「そう」
エリシアは即答した。
「人がいない。
うるさくない。
視線もない」
(……意外と観察してるな)
建物の中に入ると、空気が一段落ち着いた。
広場のざわめきが、嘘みたいに遠い。
エリシアは部屋の中央に立ったまま、腕を組む。
「で?」
「で、とは」
「ここならいいって言ったでしょ。
あんたの理屈だと」
(ちゃんと聞いてたんだな……)
俺は周囲を見回した。
床は硬い。
椅子はない。
光は、窓からの自然光だけ。
「まず」
俺は言った。
「立たなくていいです」
「……は?」
「立ってると、
それだけで身体に力が入ります」
エリシアは怪訝な顔をしたが、
少し迷ったあと、壁際に腰を下ろした。
その瞬間、肩の位置が、ほんの少し下がる。
(やっぱり)
「……なんで分かるのよ」
「分かります」
即答する。
「さっきから、
肩が上がりっぱなしだったので」
「……気持ち悪い」
(よく言われる)
「じゃあ、
魔力、出してみなさいよ」
挑戦的な目。
「制御できなかったら、
やっぱりあんたの理屈は嘘ってことで」
(試されてるな)
「いいですよ」
俺は頷いた。
「でも、
“出そう”としなくていいです」
「……意味分かんない」
「分からなくていいです」
俺は、床に落ちていた木片を拾い、
エリシアの前に置いた。
「これ、見てください」
「木切れ?」
「はい」
「……?」
「今は、
それ以上、何もしなくていい」
エリシアは、完全に意味不明という顔をしている。
「ふざけてる?」
「大真面目です」
数秒。
沈黙。
そして、変化は突然だった。
空気が、わずかに震えた。
さっきのような暴力的な揺れじゃない。
小さく、控えめな波。
エリシアが、目を見開く。
「……出てる」
声が、低い。
木片の表面が、淡く光っている。
派手さはないが、確かに魔力だ。
「……なんで」
「条件が、良くなったからです」
「それだけ?」
「それだけです」
エリシアは、しばらく木片を睨みつけていた。
怒っているのか、混乱しているのか、判断がつかない。
やがて、ぽつりと言った。
「……私、
ちゃんとやってなかったわけじゃないのね」
その言葉は、
自分に言い聞かせるみたいだった。
(ここだな)
「ええ」
俺は、はっきり答えた。
「むしろ、
やりすぎてました」
エリシアは、ゆっくり息を吐いた。
「……嫌な感じ」
「よく言われます」
「そうじゃなくて」
視線を上げる。
「今まで、
全部、私のせいだと思ってたから」
沈黙。
俺は、あえて何も言わなかった。
こういう時、
慰めは邪魔になる。
「……カイ」
初めて、
名前をそのまま呼ばれた。
「これ、
一回だけじゃないわよね」
「はい」
「また、できる?」
「条件が同じなら」
肩をすくめる。
「再現性はあります」
エリシアは、少しだけ笑った。
ほんの一瞬。
でも、確かに。
「……じゃあ」
立ち上がり、こちらを見る。
「逃げたら殺すから」
(物騒だな)
「善処します」
こうして俺は、
魔法貴族令嬢の“再現性担当”になった。
魔力ゼロで。
立場もなく。
完全に成り行きで。
――やっぱり、ろくな未来が見えない。
でも。
今度は少しだけ、
面白くなりそうな予感がしてい




