嵐は突然、出会いは唐突に…③
「……名前」
少女が言った。
「いい加減、名乗りなさいよ。
無能」
(あ、無能は継続なんだ)
俺は肩をすくめた。
「カイです。
カイ・レインハルト」
「……平民ね」
即断即決。
さすが貴族。
「はい。
どう足掻いても」
「ふん」
少女は短く鼻を鳴らした。
「私はエリシア・フォン・ヴァルグリム」
来た。
(重いな……名前が)
「ヴァルグリム家?」
思わず復唱すると、
エリシアの顎がわずかに上がる。
「知らないとは言わせないわよ」
「ええと……」
正直に言おう。
「辺境育ちなので」
一拍。
エリシアが、信じられないものを見る目で俺を見た。
「……本当に、
何も知らないのね、あんた」
「そういう才能は、ありません」
「才能って言うな」
(理不尽)
エリシアは、ゆっくりと立ち上がった。
さっきより、足取りが安定している。
「……で」
こちらを見る。
「カイ。
あんた、さっき言ったわね」
「どれでしょう」
「“できない理由が分かる”って」
空気が、少し張る。
「……ええ」
「それ、
私にも当てはまるの?」
その問いには、
少しだけ慎重になる必要があった。
「全部じゃありません」
正直に言う。
「でも、
“今ここで苦しくなってる理由”なら」
一歩、間を置く。
「多分、説明できます」
エリシアは、唇を噛んだ。
「……じゃあ、言いなさいよ」
挑発の形をしているが、
声は強くない。
「どうして私は、
こんな簡単なことすら、
できないのか」
(簡単じゃないんだけどな)
心の中でツッコミながら、
俺は地面を指した。
「まず一つ」
「何よ」
「ここ、立たされすぎです」
「……は?」
「立って、
周りに囲まれて、
見られて、
音を浴びて」
俺は指を折る。
「その状態で、
魔力を制御しろって言われても」
エリシアの眉が、ぴくりと動く。
「……無理でしょ」
言い切ると、
彼女は言葉を失った。
「……それ、
誰も言わなかった」
「でしょうね」
「才能がないって言われただけよ」
(いつものやつだ)
「エリシア」
初めて、名前を呼ぶ。
彼女は一瞬、目を見開いたが、
咎めなかった。
「あなた、
才能がないんじゃない」
少し、言葉を選ぶ。
「条件が、全部最悪なだけです」
沈黙。
風が吹く。
でも、さっきみたいに、
魔力は跳ねなかった。
エリシアは、ゆっくりと息を吐く。
「……それ」
小さな声。
「本当に、
変えられるの?」
俺は、少し考えてから答えた。
「一気には無理です」
「……」
「でも」
視線を合わせる。
「座る場所と、
音と、
人との距離くらいなら」
肩をすくめる。
「魔力ゼロの俺でも、
なんとかできます」
エリシアは、
しばらく俺を睨んでいた。
そして、
小さく言った。
「……じゃあ」
間。
「しばらく、
あんたを使ってあげる」
(あ、そう来たか)
内心でため息をつきながら、
俺は頷いた。
「光栄です」
こうして俺は、
魔法貴族の問題児に、
正式に目をつけられた。
――ろくな未来が見えない。
でも、
面倒な相手ほど、
分かりやすい“困りごと”を抱えている。
そのことだけは、
経験上、よく知っていた。




