第50話: 空っぽっていうのは直霊が無いから?それで直霊が出来るには愛の激突が必要っていう、だいぶ恥ずかしい話
「まぁまぁ!ご老体、そないなこと言うたらワシも一緒なんやから!仏教でこの国どないしようて言いだしたんワシでっせ!そのー……あれや、今は見逃し経ってくれまへんか?」
おっちゃんが真魚さんを庇うのもむなしく、ひい爺ちゃんは「ちゃう!」と否定する。
「ウマくん、自分はええんよ!天孫共の間違いをどないかリカバーでけへんか?って思って、仏教とか儒教に正面から向き合って、ガンちゃんが智慧を与えた女人のことも調べてくれたやんか!それで出来たんが十七条憲法やんか!それはワシ、立派なことやて思うで!せやけどこのワルは、ただ『密教マジおもろい!』とか言うて日本中ひっかきまわした挙句に、ワシら地霊の許可も無くそこら中に自分らの霊場作ってもて!小角はんとえっらい違いや!あのお人は、神々への信仰を通じて民衆が仏の教えに触れられるように工夫しはったからこそ、ワシらもごっつリスペクトしとったけど、コイツはホンマに!」
「ちょっと!待ってください!あーし、真魚さんが何したのかは分かんないけど、その、不変のものってなんなんですか!?天孫の間違いとか、芯がないとか、空っぽとか……ぜんぜん意味わかんないよ……あたしたち、そんなに間違ったことしてる?」
突然、田島が皆を遮って大声を出すもんやから、それまでハイテンションやったひい爺ちゃんも、ビビってた真魚さんも、面白がってたお祖母ちゃんも、急にシーンてなった。
「あの……夏菜子ちゃん、この子誰?」ひい爺ちゃんに聞かれてウチは田島を紹介する。
「この子は田島美紗。ウチの職場仲間で兵庫県の公務員や。東京出身で、なんかトヨウケヒメって言う人の化身?分霊が入ってるとかなんとかやねん。」
そういうと、ひい爺ちゃんは怪訝な顔をして首を傾げる。
「なぁガンちゃん、トヨウケちゃんって、こんな感じやったっけ?一応ワシの姪やし、何遍も会うてるけど……お母はんの氣だけから化生してたら、もっと大地の氣が強いんやけど……」
「お父さん、化身なんてそんなもんですよ?何代も経ってるから、わたしら神の方が特に顕現しようて思わんかったら分霊もちょっとしかないんやし。」
なんか、二人の会話の意味は分からんけど、ひい爺ちゃんは「まぁええわ」ていうと、おっちゃんの方を向いた。
「とりあえず、そのインチキ坊主をとっちめんのは後や。この嬢ちゃんが訊いたことをきちんと確認しとこ。ウマくん、ええか?」
「そうでんな……美紗ちゃん、ワシらが言うてんのは、早い話が、この日ノ本の神々と人は、イザナギとイザナミの交合によって生まれるべきやったんちゃうか?っていう事なんや。なんで、スサノオやオオクニヌシは民草に愛されとるのに、天孫はそうやないんや?なんで姐さん(八幡さん)は尊敬されとんのに、饒速日はんはあないにマイナーなんや?ニニギノミコトを祀ってる神社って、この国にどんだけある?逆に、えべっさんと八幡さんくらい多い神社って、お稲荷さん、道真のとこくらいしかないやろ?それってなんでやろうってことなんやけどな。」
「それは……知らないよ!あーしがそんなん知るわけないじゃん!」
「あぁ、ごめんごめん。もちろんそうや。ワシかて今気づいたとこやったし。たぶんやけど、こういうことちゃうか。この世界の創造神、まぁ日ノ本やったら造化三神っていうんやけどな。その神さんたちが宇宙を作った後に、この地球を作り、その後に命が生まれる。そして最後に知性体が生まれる。この最後に生まれた原初の人間が、イザナギはんとイザナミはんや。そして、そこから国が生まれ、神が生まれ、人が生まれる。つまり、神の創造の計画において、男神と女神の交合から生まれる命が、ほんまの命っちゅうことなんやろうが……えーとな、前にヒルコはんのところで、直霊の話したん、覚えてるか?」
そう言えば、おっちゃんがそんなこと言うてたかも?それがあったら物事が正しく判断できるとかなんとか。
「なんか、そんなこと言うとったね。で、それがどないしたん?」ウチが訊くと、おっちゃんは、あごひげを撫でながら「うーん」って言った。
「これはワシの予想やけどな、直霊は本来、イザナギはんとイザナミはんから生まれたもんにしか宿らんのとちゃうやろか?
「ん? 太子様、そいだばおかしいべ。スサノオ様は化生で生まれだんでねぇが? 化生で生まれだ神さ、直霊がねぇって言うんだば、なしてスサノオ様は、クシイナダ様ば助けだんだべ?」
「うーん、言われてみたらそやなぁ……ご老体、どない思わはります?」
「そやなぁ……ワシの実感としては、直霊って霊やん?文字通りな。ってことはやで、単にエッチしたよって直霊が出来るんやのうて、愛して、怒って、悲しんで、お互いの魂をぶつけ合う日々……ちゅうんが要るんちゃうか!?知らんけど!ワシも嫁はんとはずっとラブラブやけど、そら長いこと一緒におるさかい、ケンカもようするで~!」
「いや、ご老体が奥方とラブラブなんは知らんけど、ほいたらアレでっか?なんちゅうんやろ?イザナギはん、イザナミはんの連れ戻しに黄泉の国に行ったときに、イザナミはんとごっつケンカしてますやん?アレが関係してるとか?」
おっちゃんが訊くと、ひい爺ちゃんは「いやーそれもそうか知らんけど……」て言うた。
「あのー、イザナギ……親父が黄泉の国から帰ってきた時に、ワシ日向まで会いに行ったんよ。いやー、ビックリしたわ。親父とおふくろの家って自凝島、今風に言うたら淡路島やん?ワシが大三島……当時は御島って言うとったけど、そこで新しい津(港のこと)を造っとったら一羽の鶺鴒が飛んできてな。よう見たら、親父とおふくろの家におった奴やった。どないしてん?って聞いたら、「一大事や!おやっさんがエライことなっとる!」って言うやんか。ほんで、なんやそれ!どこにおんねん!って聞いたら、日向(宮崎)におるって!なんでそんな地の果てにおんねん、って思うたけど、とりあえずワシとガンちゃんが天鳥船で行ったら、親父が川べりでショボーンってなっててな。『親父!どないしてん!?』って聞いたら、ナミちゃん(イザナミさん)と喧嘩した……って言うてたなぁー……」
それを聞くと、お祖母ちゃんも「あー」と言った。
「なんか、イザナギ様言うてはったね……あないにイザナミ様が怒ってるって思わへんかったって。」
「怒ってた?イザナミさんが?」ウチが訊くと、お祖母ちゃんは「そうそう」っていう。
「なんか言うてたで……『ヒルコが生まれた時のことなんか、今になって持ち出さんでも』とか、『ホノカグツチの所為で死んだのに、アイツも私らの子供やとか意味が分からん』とか。『国造り終わってないのに』とか。」
「どないしたん?お祖母ちゃん、なんか怒ってる?」
「いやなぁ、ちょっとその時思ったんは、『え?気にするとこそこ?って』って……まぁでもそれはええねん。もうちょっと『うわーっ』て思ったんが、若い神さんがいっぱいおってな。わたしが『イザナギ様、この子らは何ですか?』って聞いたら、『あぁ、この子らは黄泉の穢れを清めたときに、その穢れから化生した神々だ。世話をしてやってくれ』って言われて……」
「どういうこと?その子のお世話が嫌やったん?」ウチが訊くと、お祖母ちゃんは首を横に振る。
「そうやなくて……なんかなー、穢れってなんなん?って思ったんよ。服も持ち物も何もかも放り出して、身体じゅうゴシゴシ洗って、顔も洗って……イザナミ様って、奥さんやん?奥さんに会いに行ったことを何もかも、無かったことにしようって思ってるみたいで、女のわたしから見たら「えっ?」って感じやったわ。せやけど……」
「せやけど?他にもなんかあったん?」
「うん、イザナギ様の言うことは、わたしはちょっとどうなんって思ったけど、化生で生まれた三人の子供……アマテラスちゃんとスサノオちゃん、ツクヨミちゃんはすっごい可愛かったわぁ~、まるで人間の赤ちゃんみたいやったなぁ~」
お祖母ちゃんは、そういうと、昔が懐かしいのか、遠くを見てニッコリ笑った。でもここで、おっちゃんが首を傾げる。
「石長比売はん、3人は化生で生まれたんでっしゃろ?……人間の赤子みたいってどういうこっちゃ?普通は化生で生まれた神は最初から大人やろ?」
そしたら、いままでジッと黙って聞いてた田島が「ちょっと」って言った。
「ちょっと聞いてて思ったんだけどさ……それが、スサノオさんに直霊がある理由なんじゃないの?さっきほら、オオヤマツミノの爺ちゃんが言ったじゃん?愛が大事って。イザナギさんが洗った穢れって、ひょっとして、イザナミさんの気持ちとか想いとか、そういんじゃないの?だから、それから生まれたスサノオさんや、姫は、ちゃんと二人の子供なんじゃない?……え?なに?そんな皆して見なくても良いじゃん……あーし、そんな変なこと言ってないっしょ!」
皆が、ハッとしたような顔で一斉に見たせいで、田島はもじもじと恥ずかしそうな顔をする……かっ……可愛い!!可愛すぎる!ギュってしたくなる!!
アレ?でもなんかおかしい。田島は確かに美人やし可愛い。せやけど、どー考えてもこんな場面でもじもじしたり、恥ずかしがったりするキャラやない!
なんか、ミョーに乙女チックや!ギャルや無くなってる!
(どういうことや……コイツ一体どないしてん……)て思ってると、おっちゃんが突然「それやっ!」って、膝を叩いた。
「なんか見えてきたでぇ!こういうこっちゃ!造化三神による真の『大和創造計画』っていうんは、原初の人間であるイザナギはんとイザナミはんから、国が、神が、人が生まれる!せやけど、アクシデントでイザナミはんが死んでしまわはった。
だがしかぁし!姫とスサノオは、化生やっていうても、二人の愛の激突から生まれた、謂わばホンマの二人の子供!けど、そっから先でスサノオと姫に差が出来てもうた!これをどないか辻褄合わせせなアカン!ほんで仏教やら、儒教やら修験道やら……っていうんがワシらのやってきたことちゃうんかい!どないねん真魚!」
こない言われて、振られた真魚さんが狼狽する。
「ちょ、オマエいきなり振んなや…‥っていうか、オレ発言してええの?……えーと、良いんですかね?大山津見神先生?」
うわ、真魚さんめっちゃビビってる。いったいホンマに何したんやろ?この人は。でも普段言うてることからしたら、ロクなことちゃう気がする。
第50話をお読みいただき、ありがとうございます!
さて前半、真魚=空海がやらかしにひい爺ちゃん(大山津見神)の説教が始ると思ったら、美紗ちゃんの疑問で話はマトモな方向に。
前回語られた「空っぽ」の中身は直霊があるか無いかでした。そういえば、そんな話が西宮神社で出てきましたね。読者の皆さん、覚えておられますでしょうか?
この直霊、単にお父さんとお母さんから生まれたらいいんだよ的な話ではなく、愛の激突、早い話が夫婦喧嘩するくらいの「魂のぶつかり合い」が無いとアカンらしく。
ときに、田島ちゃんはどうしちゃったのでしょう?
「こんな清楚な乙女やったっけ?」と親友の夏菜子が思うくらいの変貌ぶり。その謎はこの先明らかになるとして!
やたらハイテンションな太子のおっちゃんといきなり振られてビビる真魚さん!
次回、この国に仏教が入ってきた謎!お楽しみに!
引き続きよろしくお願いいたします!




