魔力が使えない理由は、だいたい説明できる
「――判定、魔力不適合」
水晶玉が淡く光り、淡々と告げた神官の声を聞いた瞬間、周囲の空気が一段冷えた。
ざわり、とざわめく村人たち。
その中心で、俺は棒立ちになっていた。
……ああ、なるほど。
この世界でも、そういう扱いか。
「魔力量、測定不能。攻撃魔法・治癒魔法、ともに使用不可。残念だが……」
神官はそれ以上言わなかった。
言わなくても分かる。「使えない」「役に立たない」「将来性なし」。
現代日本で、何度も見てきた目だ。
(懐かしいな)
そう思ってしまった自分に、内心で苦笑する。
俺は――前世では、作業療法士だった。
小児分野。発達障害。
「できない」と判断される子どもたちを、山ほど見てきた。
そして今。
異世界転生した結果、俺自身が「できない側」になったらしい。
「次」
神官に促され、俺は測定台から降りる。
視線が突き刺さる。
哀れみ、失望、興味、そして少しの優越感。
(……この感じ)
評価される前に、結論を出される。
理由は説明されない。
できない=終わり。
うん。
やっぱり、どの世界でも構造は同じだ。
「おい、見ろよ。あの子」
「魔力ゼロだって」
「生きていけるのか?」
ひそひそ声が耳に入る。
だが、俺の注意は別のところに向いていた。
測定の順番を待つ、村の子どもたちだ。
――じっと立っていられない子。
――杖を持つ手が震えている子。
――詠唱を口にする前に、顔をしかめる子。
(……多いな)
多すぎる。
この世界では、魔力測定は六歳で行われるらしい。
つまり、今ここにいるのは、発達の個人差が一番出る時期の子どもたちだ。
そして彼らは、全員同じやり方で測られている。
・同じ高さの台
・同じ大きさの水晶
・同じ詠唱
・同じ姿勢
(雑だな)
思わず、そう評価してしまった。
「ほら、ちゃんと立て!」
親に怒鳴られて、男の子がびくっと肩を震わせる。
杖を握る指が強張り、力が入りすぎている。
結果は見なくても分かる。
案の定、水晶は光らなかった。
「……魔力不安定」
神官の声に、男の子は俯いた。
親は唇を噛みしめている。
(あー……)
これはもう、職業病だ。
俺の頭の中では、勝手に評価が始まっていた。
・姿勢:不安定
・握り:過緊張
・視線:水晶ではなく親の顔
・緊張:過多
(魔力が出ないんじゃない。出せない条件が揃ってる)
次の子も、その次の子も、似たようなものだった。
「……この村、魔力不適合が多すぎないか?」
思わず口に出すと、隣にいた大人が怪訝な顔をした。
「仕方ないだろ。才能がないんだ」
「違います」
即答だった。
自分でも驚くほど、はっきりした声が出た。
「才能の問題じゃないです」
周囲の視線が集まる。
神官が眉をひそめた。
「君は……先ほどの、不適合者か」
「はい。そうです」
不適合者。
いい響きじゃないが、慣れている。
俺は一歩前に出て、測定台を指さした。
「この測定、条件が悪すぎます」
「……何を言っている」
「まず、台が高い。足が浮いてる子がいます。
次に、杖が細すぎる。握れない。
詠唱は長い。順序も複雑。
それで緊張状態。結果、魔力が安定するわけがない」
一気に言うと、場が静まり返った。
神官は呆れたように鼻を鳴らす。
「言い訳だな。魔力は才能だ」
「いいえ。魔力は出力です」
思わず、前世の癖が出た。
「出力には、身体と環境が必要です。
今は、その設計が合っていないだけです」
「……では君に聞こう。不適合者」
神官は冷たい笑みを浮かべる。
「君なら、この子たちをどうする?」
俺は、少しだけ考えてから答えた。
「まず椅子を用意します。
足が床につく高さで。
杖は太くします。
詠唱は三分割。
順番を視覚化します」
神官だけでなく、村人たちもぽかんとしている。
「……それで?」
「それで、魔法は出ます」
断言した。
根拠?
山ほどある。
俺は、そういう仕事をしてきた。
「馬鹿馬鹿しい」
神官はそう言ったが、完全には否定しきれない顔だった。
(分かるだろ?)
この世界の魔法は、あまりにも定型発達向けだ。
はまる人には、強烈に機能する。
はまらない人は、最初から排除される。
「この世界、設計が雑なんだよ」
ぽつりと、独り言のように呟いた。
魔法が使えない理由?
だいたい説明できる。
問題は才能じゃない。
世界の方が、調整されていないだけだ。
そして俺は――
この世界で初めて、
作業療法という概念を持ち込む人間になる。
異端だろうと、無能だろうと構わない。
できない理由を説明できるなら、
できる形も、作れる。
そういう仕事を、俺はしてきたんだから。




