表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/10

第8話: 女神様大ピンチ!そこで怪しいオッサン登場

帰ってから日曜日までわたしらは妙なラッキーが続いた。

近所の農家のおばちゃんからいきなりタマネギをもろたり、漁業の兄ちゃんからハモをもらったりして、おかげで日曜日の晩飯はハモスキやった。

なんなら週明けの今日もラッキーが続き、課長になんかしらんけど褒められたり後輩はめっちゃ仕事を手伝ってくれて、さぁ今日は定時上がりやと思ったその時、

「すまん!小路さんか田島さんはおらんかね!」

県民局に急に飛び込んできた人がいた。

よく見ると先週のお爺ちゃん、イザナギさんやった。わたしらはびっくりしてイザナギさんに駆け寄る。

「どないしはったんですか!?こんな遠いところまで!」

「そうだよ!汗びっしょりじゃない!」

イザナギさんは息を切らしていて、わたしらが体を支えて椅子に座らせて汗を吹くと、徐々に落ち着いて話し始めた。


「娘が急に来て…ずっと泣いてばかりで訳を聞いても首を横に振るばかりで答えてくれんのじゃ…息子と嫁は今、熊野に行っておって来れんでの…すまぬが助けてくれんか?」

これはエライこっちゃ!あの美しいアマテラスさんが泣いてるところ見てみたい…やなくて!日本の神様の社長的ポジションのアマテラスさんが泣いてはったらヤバいやん!

わたしらは慌てて自凝島(おのころしま)神社まで行くことにした。

神社について神界に入ると、アマテラスさんがさめざめと泣いている。

わたしらはそばに行くと、彼女を抱き起こそうとした。

「どないしはったんですか?こんな格好で…」

彼女は巫女服を着ていて、足が砂まみれになっていた。外を裸足で歩いて来たんやろか?

彼女はわたしらに気づくと涙目のまま見上げてくる。

やっぱりキレイ…泣いてる姿まで絵になるわぁ…彼女はわたしに抱きついてくると、堰を切ったように号泣した。

「あ…夏菜ちゃん、美紗ちゃん…う、うわぁん!わたくし、もうあんなところに帰りたくない!お母さん!おかぁさーん!」



「はい、アマテラスさん、これ途中で買って来たお茶だけど…」

とりあえず、アマテラスさんの足を拭いて布団に寝かせると、田島がお茶を淹れて持って来た。

「あんた、ようお湯沸かせたな?」

「え?うん、なんかね、ポットがないかな〜って思ってたら、急に目の前に出て来て、熱々のお茶が入ってたよ?」

なにそれ?まぁ細かいことは気にせんとこ。

田島がアマテラスさんにお茶を飲ませようとする間も、彼女はしっかりウチにしがみついて離れへん。よっぽど怖い目にでも合うたんかな?でもこの人が怖いと思うことって?


「どないしたんですか?・・・手、すごい汗ばんでますよ、なんか震えてるし・・・」そういうと、彼女は無言で何回も頷く。その間もポロポロと涙が流れた。

「アマテラスさん、あーしらじゃあんまり役に立たないかもだけど・・・」田島が反対側からそっと抱きしめると、徐々に呼吸が落ち着いてくる。

「夏菜ちゃん、美紗ちゃん・・・ありがとう。もうちょっとこのままでいさせてね?二人はあったかいね・・・」


しばらくしてアマテラスさんが泣き止むと、お茶を飲みながらここに来たわけを話してくれた。

「え?結婚?いや神婚?なんですかそれ?」わたしが聞くと、アマテラスさんはぞっとしたのかもう一度田島にしがみつく。えーなぁ・・・美少女のアマテラスさんと同じく美人の田島が抱き合ってるのが尊すぎてご飯が何杯でも行けそう。あ、いやいや、そうやなくて神婚ってなんですか?イザナギさんに聞くと、彼は驚きのあまり湯呑を落っことした。

「なんじゃそれは・・・もしや、やつらはお前をどこぞの男と夫婦にさせようとしたのか?それともよその国の神?」しかし、アマテラスさんはううんと言って首を横に振る。

「何か・・・今まで見たこともないようなおぞましくてヌメヌメとした霊獣のようなものでした・・・わたくし、最初意味が分からなくて・・・神職にそれは何?って聞いたら、その者が何度も申し訳ありませんって泣いて謝ってて・・・そのあとにこの国の与党の重鎮とか言う人がやって来て、コレと契りを交わして夫婦になればあなたは完全になって、ものすごい力が得られるとか、これでこの国は安泰だとか、隣国も海の向こうの大国も怖くないとか言ってゲラゲラ笑いだして・・・」そういう間も彼女はときどき涙を流したが、田島がしっかり抱きしめて髪を撫でて慰めてたから、一応大丈夫そうだった。

「そしたらその気持ち悪い化け物が、同じようにゲラゲラ笑いだして、俺とまぐわえ!おれの子を産むんだ!力ある神、夜叉、天魔!いくらでも孕ませてやる!って言って近づいて来て・・・醜悪な男の顔がその化け物にいっぱいついていて・・・わたくし、怖くなって天鳥船(あまのとりふね)で逃げて来たの・・・逃げる私に向かって、与党の重鎮の人があなたは力を失った、これを受け入れなければこの国は終わりだ・・・とかいって罵って来て・・・」


「なんじゃそれは・・・おのれ!あいつらめ!嘘を捏造するだけでは飽き足らず、我が娘を自分たちの欲望の生贄にしようとは!許せん!皆殺しにしてやる!痛ててっ!ぎっくり腰が・・・!」イザナギさんはそう言って、壁に掛けてあった剣を取ろうとしたけど、急に立ち上がろうとして腰を痛めてもうた。

そんなとき、玄関がリンリンとなって、いきなり大きな声がする。


「ご隠居はん!ごめんやっしゃで!ワシです!太子です!なんやメッチャ一大事やって聞いたよって、天王寺から飛んできました!姫はいてはりまっか!?」

なんやなんや、いきなりガラの悪いオッサンの声がするで。わたしは玄関にいくと、かりゆしを着てグラサンをかけた耳の長いおっちゃんが扇子で顔を扇いでた。


「お?なんや嬢ちゃん、みなれん顔やな?あたらしい巫女さんけ?まぁそんなんええわ。イザナギのご隠居はんいてはるやろ?ちょっと通さしてもらいまっせ・・・ん?なんや自分、ワテの親戚筋か?名前なんちゅうねん、出身はどこや?」

なんやこのオッサン、会うたばっかしやのにずけずけと・・・めっちゃガラが悪いし・・・ん?っていうかこのガラの悪さは馴染みがあるような懐かしい様な・・・?

「おっちゃん、ひとの名前聞くんやったら、まず自分から言うんがスジちゃうんけ?ウチ、小路夏菜子、大阪の太子町出身で、むかーしから叡福寺の檀家やねんけど、どっかで会うたことない?」


「お・・・嬢ちゃんエライ言うやんけ!気に入ったわ・・・って、オマエ叡福寺の檀家か!いや~おおきに!おおきに!ワシなぁ、お前らがワシと、ワシの嫁はんと、お母ちゃんの墓守してくれてんのホンマにありがたい思うて・・・いや~そやけど、こんなデジタルの時代に自分みたいなワイルドかつ野蛮な娘おるんええわ~!この国の未来明るい!いや、いまはそんなん言うてる場合ちゃう。ここにおるちゅうことはだいたいわかっとるやろ?アマテラスさん来てへんか?ちょう、一大事やで!」


マジ!聖徳太子はんやて!?えーめっちゃ嬉しい!うちら太子町の『身内』も同然やん!まぁな、なんぼ法隆寺がなんやらとか天王寺がなんやらとか言うても、奥さんとお母ちゃんと一緒に眠ってんのはうっとこやさかいな!

わたしは思わず飛び上がりそうになったけど、なにしに来はったんか分かったから、すぐ太子さんを奥に通した。


お読みいただきありがとうございます。


「力ある神、夜叉、天魔」――。

人間の欲望が生んだ歪な化け物に、アマテラス様が追い詰められるシリアスな展開でしたが、最後は「最強に明るいオッサン」が全部持っていきましたね(笑)。


泣いている女神様を救うために、頼れる(そして声のデカイ)おっちゃんと・・・えー、おねえさんたちが動き出します。

次回は、いよいよ作中最強のチーム「関西神仏ライオンズクラブ」の顔合わせです。


誰がやってくるのか、ぜひ予想しながらお待ちください!

感想やブックマークもお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ